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賢治先生の北海道修学旅行 農産物加工販売への関心

復命書本文

宮沢賢治が花巻農学校教師として、1924(大正13)年5月に、生徒を引率した北海道修学旅行復命書(出張報告書)について読み解いて参りました。

復命書本文はこちらです。


通して読むなかで、当時の賢治先生の考えがみえてきたような気がします。
そのひとつは、農産物加工、今はやりの言い方なら六次化にたいする高い関心です。
1918(大正7)年から続く第一次世界大戦後の不況により疲弊する農家、農村を救うために、農産物加工による売上げ増加、高付加価値化、農家所得増加をねらったものと思われます。

復命書から、該当部分をぬきだしてみます。

小樽でジャガイモ、穀物の加工

1924(大正13)年5月20日午前に、小樽高等商業学校(現 国立大学法人 小樽商科大学)を見学した際の記録です。ジャガイモや穀物を原料とした農産物加工品をよくみるよう生徒に注意を促しています。

(引用開始)
商品標本室にては粗なる農産製造品と精製商品との連絡に就て参考となるべきもの多く殊に独乙の馬鈴薯を原料とせる三十余種の商品見本、米国の各種穀物を炙熬膨脹せしめたる食品等に就て注意せしむ。
(引用終了)

車窓からスグリ

5月20日午後、小樽から札幌へ向かう列車の車窓から、スグリ(グーズベリー)が植えられているようすに着目しています。
スグリは生で食べるよりジャムなどに加工することが多い果物です。
北海道にはさまざまな作物があります。そのなかでスグリが目について、書き残すのは、農産物加工について関心が高かったからではないでしょうか。

(引用開始)
零時半小樽市一瞥を了り再び汽車に上る。
銭函附近 海色愈々勝る。南方丘陵地に美しく須具利を栽へたる耕地あり、今正に廐肥を加い耕耡行はる、農具、操作共に郷土に異り興多し。
(引用終了)

中島公園で温泉土産を考える。クルミのシロップ漬け、ミズのからし漬け、キクイモの混ぜご飯。

そして、なんといっても5月21日、札幌市の中島公園の植民館(拓殖館)では、地元観光業とコラボレーションした、具体的なお土産品の開発まで生徒に指導しています。

(引用開始)
他に本道物産を陳列するあり。
中に諸種農産製造品及所謂名物に関して町出身の生徒に注意す。蓋し花巻に独創的産物なく然も近時温泉地方の発達に伴ひてその需要大なるものあればなり。西伯利亜風の蜜漬の胡桃、みづの辛子漬、菊芋の富錦など製造さへ成らば販路更に大ならんのみ。
(引用終了)


シベリア風のクルミのシロップ漬け、ミズ(ウワバミソウ)のからし漬け、キクイモの混ぜご飯、と具体的で個性的です。本当に売れそうな気がして、作ってみたくなります。
温泉の発達に伴って、お土産品の需要が増大している、との分析は、さすが商家の息子、といったところです。

宮沢賢治と六次化というテーマは楽しく、実用的で、新しいビジネスにもなりそうで、興味深いと思います。

見出しのクルミの画像は、「茨城のカメラマン仲居」様からお借りしました。シロップ漬けにしても美味しそうです。


#宮沢賢治 #農産物加工 #六次化 #花巻農学校 #花巻温泉

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