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【日々】胸いっぱいの夏|二〇二三年七月




二〇二三年七月十六日

 トイレにいきたくていつもよりずっと早く目が覚めた。おもえば、いつもより健全な時間にスッと眠れた気もする。うれしくてとりあえず珈琲を淹れる。きのう書いた文章の手直しなどしてみる。すでに部屋は暑い。汗ばむ。CD棚を夏めいたラインナップに差し替える。



 吉祥寺でふたりでランチ。暑さを言い訳にビール。早いうちに戻ってきたけれど、もうクラクラ。エアコンがじわじわ効いていくリビングでちょっとだけ午睡したら、「日記」の更新と原稿の手直し。こういうとちょっとものかき然としていていいな。

 夕暮れ、洗濯物をとり込む。気持ち悪い感じであったまっている。乾いているはずなのに、じめっと重い気がする。洗剤と柔軟剤、おひさま、そしてとれない汗のにおい。むかいのマンションではまだTシャツたちがゆれている。オレンジがさす。熱風が吹く。





二〇二三年七月十八日

 苦しみながら起きあがる。無惨に寝坊。アイスコーヒーでゆっくり頭を起こしていく。もうエアコンがついていてリビングは涼しい。お昼はカラフルなそうめん。

 クラクラするくらい暑いなか病院へ。心臓に大きな問題はなかった。けれど、特有のリスクは持っているらしい。先生はきょうもテキパキと、明快で、誠実だった。ひとまず様子をみるけれど、なにかあればここに相談に来ればいい。そんなふうに思える医者に出会ったのは初めてだったから、すこしうれしいし安心した。おやつを買って帰る。くたびれたので駅からはバスに乗る。

 なすは揚げ浸しに。鶏ももを焼いて、ねぎを刻んで香味だれにしてかける。かつおはきょうはちゃんと切れている。おもったよりお酒がすすんで、またひと瓶空いた。




二〇二三年七月十九日

 新宿からロマンスカーに乗り込む。車内に飛び交うことばで、日本語なのは車掌さんのアナウンスくらい。にぎやか。二回止まって定刻十分遅れ。小田原で乗り換えた東海道本線の車窓、緑の合間とおくにのぞく海。熱海から乗った、ちょっと浮かれた普通列車を泳ぐキンメダイ。



 伊東でおりたら、ずっと行きたかったおみせをたずねる。どきどきしながらあるく。



 わたしは純粋にこんなお店があってうれしくて、つづいてほしくて、だからそのために東京から旅することなんて何もおかしいことはなくて、でも迎える側がびっくりする気持ちもわかる。恩を着せたいわけでもなく、ほんとうに自然なことで。それを喜んでくれて、なにかの力になるのならよかったなと思う。胸いっぱいです、今日はもうお店閉めてもいいくらい……なんていってくださるその姿に、ことばにしがたいくらいしあわせなきもちになる。

 おすすめの喫茶店とか教えてもらったけれど、ぼんやり歩いているうちに帰る時間になってしまった。次来た時にいこう。あわててお土産をかいこんで、踊り子号に駆けこむ。お店を出てから、ずっと上の空だった。わたしもほんとうに、胸いっぱいになってしまって。



 なほさんのことは勝手に、ちょっと遠くにいる同志、くらいに感じている。わたしの「日記」を、読んでくれているひとがここにもいた。もし、これを本に仕立てるなら、「つぐみ」さんにおくに相応しい佇まいの一冊にしたいとおもう。こんなモチベーションの持ち方もあるんだ。ちゃんと、名乗っておいてほんとうによかった。




二〇二三年七月二十日

 ホームからみあげたビル群と空の蒼、雲のもくもくした白。木々のみどり。なんだか無性に、うつくしいとおもった。嘉代子さんの新譜が似合うな。



 夜、オフィスを出たら思いのほかさわやかな空気。おもわず「すずし〜」と声が出る。ビルの合間から覗く空は、にびいろの雲のむこうに深い宇宙の気配がして、奥行きがふかい感じがする。




二〇二三年七月二十一日

 家を出たらとなりの家の玄関にいた女の子が「こんにちは」とあいさつしてくれた。こんにちは。手まで振ってしまった。なんでこんなにご機嫌なんだわたしは。あーちゃんから教えてもらった、駅前にあるつばめの巣を見にいったけれど、もうもぬけの殻だった。元気に羽ばたいたのならうれしい。

 休憩時間に駅前のMUJIにいく。あしたのランチ用に、ふたりぶんの冷製カレーソースを買う。ついでに、オレンジのチーズケーキも。きょうのおやつ。お金使うことに慣れちゃわないようにしなきゃと思いつつ、このところすこし気が大きい。ニュースの見出しには「夏休み初日」の文字が踊る。そっか〜だから子どもたちが街をうろうろしてたのか〜と今更。なつやすみもへったくれもない身だけれど、そっか〜いま夏休みか〜っておもう。




二〇二三年七月二十二日

 起きたらもう午後になっている。トイレに行っても部屋をうろついてもあんまり頭が起きない。きのう買ったMUJIのカレーをふたりで食べる。生姜がきいていておいしい。夕方出かけるから、部屋の掃除くらいはしておきたいな……と思いつつ、うっかりまたリビングでうとうとする。

 ふたりで浜松町へ。おもったより暑くない。共通の友人と三人で劇団四季『ノートルダムの鐘』をみる。わたしはふだん観劇をしないし、無知無教養だから「四季」もお話自体もはじめて。人の出来すぎた、現実味のない人物ばかりのなかで、フロロー神父だけが場違いなくらいリアルに、生きて心のある人間だなって感じがした。三人で串カツを食べて帰る。生ビールを三杯。


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