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インドの砂漠の民を訪ねて|気候変動の影響で危機的状況にある遊牧民の生活

こんにちは。事務局長の小美野です。

CWS Japanでは、アジアの防災・減災の未解決課題に対して解決の糸口を見つけるためのイノベーション事業を行っています。その中の一つにインド西部のタール砂漠に住んでいる遊牧民に関するものがあり、2023年10月に訪問してきました。


タール砂漠の様子©CWS Japan

危機的状況に追い込まれている遊牧民の生活

事業地のラジャスタン州ビカネール(Bikaner)は、デリーから車で約9時間ほど西へ走ったところにあります。この地域は半乾燥地・乾燥地がほぼ全土を占め、有数の砂漠地帯です。そしてこの地には伝統的に遊牧民(羊やラクダを主に飼育しています)の方々が暮らしています。

現在、遊牧民の生活は危機的状況に追い込まれています。主な理由として以下の3点を学びました。

まず1点目は、気候変動によって気候の変化が読み取りにくくなってしまっていること。自然と共に暮らしているので、今までは風や空気の変化でいつ雨が降るかなど予測できていたそうですが、現在の気候は変化が激しすぎるそうです。雨が降ってほしくない時に降り、降ってほしい時に降らないなど、自然と共存してきたノウハウが生かし切れなくなっているようです。

ラクダの食事場所©CWS Japan

2点目として、砂漠の地の開発事業が挙げられます。
ラジャスタンでは砂漠の天気を利用したソーラーパーク(電気を事業者に転売する制度も始まっているそうです)、石こうの掘削、水路建設による農地の拡大などの開発政策が進んでいます。「開発」と言うと聞こえは良いのですが、遊牧民目線で見るとマイナス面も多くあるのです。

たとえばソーラーパークが設置されるとその土地はフェンスで覆われ、動物の行き来ができず、発電以外の用途がない土地となってしまいます。石こうの掘削も同様で、我々が目にした掘削現場は大きな谷ほどの穴ができており、こうなると地元の生態系を崩すことは明白です。水路に関しても、年中農業ができるようになる半面、商業化が進むと化学肥料に頼るようになり、土地の豊かさ(例えば有機農業で代々作った土は保水・保養能力も高いのです)が損なわれてしまいます。

また、以前は遊牧民のラクダなどの家畜が通り、草を食べ、種を運ぶことで生態系が維持されていました。ミツバチがいなくなると人間の食料がなくなると言われていますが、実はラクダなども同じ役割を果たしているんですね。

大規模な石こう掘削のあと©CWS Japan

そして3点目は、遊牧民自体が減っている中、動物用のワクチンなど、遊牧民に必要な施設・サービスへの投資がされないことです。

行政から見て優先度が決して高くなく、十分なワクチンや薬の提供もできていないのが現状です。気候が変化することで、新たな病気の危険性も増えていますが、それに対応できるようになっていません。

新たな取り組みを視察|遊牧民向けのサービスステーション

上記のようにとても大変な状況に追い込まれている遊牧民の窮地をなんとかしたいと立ち上がっている仲間たちがいます。

Urmulという現地の団体が取り組んでいることは、一言で言えば「遊牧民へのサービスステーションを設置する」というものです。我々が普段利用するガソリンスタンドをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません、移動ルートはある程度確立しているので、道中にサービスステーションを設けることで遊牧民の生活を支援しようというもので、加えて地元の人々が運営する事で持続性も担保しようとしています。

羊毛の仕分けをする女性たちの作業を体験させていただきました©CWS Japan

サービスステーションでは、たとえば羊毛を刈る機械もあり、羊毛を市場で販売できるよう、体制を整えています。

羊毛の値段は毛の長さや太さできまるそうですが、伝統的な手ばさみではなく、機械で根元から刈ることで収入も増えているようです。また、家畜へのワクチン・薬の供与や、牧草など必要な飼料もストックされています。そして、極めつけは家畜の生乳を収集し、低温保存しながら加工工場へ運ぶロジスティクス網も作っていることです。(ラクダの乳からチーズが作られ、販売されていました。臭みもなく、美味しかったです)

遊牧民のサービスステーションという新たなコンセプトは行政の目にもとまり、行政の予算による協働事例も生まれているようです。気候変動で従来からの予測が難しくなっている気候状態の中、世界ではたくさんの砂漠の民が暮らしているので、インドのこの事例はほかのコミュニティの参考になるかもしれません。そんな経験・ノウハウの共有もさらに進むよう、引き続き現地の仲間たちと取り組んでまいります。

(文:事務局長 小美野剛)

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