Chatworkの現在地と、BPaaSという未来
前回、「いま、Chatworkがメチャクチャ面白い理由」という記事を書きました。
前回の記事では、Chatworkが海外のテックジャイアントに負けることなく成長し続けており、毎年100人以上の増員を行なって、大きな赤字を出しながらも果敢にチャレンジしていることを書いています。
大きく資金調達しJカーブを描いて急成長していく、というのは未上場のスタートアップの専売特許のように思うかもしれません。
(※Jカーブ = 先行投資で赤字となるが、売上成長に伴いJの字を描いて黒字化すること)
確かに上場するとベンチャーキャピタルからの資金調達は難しくなりますが、個人投資家から機関投資家まで、国内・海外含めた圧倒的多数の投資家にアクセスすることができるようになります。
未上場では難しい数百億円規模の調達が可能だったり、ABB(Accelerated Book Building)のように投資家面談なしの"ほぼ1日"で数十億円を調達できるような手法があったり、自社株の価値を使ったM&Aなど、エクイティを使ったダイナミックな成長が可能なのが上場企業だと思います。
スタートアップの定義が高い成長率を目指す企業だとすると、上場しても高い成長率を目指す企業は、上場スタートアップと呼ぶべきかもしれません。
そんな上場スタートアップの1社がChatworkですが、今回の記事では前回の記事からさらに1年がたちChatworkが今どうなってるのか?という現在地と、新たに打ち出した「BPaaS」というコンセプトについて書いてみたいと思います。
Chatworkの現在地
2021年2月に開示した野心的な中期経営計画が、下記です。
2024年で「中小企業No.1ビジネスチャット」となることを目指し、ビジネスチャットのChatwork + 周辺サービスの「Chatworkセグメントの売上」において、2021年から2024年の4年間でCAGR40%成長(CAGR=年平均)を目指し、全社売上高100億円を目指すという計画です。(※つまり、4年間にわたって売上を毎年1.4倍にし続ける計画)
実は、この中期経営計画を出す前のChatworkセグメントの売上成長率は、2019年で+43%、2020年は+33%と、売上規模の拡大とともに成長率が落ちているような状況でした。。
当時、成長率が高い新規事業があるわけではなく、ここから成長を再加速させ、4年間にわたって+40%の成長を目指すという計画の困難さを、スタートアップ経営者の方であれば想像してもらえるのではないでしょうか。
いま現在、2023年8月での状況
つい先週、8月10日に2023年度 第2四半期の決算開示を行いました。2023年度は中期経営計画の3年目、折り返し地点を過ぎた後半戦です。
今回の決算開示における最大のポイントは、業績予想の修正でした。
2023年度のChatworkセグメント売上高の予想は、64.60億〜65.58億円で、成長率でいうと前年度比で +47.8%〜+50.1% となりました。
中期経営計画の目標と実績、そして今回の業績予想をグラフにプロットすると下図のようになります。青い点線が、CAGR40%のラインです。
見ていただけるとわかる通り、CAGR40%を上回るペースで成長させることができており、2023年度ではさらに成長角度を上げた実績を出すことができそうです。
Chatworkセグメント売上高の実績は下図です。
中期経営計画の発表以降、気持ちいい角度で伸ばすことができています。ここまでくれば、2024年度の達成も十分ターゲットに入ってきました。
ここに至るまでには、毎年+100人の増員、2件のM&A、初のTV CMの放映、複数回にわたるプラン改定などたくさんの施策を実施してきました。
下図が、従業員数の推移です。
従業員数は上場時の104人から、現在はグループあわせて400人超へ。以前はエンジニアなどプロダクトサイドの方が多かったのですが、現在ではセールスやカスタマーサクセスなどビジネスサイドの方がずっと大きな組織となりました。
もちろん、その分大きな投資をしてますので営業利益は下図のように。
上場時は2期連続の通期黒字から、2022年には通期で約7億円の営業赤字と大きく投資を加速させました。
赤字幅はまだ大きいものの、今回の決算開示では2023年度における通期でのEBITDA黒字と4Qでの営業黒字を業績予想としてコミットしており、売上成長と利益成長を双方加速させるフェーズに入ってきました。
決算説明資料では、いつも下図のような事業成長と利益のイメージを出して説明してきました。
そうです。まさにこの図の通り、ようやく未上場の頃から数えて2回目の大きなJカーブを登り切るところが見えてきたのです!
いやー、ほんと辛かった。。大きな投資をしても当然結果が約束されてるわけではなく、うまくいってなかろうが上場企業として四半期ごとに結果を開示しなければならないプレッシャーたるや、なかなかのものがありました。
瀕死から回復すると強くなるのがサイヤ人ですが、Jカーブを登り切ると次のステージに行けるのがスタートアップなのだと思います。
Chatworkが目指す、SaaSの次の潮流「BPaaS」
4年間の中期経営計画も終わりが見えてきて、次のステージとなる、新たな新・中期経営計画の準備に入っています。
Chatworkでは「中小企業No.1ビジネスチャット」のポジションを確立させ、その圧倒的シェアを背景にあらゆるビジネスの起点となる「ビジネス版スーパーアプリ」を長期ビジョンとして目指しています。
プラットフォームとしてのシェア拡大は十分に進んできているので、次の新・中期経営計画ではビジネスチャットの上につくりあげるビジネス版スーパーアプリ構想をどう実現していくかというフェーズに入ってきます。
その「ビジネス版スーパーアプリ」の中核を担うコンセプトがBPaaSです。
BPaaSとは Business Process as a Service の略で、アプリケーションの提供ではなく、ビジネスプロセスそのものを提供するクラウドサービスです。
クラウドサービスというと、IaaS、PaaS、SaaSがメジャーですがBPaaSはSaaSよりさらに上流のレイヤーをクラウド化する、次の潮流になると考えています。
「ビジネスプロセスそのものを提供」とは何かというと、いわゆる業務アウトソーシング(BPO)のことです。
要はBPO・外注なんだったら、何が新しいの?と思われるかもしれません。
SaaSも、コンセプトが出だした時にはアプリケーションの提供って前からあるし、何が新しいの?と言われていました。
SaaSのメリットはもはや言わずもがなですが、従来型のシステムインテグレーターによるシステム開発を置き換えていき、いまではDX実現において欠かせないサービスとなっています。
BPaaSも従来型のBPOを置き換えていき、ここから約5年ぐらいで、SaaSのようにDXを進めるすべての企業が利用すべきサービスとなっていくと考えています。
なぜいま、BPaaSなのか?
実は、2021年に中期経営計画を書いた段階ではBPaaSをやろうというイメージはまったくありませんでした。
Chatworkは、課題も市場規模も大きいが顧客単価が低く非効率な中小企業マーケットで、チャットという特性を活かして口コミのネットワーク効果で広がり、大きなシェアを持っている稀有なポジションにいます。(おそらく、最も中小企業で普及しているSaaSだと思います)
そのポジションを活かして当初思い描いていたプラットフォーム構想は、各種SaaSと提携しDXソリューションビジネスをチャット経由で効率よく展開していくことと、ビジネスチャットをオフィススイートのように拡張してマルチプロダクト化していくようなイメージでした。
しかし、実際に数年にわたって中小企業マーケットと向き合った結果、当初の想定とは大きく異なる現実がわかってきたのです。
中小企業のユーザーは現場仕事で忙しくITに詳しい社員も少ないため、いかにSaaSが安く・高品質であったとしても、使い勝手が異なる多数のSaaSプロダクトを使いこなしてもらうのは困難だということがわかりました。
ITスタートアップのような会社ではSaaSを多数併用することが当たり前になっていますが、URLも異なり、IDとパスワードも別、UIもUXもバラバラなSaaSを業務にあわせて何個も使い分けるなんて、よく考えてみると相当なITスキルが必要ですよね。。
では、中小企業市場のDXは無理なのかと諦めるわけにはいかず、考えついたのがSaaSの運用代行です。
要は、中小企業の方たちが自分でSaaSサービスを使いこなすのではなく、我々が業務ごと巻き取ってその裏でSaaSサービスを使いこなす(=BPaaS)ことでDXを推進させ、中小企業の方たちがコアビジネスに集中できる環境を提供したいと考えています。
例えば、食べ物が好きで飲食店をやっている方であれば、レシピ作りやお客さまへのサービス向上など、顧客の体験価値を高めるためのコアビジネスに多くの時間を費やしたいと思っているはずです。
しかし企業活動をしていく上で、必要な経理業務や社員への給与支払いなどの事務作業(=ノンコアビジネス)もたくさんあります。それぞれ担当者を採用し、教育、定着など様々な管理が必要となります。
そういった企業活動の中で、我々が提供する安価で高品質のBPaaSサービスを利用してもらうことで、安心して、より多くの時間をクリエイティブなことに費やすことができます。
そうすることで、付加価値が上がり、売上が上がり、コストが下がって生産性が向上していくはず。
このBPaaSの推進こそが、生産性向上が進まない中小企業市場の「本質的なDXの実現」につながっていくというところに、行き着いたのです。
中小企業に比べて大企業の生産性が高いのは、本社機能によってバックオフィスなどのノンコアビジネスを集約し、事業部門がコアビジネスに注力できていることが大きいと思います。
私たちChatworkは、中小企業全体の本社機能をBPaaSというコンセプトで担うことで、中小企業すべての生産性向上に寄与していくことを目指します。
私たちには、ビジネスチャットという強力なプラットフォームがあります。ビジネスチャットを通して、広く・効率よくBPaaSを展開していくことができるポジションにいるのです。
BPaaSというキーワードは当初知らなかったのですが、大手コンサルティング会社が大企業向けにBPaaSという言葉で数年前から同様のビジネスを展開しており、このコンセプトの中小企業版を目指そう!と私たちもこの言葉を使うようになりました。
SaaSとBPaaSの棲み分けとしては、SaaSは人口の16%を占めるイノベーター・アーリーアダプターという先進層が直接利用し、全人口の3分の2を占めるマジョリティ市場では、BPaaSを経由してSaaSを間接的に利用する世界観をイメージしています。(下図のイメージ)
BPaaSの提供イメージ
Chatworkで展開するBPaaSの提供イメージは、下図のようなものです。
BPaaSでは、給与計算や経費精算、日程調整や各種データ入力、健康診断の手配まで多様な業務タイプを受託することができます。
ビジネスチャット経由で依頼をいただければ、オペレーターが対応し、裏側のバックオフィス系SaaSを操作して対応していきます。
専門的な領域であれば、必要に応じて税理士・弁護士・社労士などの士業や各種コンサルタントとの連携を行い、ワンストップでのサービス提供が可能です。
そして、BPaaSの最大のキモは、この図における「自動化エンジン」の部分だと考えています。
SaaSが従来のオンプレミス型のシステムと大きく違うことは、クラウド上でサービス展開され、公開されたAPIがあることで他サービスとの連携が可能なことです。
業務の型にあわせてバックオフィス系のSaaSとビジネスチャットをAPIで連携させる「自動化エンジン」を構築することで、定型的な業務オペレーションを高度に自動化することができます。
旧来のBPOはサービス提供するために大人数のオペレーションスタッフを雇用する、典型的な労働集約型のビジネスでしたが、BPaaSではすべてがクラウド化されてることにより、圧倒的な自動化・効率化が可能なのです。
さらに将来的な可能性としては、AIの活用と非常に相性がよいのがBPaaSであると思っています。
ChatGPTに代表されるLLMベースの革新的なAI技術の進化によって、AIを使った高度な文書理解や多様なタスク実行が可能となりました。
この技術を活用することで、BPaaSにおいては顧客対応をAIによって自動化することや、オペレーターによるSaaS操作の自動化をAIが行うような活用が可能となるはずです。
従来のBPOが人の手による手動対応(Level 0)だとすれば、SaaSとAPIを活用する部分的な自動化がLevel 1、ここにAIが入ってくることによりAIの作業を人が補助していくLevel 2となり、最終的にはほぼすべてのオペレーションをAIとSaaSが実現していくLevel 3を目指していけると考えています。
車の自動運転のようになかなかすぐの実現は難しいかもしれませんが、ビジネスチャットやSaaSなどデジタルデータで制御できる領域が多いため、ChatGPTなどすでにある技術の活用だけでも相当レベルの効率化が可能だと思います。
こういった世界観が実現していけば、従来のBPOというイメージではなく、クラウド的にスケールするBPaaSという新しいクラウドサービスが展開していくイメージを持ってもらえるのではないでしょうか。
最後に
と、ここまでBPaaSを熱く語ってきましたが、これらはまだ将来的な構想段階でまだまだ理想のサービスイメージとは程遠い状況です。
ですが、まだ「ビジネスチャット」という言葉もない2011年にChatworkをリリースし、業界のパイオニアという形でビジネスチャット市場を切り開いてきたように、BPaaSという新しいコンセプトで新しい市場をここからつくっていくことにとてもワクワクしています。
引き続き、Chatworkはメチャクチャ面白いフェーズです。
このコンセプト、戦略に共感いただける優秀な方が続々と参画いただいており、強力な体制ができあがりつつあります。
しかし、中小企業市場全体をターゲットにしたBPaaSという壮大な構想ですので、まだまだビジネスも、プロダクトもコーポレートも足りないケイパビリティだらけです。
このBPaaSというコンセプトに共感していただける方、業務提携、資本提携(CVCあります!)などに興味がある方はぜひお声がけください!
直近の決算説明資料はこちら (2023年12月期 第2四半期)
ChatworkのBPaaSサービスを利用してみたい!という方はこちらまで
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この記事の前編となる内容が書かれています。本記事と合わせて読んでいただけるとChatworkの戦略がよくわかるかと思います。
中期経営計画の根本となる、ミッション・ビジョン・バリューについて。Chatworkが実現したい世界観や、組織の価値観などについてまとめています。中期経営計画とも当然、リンクさせています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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