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【音楽ファンインタビュー#6】CASIOPEA「MAKE UP CITY」「Mint Jams」(ぴろしさん)

半年前にインタビュー企画を思い立ったとき、少なくともこの方にだけは聞いてみたいと思っていました。
Fragrant Driveというアイドルグループがきっかけで知り合った、ぴろし(@watasatty)さん
関わりはFragrant Driveだけでなく、先日解散してしまったMuMo°(ミュウモード)というグループ(当時はタートルリリー)も教えていただきました。

非常に優しい方です。
息子さんほど年齢の離れた自分に対しても偉ぶることなく常に腰を低くして接してくださり、自分の書く拙いライブレポートの数々を多大なリスペクトを持って読んでいただきました。
音楽への知識は豊富でありながら、新しいものを吸収しようという意欲は凄まじいものがあります。
ある意味、オタクっぽくはない方かもしれません。
好きなものについて語るときこそ立て板に水ではありますが、喋りすぎではないか常に気にされていたのが印象的でした。
アイドル、とりわけライブアイドルの業界は一般的な通念や常識とされているものが通用しないところがあります。
本来であれば非常識は異物と判断されて排除されるはずなのですが、それがまかり通ってしまう。
極端な話、ついていけない者はライブハウスに来なくていいという雰囲気まであるのです。

ぴろしさんは子育てが一旦落ち着いた頃、コロナ禍の少し前に初めてこの世界に足を踏み入れました。
それゆえ、業界のいびつさに戸惑われることも多かったことと思います。
配慮や礼儀を重んじられるぴろしさんですから、相手のことを慮ろうとするがゆえに裏切られたときのショックも大きかったはずで、辛い気持ちになったことは一度や二度ではないはずです。
この記事には載せていませんが、インタビューやイベントの合間の雑談から苦悩は重々伝わってきました。
それでも、タートルリリーで辻菜月さんという一番の推しと巡り合い、解散するまでの3年半以上応援し続けられたことは、この上なく幸せなことだったろうなと思います。
辻さんがいたタートルリリー、MuMo°は良いグループでした。
「良い」という言葉には色々な意味が当てはめられますが、グループそのものに暖かさや優しさを感じたという点での「良い」ということです。
一方で生き馬の目を抜くこの世界、良いグループというだけでは定量的な評価がなかなかつきにくいものだなと感じてもいました。
これもまたライブアイドルの難しいところです。
だからといって、もっとこのグループが野心的で、他を蹴落とすような貪欲さを見せていたらよかったのかというとそうでもないのですが...
本来ならば8月12日の飛行船シアターでの解散ライブを見届けた上で、胸に湧き上がるこのような思いや感情をライブレポとして記録したかったのですが、自分の体調不良によりライブを見送らざるを得なくなってしまいました。


やや脱線してしまいましたが、ここからはMuMo°へ導いてくださったぴろしさんへのインタビューです。

音楽との関わりは深く、小学校1年生から2年ほどオルガン教室に通っていました。
中学生にかけてはある”事件”がきっかけでベースに目覚め、アマチュアバンドも組みました。
今でも時間を見つけては弾き続けています。
遺伝子を受け継いだのか、息子さんはドラム教室に通われているそう。
節目節目で耳にしてきた音は多岐にわたります。
記憶の引き出しを開けながら様々なアーティストの思い出を語っていただきましたが、中でもイチオシならこれ、と挙げてくださったのは、ぴろしさんの原風景ともいえそうなアーティストでした。
1977年に結成されたフュージョンバンド・CASIOPEAです。

息子さんが(恐らく)ぴろしさんの影響で一歳の頃からドラムの真似事をしていたように、ぴろしさん自身の音楽体験もご家族からの影響を大きく受けていました。

「親父がジャズ好きでオーディオマニアっていうのがあって。アメリカのジャズレーベルのブルーノートのレコードがいっぱいありました。Art Blakey & the Jazz Messengersの『Blues March』っていう曲が、覚えている限りでは一番最初に聴いた気がするんですよね。自分はビートの効いた曲が好きで、マーチ王・スーザの『星条旗よ永遠なれ』や『ワシントン・ポスト』がめっちゃ好きでした。メロディやリズムが気持ちいい。その後だんだん親父はフュージョンにハマっていったんですよ。渡辺貞夫さんとかネイティブ・サンとか。そのLPが家にあって、よく聞いていました。」

「親父だけじゃなくて3つ上の兄貴も本当に音楽というか洋楽マニアなんですよ。今でも息子がドラムやるって言いだしたときには60,70,80年代のバンドとドラマーのリストを送ってくれて。Led Zeppelinのドラマー・John Bonhamに始まって△△っていうバンドのドラムは●●、この曲のこういうところが好きっていうのをバーって書き出すような(笑)」

「小6の時に中三の兄貴と一緒に地元のショッピングモールに行ったら、そこで中古LPを売るイベントがあった。お金はどうしたかとかどうやって買ったかなんて全然覚えていないけど、ともかくそこで僕はジャケ買いをしました。それがCASIOPEAの『MAKE UP CITY』です。EARTH,WIND&FIREなどのLPジャケットを手がけていた長岡秀星さんという方がいらして、なんでそれを知ったのか分からないけどあのタッチの絵が好きで。単にジャケットが欲しくて買いました。それで家に帰って、プラスチック枠にネジ止めして壁に飾っていたんですね。」

「銀河鉄道999」っぽいとぴろしさんが表現する長岡秀星さんの作品をいくつか見てみました。宇宙を描く画家と言われるだけあって画風にはSF的な雰囲気がみられます。
暖色光が画面の向こうから強く照りつけ、白い光源の周りでハレーションを起こしています。扱っている題材もあって非常に神秘的な感覚がありました。

「MAKE UP CITY」のジャケ写はこちらです。

好みの絵葉書を飾るように、ジャケットを額縁に丁寧に飾って眺めていました。ジャケット鑑賞は、中学生に上がる頃までしばらく続きましたが、中身に触れる機会が訪れます。

「ある日、兄がYMOの輸入盤を買ってきて、それを流していたんですね。当時は輸入盤と中古盤があって、兄のはアメリカっぽい変な匂いのする輸入盤。最初お袋はすごく嫌がっていて、「お兄ちゃんそんなの聴くの。変なねえ、ピコピコピコピコいって。ねえ?」なんて言って、僕も『うん、そうだよねぇ』なんて同調していたんですけど、その瞬間にズドンと来たんですよ、カルチャーショック的なものが。」

「それまでスーザのLPを聴いたり、親父の影響で渡辺貞夫さんやネイティブ・サンのような言ってしまえばこうリズミカルな曲を聴いていた。そうやって歴史を追っていったわけですけど、YMOですごくビビッときちゃって。それで待てよって。壁に飾っていたLPを外して聴いてみました。そしたらもうハマっちゃいましたね。特に2曲目の『Eyes Of Mind』がやばくて。なぜハマったのかなんて自分でもよくわからないですけど。」

CASIOPEAはボーカルなしのインストバンドです。中一でインストバンドを好きになるのはやや早熟なのではないかとお話を聞いた時に思ったのですが、小さい頃からリズミカルな音楽と戯れていたというバックボーンがあってのことでした。
自分は父親が好きだった大瀧詠一からナイアガラサウンドの嗅覚を身に付けましたが、それに似たようなものを感じます。

この頃、理由も分からないほど急速に心が傾いていった出来事がもう1つありました。

「中二の時に初めて行ったコンサートが沼津市民会館でのCASIOPEAのライブでした。たぶん地元のレコード屋だったと思うんですけど、たぶん今でもその時のチケットを取っておいていると思います。ピンク色の。沼津市民会館は1階席が斜めに(せり上がるように)あって、2階席の前に通路がありました。当時そこに座ってたんですね。そうしたらベースの櫻井哲夫さんが自分の目の前に来たんですよ。当時ワイヤレスシステムが始まったくらいの頃で。衝撃でした。それから『俺はベースを弾く』って言い始めたんです。一番最初に最初にすごいものを見てしまったせいで、ちっとも上手くならないですけど(笑)」

「ベースは借りたんですよ。友達の家で『お前ジャズとかそういうフュージョンっぽい曲が好きだったら俺のお兄ちゃんが好きだから紹介してやるよ』って言われて。でも、大学でバンドを組んでもフュージョンをやりたいなんていう人は周りに誰もいなかったですね。唯一フュージョンっぽい曲をやったのは、TUBEの春畑道哉さんが当時ソロでインストCDを出したんですが、その中の『青いコンパーチブル』っていう曲があって。それをやりたいってたまたまバンドのメンバーが言ってくれて、インストをコピーしたくらいです。」

ここで、自分なりにCASIOPEAの曲を解釈してみました。
ぴろしさんはSF的なジャケットにわけもなく惹かれていったわけですが、メロディもまたどこか近未来的です。
電飾のみで構成されるトンネルを抜けているようなカラフルな曲調は、子供の頃に見た夢に似ている気がします。「Mint Jams」のなかでは「ドミノライン」が好みでした。
ベースの弦の摩擦音が聴こえるほど楽器を近くに感じ、かつ展開があるので長めの再生時間にも関わらず楽しめます。
朝方のハイウェイを旧車が駆け抜けていく様子がありありと浮かびます。

曲を聴いて思い浮かべる漠然とした映像をこうして並べてみましたが、耳だけで情報を得ているはずなのになぜか絵まで想像できてしまうのもCASIOPEAの特徴なのかもしれません。
キーボード、ベース、ギター、ドラムの鮮やかなパートチェンジ。
スポットライトがそのパートの主役を控えめに照らしていきます。
自分が主に知るポップスはヴァースとサビが明確に区切られてパターン化されているのが主ですが、CASIOPEAにはボーカルがなく、また「どこにも属さない」フュージョンとして存在するだけあってそのパターンも通用しません。
はじめから終わりまでの時間をなん分割かにして、それぞれに役割をもたせたという感じです。
セッションと言うよりも、パス回しのように見えました。
音楽のフィールドだけとはもはや思えません。
それも、単にボールをワンタッチで運んでいくのではなく、たまにその場でリフティングしてみたり、頭上でキープしてみたりと遊び心があります。
とんでもないビッグプレーが飛び出す派手さはないかもしれませんが、ずっと釘付けにさせていられるのは玄人の技でしょう。
メカニズムはちっとも理解できないけれど、時間が進むにつれて目の前が鮮やかになっていくという点では、楽器を担当する4人は複雑な式を解き明かす数学者のようだとも言えるかもしれません。

「『MAKE UP CITY』と『Mint Jams』は本当に未だに聴けるんですよ。全然飽きない。友達とかにもお前はCASIOPEAうるさいんだよって言われてても、でもあれが最強なんですよね。ドラムの神保彰さんのスコーンと抜ける音も好きで、ボヨンボヨンとせずメリハリがあるのがいい。」

「スーザのマーチが根底にあるかもしれない」という音楽観は、CASIOPEAだけではなく今どきのアイドルソングに対しても通じるようです。

Juice=Juiceの『禁断少女』の中間のシンセのソロが凄く良くて。初めてライブで聴いたときにめっちゃいいなってハマっちゃいました。正直歌詞よりも、間奏のシンセを聴きたいがために聴いているっていう(笑)。(元CASIOPEA)向谷実さんの音に似てるなって感じがするんですよね。このパートが好きになるところなんかは自分の中ではCASIOPEAの影響かなと思っています。MuMo°の音も面白いです。『Miel』『ドリームシンドローム』『ダイヤの翼』あたりはインストのみで成り立っていると言ってもいいくらい。特に『ドリームシンドローム』はハードロックです。メリハリがあって、リズムがすごく好きなんですよ。」

旧タートルリリーが最初で最後のTIFに出演した日、メインステージでトリをつとめたのがJuice=Juiceでした。
その時の感情はこちらの文章につづられています。
ジュースの曲の全てはまだ知らず、「禁断少女」を初めて聴いたのがこの日でした。

「曲を最初にゲットするときに、全体像というよりは、間奏のキーボードがいいなとかそういうところで入っちゃうんですね。(完全に音先行なんですね?)絶対にそうですね。」


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