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【ライブレポ】TOKYO IDOL FESTIVAL 2023 day2

梅雨明けがいつからかの区別すらつかなかった7月に続き、8月頭もまた焦げるような暑さでした。太陽は強く照り、肌を外に晒しているとじりじりと焼けていく感覚があります。
今年の夏が例年以上に暑いことは間違いないと思うのですが、その一方で例年ほどじめっとした感じは受けません。
体感する暑さはあくまでおひさまの熱だけであり、湿気からくる蒸し暑さはさほどないような気がしています。
自分は今年から日傘を買ったのですが、直射日光をしのげるだけでかなり暑さから開放されています。
空気がもっとじめっとしていたら、多分もう少し暑く感じていたのではないでしょうか。

2023年8月4日から6日の3日間、照り返しと潮風がきついお台場で世界最大級のアイドルフェスティバルが開催されました。
TOKYO IDOL FESTIVAL 2023です。

今やアイドルフェスと名のつくものは季節や場所問わずあちこちで見かけるようになりました。
夏フェスは各地で行われています。
主役はライブアイドルなので、フェスや大型対バンの数が増えるだけそれぞれの希少性や一回性が薄くなってしまうところもあるのかもしれません。
それでも今なお薄れない輝きがあるのがこの「TIF」です。
そう信じています。

色々あってここ数カ月の間、ライブレポはおろかアイドルのライブからも遠ざかっていたのですが、流石にTIFは行かないわけにはいきません。
カラッとした空の下、見えない力に引かれるがままにお台場にやってきました。
数年のブランクののちに去年から2年連続、今年は土日の8/5,6参加です。

昼前に最寄りに着き、まず向かったのはSMILIE GARDEN
フジテレビ本社屋に見下ろされるこの野外ステージは、ステージの大きさこそメインステージやZeppのステージに劣るものの、TIFの代名詞、いや夏フェスの代名詞と言っていいかもしれません。
過去伝説級のライブがいくつも生まれた、聖地とも言える場所です。
地上アイドルがメインステージを独占するようになって久しい今、ライブアイドルファンの間での話題性はここが一番でしょう。
アイドルさんによっては、メインステージよりもまずはここに立ってみたいと願う人も多いかもしれません。

今年からは声出しも4年ぶりに解禁されました。
お客さんの接触を防ぐために設けられたややこしい動線もなく、入場口も(恐らく)今まで通りになりました。
マスクもしなくたってとがめられるわけでもありません。
コロナなんて言葉も一般人の間にはなかったあの時代と見かけ上は同じになったわけです。
今年は何が起きるのでしょうか。
過去無数のサイリウムが投げられる光景も目にしていた自分は、厄介なことはとりあえず起きてくれるなよという不安と、その一方で何かが起きてはくれないものかと期待してしまう両立しない気持ちを抱きつつ、6人組グループの出番を待っていました。
11時25分。
ここから夏が始まります。

1. Pimm’s

Pimm’sの夏はいつもベースボールTシャツ衣装というイメージがあります。
それぞれ違う背番号がプリントされ、背ネームの付いてメンバーカラーに色分けされた非売品。
速乾生地なだけあって涼し気です。
メンバーによってはボタンを一か所も留めていない人までいました。
何かきっかけがあったわけではないのですが、結果的に去年のTIFぶりのPimm’s参戦となってしまいました。
その間にメンバーの川崎優菜さんは卒業。
それまで7人で長らく活動してきたのですが、川崎さんの卒業からここまでの2カ月弱は6人体制です。

シンセサイザーの降り注ぐような高音のリフが聞こえてきました。
kimi to boku」のイントロです。
いきなり目当ての曲がやってきました。
声出しとともに聴いてみたかったのがこの曲でした。
イントロに合わせたコールに倍速mix。
その当時卒業を控えていたメンバーが、コールを浴びて心底幸せそうにしていた様子が動画越しでも忘れられません。
コロナ直前に行われたライブ映像で観たきりのその光景が、はやくも一曲目やってきたのでした。
天を仰ぐと、日光が眩しくてくらっときました。
あの時はライブハウスだったのでコールの反響がすさまじかったですが、今は屋外なのでそよ風ほどの気持ちよさとなって抜けていきます。

久しぶりに見てまず驚いたのが早川渚紗さんでした。
相変わらず可愛らしい声なのですが、打ち込みのバンドサウンドに負けないほど強くなっていました。
ロングトーンも最後まで切れずに維持し、当たり負けもしていません。
グラビアで活躍してモデルの仕事へと幅を広げ、さらにはニチアサの戦隊モノのヒロインとしても有名になった早川さんの表情や仕草は多彩で、やはり不特定多数から見られる仕事で培われたものとみえます。
これまた落とさずに維持したピンクの髪色が青空に映えていました。

立仙愛理さんの表情にじっと注目することは、以前Pimm’sファンの方にインタビューする機会なしには無かったかもしれません。
林茜実里さん推しの方でしたが、現メンバーの中では一番最後にPimm’sに加わった立仙さんをとりわけ高く評価していたのが印象的でした。

立仙さんの存在によって変わっていったメンバーもいたといいます。
それほどなのかとまじまじ見てみたのですが、なるほどこういうことかと納得しました。
表情はいたずらっぽさや不敵さを含み、見ていて楽しいです。
ステージが高めで表情が拾いやすいSMILE GARDENだと分かりやすかったです。
上手いと聞いていたのでハードルが上がりましたが、恐らくいつ見ても飽きさせないという点のさじ加減が上手なのでしょう。

Pimm’sはミクスチャーロックというしおりとともにアイドルの棚に並んでいますが、いわゆるロックだけかというとそうとも思えません。
思うに自分は、Pimm’sは愛嬌で売っているグループだと捉えています。
確かに音は硬質なロックで、ダンスもバキバキなのですが、邦ロックの現場でよくあるカッコよさだけで乗り切っているわけではなく、どこか親しみやすさが残っている気がするのです。
単にメッセージを一方的に投げかけるだけでなく、フロアの方をしっかりと見て言葉を交わしてくれますし、向こうから距離を詰めようとしてくれます。
それは先に挙げた早川さんや立仙さんだけではありません。
ついてこれるのかとは言いつつ、横に並んで伴走してくれるような、切迫することのないゆとりがあるからほっとします。

3曲目は知らない曲でした。
新譜からもしばらく遠ざかっていたので無理もないなと思っていたのですが、それでも聴き慣れないものを耳にしているという感覚がありませんでした。
ここがもう一つの特長だと思います。
Pimm’sの曲はどれもPimm’sっぽいと納得してしまうところがあります。
なにも似たりよったりの曲ばかりということではなく、どんな曲でもパフォーマンスで自分たちの色に変えてしまえるのです。
アイドルの曲はPやさらに上の人たちの意向が強く反映され、急な方向転換も珍しくないと思うのですが、Pimm’sにかんしてはそうしたギャップがすくなく、しかもメンバーがパフォーマンスで自らのカラーに染めてしまう我の強さもある気がしていて、新曲でも安心して見ていられます。

空は水色っぽく、雲はほとんどありません。
頭上は太陽が照らしています。
抜けるような青とはこういう様子を指すのでしょう。
目をやや落とすと入ってくる、「SMILE GARDEN」のロゴに縁どられた黄色はその対比の様で眩しかったです。

2. 九州女子翼

12時を少し回ったSMILE GARDENに真っ赤な大群が集まりだしました。
全身を赤に染めたファンの方々がPA前に固まっています。
九州(+山口)のメンバーから構成される、九州女子翼の登場です。
定刻から少し遅れ、見上げたステージに上がった5人もまた、トレードマークの真っ赤な衣装でした。
他の色が入る余地がありませんし、九州女子翼で赤以外はあまり考えられません。
すぐさま中央を向いた円形のフォーメーションをとったのを見て、1曲目が何であるかがわかりました。
「空への咆哮」です。
天を指さして声を響かせるこの代表曲は、スケールの大きさといい天気を急変させそうな激動といいまさしく野外ステージにピッタリです。

この曲で、今の九州女子翼への新たな発見がありました。
鍛え上げられた低音です。
九州女子翼はかわいらしい見た目やふくらみのある衣装に似合わず力のこもったパフォーマンスでは出色で、ただならぬものはもともと感じていました。
久しぶりに見て、一層そこに堅さが加わったような気がします。
わかりやすい変化の幅が、低音の出し方でした。
高音と比較して伸びづらい低音を出すには、弾みをつけて思い切り歌うというのが一つあるかと思います。
低音域は出したぶんだけ音になるわけではなくロスも多いはずで、たくさん出さないと最低ラインも出せません。
だからロスも見積もったうえで思いっきり発声するしかないのかなと一般論的には思ってしまうのですが、九州女子翼には当てはまりませんでした。
全体重をかけて出しているという感じでもないのに、低音が足元から響いてきます。
音が分散しがちな屋外でも常に一定で、ぶれたり淡くなったりすることがありません。
フォルテで出していないのにここまで達するものなのでしょうか。
驚きました。ライブは何回か見たことがあるので、ボーカル自体は言ってしまえば特段大きな発見があるわけでもありませんでした。
それでも、時々目が覚めたような感覚になることがあります。
こんな声をしていたのかとはっとするのです。そしてわずかな間が空いて「そうかぁ」と納得します。
振り返ってみれば、力強く振舞いつつもかすかに残っていた「慣れないことをしている」という不自然さが今は抜け、剛健さや迫力が自然とにじみ出ているような気もします。
あえて出そうとしなくても出てしまうようになっています。

東京への遠征はいつも車。
電車に30分も乗っていれば都内どこのライブハウスにも行き来できるような立場の人達とは掛ける時間も、それに比例するライブへの飢えもまるで違うはずです。
九州から東京への長い距離の往復の間に、雨や風くらいではびくともしない基礎がすっかり出来上がったのだと気付かされました。
しかも九州女子翼は卒業や加入を何度か経ています。
ほかより控えめながらも、アイドルグループの構造上避けられない道は通っているわけです。
2022年3月の香音さんに続き、木城杏菜さんは2023年4月加入です。
それなのに、かなり昔からの付き合いかのような完成度でした。

ところで、九州女子翼のHPによれば木城さんのことは高校の文化祭で”発掘”したといいます。
養成スクールに通っててPの目に留まり...や都会で声を掛けられて、などという流れはよく聞きますが、高校の文化祭のような地方予選一回戦みたいなところでスカウトされることがあるとは、アイドルの世界は時としてプロスポーツよりも網目が細やかなのかもしれません。

女子翼はレッスンではなく稽古と呼ぶそうですが、決して長くはない5人での期間、質の高い稽古を積んできたであろうことがわかるステージでした。

香音さんや鈴川瑠菜さんの煽りも、ほどよく乗せるという感じで上手いです。
4曲中3曲目は知らない曲でしたが、関係ありませんでした。
乗せるのが上手いからちゃんとついていけます。
東京遠征中(当時)の九州女子翼。
TIF翌日には台湾やタイのグループと3マンライブを行っていました。
これまでも、アジア各国に出向くことは何度もあったようですし、アジアに一番近い九州を背負い、文字通り羽ばたこうと翼を看板につけているのはダテではありません。

3. 群青の世界

引き算のようでした。
足していって積み上げるわけでもなく、回答不能になるほどゼロに戻してしまうわけでもなく、ギリギリまで削ってあとちょっとを余分なく添えるようなステージです。

昼過ぎに向かったのはHEAT GARAGE。
今年ようやくコール解禁やステージ配置などTIFらしいTIFが戻ってきたわけですが、Zepp Divercity Tokyoを贅沢に使ったこのHEAT GARAGEとお台場夢大陸のメインステージ・HOT STAGEはかなり久々の復活で、2017年ぶりでした。
(余談ですが、それ以前には船の科学館前の駐車場を使ったShip Stageなるものもありました。)
お目当て・群青の世界の出番前には半地上アイドルが多数出るコラボステージがありました。
オールスターのようです。
最後はステージに全員上がって一曲パフォーマンス。
直後の群青の世界は、まだその混乱も冷めきっていないなかでの出番でした。

上手側から出てきて見慣れないフォーメーションです。
今年に入ってからろくに追えていないので、その頃立て続けに発表された曲のどれかなのでしょう。
冷えきって落ちてくるピアノの音は、後から入ってくる竿隊やドラムにその場を渡します。
全ての音が一斉に頭のリズムを刻む勢いの良さは、群青の世界らしい音づかいです。
Pimm’sだけかと思っていましたが、群青の世界も作家陣が安定しているから曲の特徴がつかみやすいです。
一曲目は「ハイライト・トワイライト」。

ライブでは初見の曲です。
手首の切り返し、ターンの仕方、初めてであっても全ての振り付けが精巧に出来ているのは分かりました。
群青の世界は、世界を謳うだけあってステージの世界に入り込めるかが重要になってきたりします。
本人たちがどう演じるかということはもちろんなのですが、それだけでなく、こちら側にも相応の集中力だったり解釈や受け止めが求められているように思います。
そんな強制力を持たせようとメンバーがパフォーマンスしているかどうかは知る由もないですが、少なくとも自分からしてみれば群青の世界は悪い意味ではなく客席にプレッシャーを与えるような、そんな域に到達していると思っています。
こちらが曲に入り込めるかは当然ながらその曲への認知度というものが大きく、よく聴いて歌詞を十分に理解している曲であれば入り込みやすいですし、よく知らなければ意識も別のところに飛びやすくなってしまうはずです。
ライブMVを何回観たかな?という程度の「ハイライト・トワイライト」は確実に後者になるはずでした。
それでも工藤みかさんの実用と美観を備えた刀剣のような歌声だったり、一宮ゆいさんの真っ白で消え入りそうな立ち居振る舞いなどは十分伝わってきます。
村崎ゆうなさんはかつてはシリアスな曲でも口を開けて少し笑いながらパフォーマンスているのが印象的だったのですが、半年ぶりに見た今はまた違う顔つきになっています。
知らない曲で高くなっているはずの障壁を越えてくるくらい、魅せられるものがありました。

ステージに二人、見慣れない姿がありました。
正確に言えば見慣れない人は一人。
もう一人は、もう帰ってくることはないはずだった人です。

群青の世界は数カ月前、メンバーの入れ替わりがありました。
元々いた水野まゆさんが卒業発表、代わりに2人の新メンバーが入って5人となりました。新に加わったのは元ラストアイドルの町田ほのかさんと、横田ふみかさん。
横田さんは2022年5月にグループから卒業して以降は裏方としてグループを支えていたのですが、再び表舞台に戻ってくることとなりました。
もうアイドルからは足を洗いますと言って辞めた後しばらくして別グループに”転生”するのはたまに聞きますが、同じグループに”復帰”はほとんど聞いたことがありません。
それだけ異例のことだと思います。

自分が見ていなかったのはちょうどこの入れ替わりの時期にあたり、現体制となってからもこれまで機会がなかったので、話題性豊かな新メンバーを加えた5人でどんな見栄えになるのかは興味本位として気になっていました。
しかしその心情だったのはライブが始まるまでのことでした。

SEが鳴り、1曲目の「ハイライト・トワイライト」が進むにつれ、心は歌の抑揚やダンスの展開に向かっていました。
既存曲を聴いて「このパートは町田さんなんだ」と変化を楽しむのはまだ先の話でした。
どうでもいいというと語弊がありますが、新メンバーがどうということよりもまず、5人全体による表現に目を奪われていたのです。

メンバー数が増減し、横田さん卒業以来1年ぶりに5人でのフォーメーションを組み直さなければならなかったことで、グループとしては水野さんがいたときから一歩も二歩もあと戻りしないといけなかった部分もあると思います。
その後退してしまったところを進めるには、ブランクの空いた町田さん・横田さんをひとまず底上げすることのみ。
そう、普通は考えてしまうはずです。
ただ、ここからは全くの推測ですが、この間起きた群青の世界の変化は、単に2人の慣れとイコールではないように感じます。
恐らく、元々いた3人も変わっていったところが少なからずあったのではないでしょうか。
村崎さんの表情の移り変わりや、工藤さんの驚くほど気合の入った歌声は、これまで無かったということはないにしてもこの5人のバランスだからこそ表現されているのかなと思うところがありました。
目の前に起きているのは、横田さん卒業前の5人から水野さんと町田さんを入れ替えただけのステージではありません。
全く別の、それでいてこういう解もあるのだと納得させてしまう、新たな5人体制が形を成していました。

「皆さんの心に、私たちの歌が届きますように」
正確な表現かはさだかではないですが、珍しくこんなことを言って始まったのが「メロドラマ」でした。
夏の暑さに勢いを乗せてアッパーな曲を披露するグループが多い中、一宮さんのソロから始まるこの曲は真逆。
場は再び凍りつき、聴き入る時間が訪れます。
フロアの誰も何にも発せない時間が5分弱ありました。

そうしてつづいたのが「However long」に大定番の「僕等のスーパーノヴァ」でした。
コールは未だ独自のものが確立されていなさそうでしたが、盛り上がる2曲での火の吹き方はとてつもなかったように思います。
特に「僕等のスーパーノヴァ」での足元から熱気が上がっていく感覚と、声にならない声が伴奏をかき消さんばかりに響いている様子は格別なものがありました。
そんな状況が生まれたのは、2曲の持っている知名度や人気もさることながら「メロドラマ」で一歩引いたことが大きかったのだと思います。
一歩引いたことで助走距離が生まれ、いつも以上に盛り上がった。

引き算と冒頭に書きました。
そういう解釈が出てきた理由が、これらに詰まっています。
ただ人数が増えただけでないこと、そしてあえてしっとりとした曲を間に挟んだこと。 
プラスになるものを足していくだけではなく、既存のものも壊していく覚悟でまっさらにして積み上げ直していったところが、このグループのただならぬところであり、引き算と呼びたくなる部分だと思います。

衣装は昨年に新宿BLAZEにて行ったフルバンドセットライブの特別衣装をアレンジしたものでした。
真っ白な生地の上に青色が一見不規則に飛び跳ねているこの衣装は、まさしくこの日のステージを現わしていました。
一旦まっさらにしたあと、足りないかな?という程度に青色を足す。
もう少し色を加えればもっと目立っていたかもしれませんが、群青の世界が目指しているのはキャッチーさとか分かりやすさではないはずです。
塗りたくりたい衝動をぐっとこらえ、少ない程度に留めることでより繊細さが出てきます。

我に返ったところで、新メンバー2人にも触れてみます。
町田ほのかさんは、SNSでのファンの反応によれば歌が上手いとのことで注目していましたが、確かに上手いです。
工藤さんと並んでツインタワーとなったときは、PAさんはさぞかし苦労するだろうなと思いました。
群青の世界に限らず、個人的にライブアイドルでは踊りよりもちゃんと歌えるかどうかのほうが重要だと思っているのですが、町田さんが入ったことでそのあたりの課題が解消されたのではないでしょうか。
工藤さんの歌声も序盤から相当熱がこもっている印象でしたが、そこには町田さんの存在も大きかったと思います。
加えて町田さんはやや物憂げな表情をするのも上手く、笑顔だけを見せびらかすというタイプでもありません。
(この日体調不良だったとも言っていましたが)不機嫌そうにも見えるその表情は少なくともこれまでの群青の世界にはないもので、大人にも子供にも見える顔つきはこれからも気になってしまいます。

横田さんはやはり笑顔でしょう。
何もかも溶かしていくような笑顔は、1年以上前に見たときとくらべて恐ろしいほど何も変わっていません。

コラボステージで65人ものアイドルがたどたどしく歌っていたヘビーローテーションの跡はもう、探してもどこにも見つけられません。
横長のZeppのステージは、群青の世界のためだけにありました。
背景にある装飾のセットも、群青の世界を輝かせるためだけに控えめに存在していました。
そこをまるで自分たちがこしらえたかのようにしてしまえるグループ。
群青の世界に触れてこなかった半年は、事情あってライブアイドルから足が遠のいていた時期でもあるのですが、必要なブランクだったとは分かっていてもなぜ行かなかったのかと無駄な後悔をしてしまうほどに完璧なライブでした。

4. SANDAL TELEPHONE

 会場を変え、もう一つの屋内ステージに向かいます。
フジテレビ本社屋の1F、恐らく普段はスタジオになっているであろうスペースにくみ上げたこのDOLL FACTORYも、キャパこそHEAT GARAGEに敵わないにしても照明の数やセットの綺麗さでは引けを取りません。
TIFといえばやっぱりSMILE GARDENだろうという風潮には全くもって異見ないのですが、横にはセットで使われそうな機材がならび、中には「ネプリーグ CX行き」なんていう紙が貼られた道具まで置いてある長めの通路を通った先にある綺麗なステージも、普段は入れない場所という意味ではかなり特別だと思います。

いつぶりだろうかと思い出そうとしてもパッと出てこないほどに、SANDAL TELEPHONEのライブからはご無沙汰になってしまっていました。
後から振り返ってみたら2022年8月の夏フェス。
記事として書き残したのは同年5月にまで遡ります。
どんどん洗練されていくパフォーマンスを観て行く末が気になっていましたが、 あの時以上にSANDAL TELEPHONEは表現者の道を行っていることがこの日よくわかりました。

新曲が発表されるごとにダンスは難化していき、かつての特長でもあったフリコピはかなり難しくなりました。
真似が出来ないこともないのかもしれませんが、手を上げたり下げたりの分かりやすい動きではなく微妙な動きなので再現がしにくいです。
再現する気がなくなるくらい微妙という方が適切かもしれません。
そんなダンスを3人は、簡単にこなしてみせます。
前に出演していたユレルランドスケープと同様、SANDAL TELEPHONEのキーフレーズはもしかしたらチルとかリラックスなのかもしれません。
以前はこちらも力を入れて観ている部分があったりしたのですが、今はどこかに余裕を残して脱力したように見えます。

クラブとかダンスミュージックに近い雰囲気も受けました。
アイドルファンに受けの良い王道ポップスにとらわれていないように思ったのです。
しかも気取らないダンスミュージックです。
王道に対抗してめかしこむわけでもなく、ただ自分のやりたい音楽を気の合う仲間とゆるくやっているという風でした。
歌とダンスとフロアとのコミュニケーション、この3つの区切りもほとんどなくなっています。
互いに区別されるものではなく出力だけが違うようでした。
黒のタイトな衣装を身に着け、スタンドマイクを時に操りながら歌い踊る姿はまるで、西海岸の想像上のディスコでした。
「小町ー!」
曲間、小町まいさんの名前を呼ぶ声がフロアから聞こえてきます。
指笛も鳴っています。
頭の中では「Komachi-!」に変換されていました。

曲間の繋ぎも見分けがつかないほどになり、ライブに遊びが本格的に加わってきたのだろうなと思います。
アイドルのライブは即興でのアレンジや既存音源の組み換えが出来ない分構成が固まってしまう病に陥りがちなのですが、SANDAL TELEPHONEはうまいことかわしているようでした。

5. C;ON

そのままDOLL FACTORYに留まっていると、話題にはよく上がるものの一度も見たことがないグループが出てきました。
器楽奏者とボーカルが融合したグループ・C;ONです。
ボーカル2人にピアノ、アルトサックス、そしてユーホニウム兼バストランペット(初めて聞きました)の楽器隊3人からなるユニットです。

自分がろくに知らないだけでアイドルファンの間ではかなり支持を得ていることは知っていましたが、登場したときにすっかり納得してしまいました。
ワインレッドのドレス風衣装は、金色に光る管楽器とうまいこと調和しています。
赤と金は相性がもともと良い組み合わせではあると思いますが、同時に赤金のペアで嵌ってしまいがちな安っぽさには繋がらず、むしろ高級感を出しています。
一気に高貴なものを目にしてしまった気分になりましたし、このビジュアルだけでもついていく人は多数いるだろうなと思ったわけです。

ステージに楽器を持ち込むアイドルを観るのは初めてだったのでパフォーマンスの見当なんてつきませんでしたが、思っているよりも動き回るのだというのが真っ先に出てきた感想でした。
楽器隊は突っ立っているだけかと正直思っていたのですが、しゃがんだり立ち位置を入れ替えたり、かなり頻繁に動きます。
マーチングっぽく上げ下げされるベルは腕のように見えてきました。
ベルの先には集音するマイクが留められ、そこから腰の受信機に黒のコードが伸びているのですが、かるく振り付けをしたときに引っかからないのも凄いことだと思います。
しかも保険をかけてステージを広く使うわけでもなく、キーボードを中心にしてわりと密集したところでこうした動きが飛び出しているのだから驚きです。

サザンのエロティカセブンは定番曲のようですが、C;ONアレンジでかなりアイドルソングっぽくなっていました。
ただやっぱり予習はしておくべきでした。
この場には無い楽器と生の音の絡み合いを聴くのがC;ONの楽しみ方なのだろうなとその場で感じるわけですが、それを理解するにはもとの曲をちゃんと聴きこまないといけません。

2日目はここまでで終了。
3日目の感想は別記事に続きます。


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