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【小説】仮面霊媒師

 日本を震撼させた

「これだけじゃ終わらねえ」

 これが連続殺人鬼、宅間清(たくまきよし)が独房で残した最後の言葉だった。
 
    ◆

 クリーム色のカーディガン、白のカッターシャツ、黒のスカートを着た女子高生達が、校庭でバレーやバドミントンなどをして遊んでいる。眠気を誘う太陽光と、少し冷たい風が心地よい。

教室にいる女子高生達は、何組かのグループに分かれて昼食を摂る。その中に、二人だけのグループがあった。

「美穂知ってる?」

 薄い茶髪の女性有希が、向き合っている黒髪の女性に問いかける。

「何が?」

 長い黒髪に反して白い肌。丸い大きな瞳にぱっちりした二重。ふっくらした胸のせいだろうか。高校生のわりに大人っぽい雰囲気に包まれている。だが、どこかあどけなさが残っていて、可愛いとも美人とも、どちらにもとれる顔立ち。

「最近よく当たる占い師の話よ」

 有希はそう言って、弁当の卵焼きを口に運ぶ。

「知らない。私、占いとか興味ないし」

「本当に当たるらしいよ。駅前にあるらしくて、無料で占ってくれるらしいから、今度行ってみようと思うんだ。美穂も一緒に行こうよ」

「私はいいよ」
 

 美穂の言葉に「やっぱり」と言って肩を落とす有希だった。

「とは言ったものの来ちゃった――」

 陽は沈みかけ、カラスが鳴きながら美穂の真上を通り過ぎる。

 駅は北と南の二つの入口が。北側は幹線道路沿いで、コンビニ、レストラン、デパートなどが充実している。対して南側は商店街となっており、多くの人が賑わう。

 その南側の駅前には、古びた外見の小屋が二軒建ち並び、その内の一軒の入口のドアには【あなたの悩み、あなたの不幸を解消します】と書かれた張り紙が貼られていた。

「胡散臭い」

 ノックした後ドアノブを回し中に入る。照明がついていない暗闇の世界。入口のドアの隙間から流れ込んでくる、冷えた風が部屋全体に漂う。
 

 妙な緊張感に晒され、呼吸を整えながら一歩進むと、突然部屋の両隅に灯りがついた。ドミノ倒しのようについた蝋燭の火は部屋の奥へと誘う。その奥には、狐の仮面を被った白髪の人物と、空いている一つの椅子。

 美穂の心臓は飛び跳ねて、体を大きく震え上がらせた。

 どういう仕掛けになっているんだと疑問に思う間もなく、不安になるばかり。恐る恐るその人物に近付いていく。

「どうぞ。お座り下さい」

 テレビに出演している占い師の上から目線の口調とは違って、紳士的な若々しい男性の声に一瞬戸惑うが、スカートを押さえながら椅子に座る美穂。

「宜しくお願いします」

 美穂が頭を下げると、仮面を被った占い師も頭を下げて挨拶した。

「じゃあ名前からいきましょうか」

 美穂が名前を教えようとすると、占い師は「大丈夫です」と言って、テーブルの上に置いているペンを持ち、手元にある紙で文字を書き始める。美穂はその光景に戸惑う。美穂が今までにテレビで見た占いの手順と異なるからだ。

「これで合っていますね?」

 占い師は美穂に紙を渡す。そこには、魅神美穂(みかみみほ)という名前、そして○○○○年十月二十四日と書かれていた。

「えっ。嘘――」

「当たっていますよね?」

 ゆっくり頷く美穂。

「あなたは今日の昼休みに、友人と昼食をとっているときに私の話を聞いた。占いを信じていないあなたは興味本位で来ましたね? 悩みなどないように見えますし。まあこの占いは無料ですから、訪れる理由は自由です」

 美穂は目を大きく見開き、上手く言葉が発せられなくなった。

「あなたは興味本意で来たかもしれませんが、今日、私とあなたが会ったのは必然的なのです。そして、私があなたの未来を変えなければなりません。あなたは私の力を借りなければ、明後日には命を落としてしまいます」

 「えっ――どういうことですか!?」

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