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私の中の西洋コンプレックスー2009年4月ヨーロッパひとり旅 no9 アムステルダム→ベルリン「夜行列車、沈黙を枕に」 

*この記録は、2009年4月から1か月弱のヨーロッパ1人旅から帰った後、作成した小冊誌の内容を、旧ブログで公開し、その記事を再構成してnoteに移動したものである。

現在とは、ユーロ円の相場も、物価もかなり違う。日本でのアイフォン発売が、2008年にはじまったばかりで、スマホもなかった。ガラケーも電源を切ったまま旅行中は使わなかった。現在の海外旅行事情とは、状況が異なることを、お知らせしておきたい。


4月15日の深夜、アムステルダムからベルリンに向かうユーロナイトにわたしはいた。 19時01分出発、到着は翌朝4時23分、すでに国境を越えドイツに入っていた。

2等座席の6人掛けコンパートメントに6人。ドイツのどこかの駅で、初老の夫婦が窓際の席に向かい合って座り、さらに2,3駅先の駅で「ハロー」とにこやかに挨拶して、背の高いクールな40代の白人男性がわたしの左隣に座った。

そして目の前の席には上海出身の若いカップル 。隣の白人男性はペーパーバックを読み、 老夫婦2人も読書。

カップルは抱き合っていた。 わたしは「よく読書なんてできますね」 と頭の中で彼らに話しかける。

その他に、このコンパートメントには4人の人間が出入りしていた。下車したのではない。単にどこかに消えたのだ。最初にいたのは2人の12歳位の白人少年だった。

わたしは、アムステルダム中央駅に入ってきたユーロナイトのコンパートメントをガラスドア越しに覗きながら、座席番号を探していた。

3桁なのに、チケットの番号は2けた。通りがかった車掌に尋ねたとたん、ガタンと列車が動きはじめた。冷や汗が吹き出してくる。

ようやく自分の座席を見つけて入ると、少年2人は顔をつき合わせゲームに興じていた。
わたしがチケットを片手に部屋に入ると、はっとして顔を見合わせ、
「荷物を棚にあげますか」
と聞いてくれる。
「イエス、プリーズ」
とほっとして答える。
か細く白い4本の腕によってトランクは頭上の棚におさまる。やがて1人は携帯電話で話をはじめる。

ホームで待っていた時見かけた、10人弱の白人男性若者グループの1人が窓際の席に座る。

スキンヘッド、ジーンズにスウェット姿。彼だけが離れてしまったらしい。視線があちこちさまよい不機嫌そうだ。

やがて少年の1人が相手を促し、消えて行く。

2人になると、若者は3人分の座席いっぱいに全身を伸ばし、寝る体勢をとる。 全身の筋肉が硬直するのを感じる。

10分ほどして、インド系40代スーツ姿の男性がわたしの目の前に座り、若者は再び窓際の席に戻る。

車掌が点検しながら、ガラスドアを閉めていく。スーツの男性はドアをすばやく開け直し、安心させるようにうなづいて見せる。

息詰るような沈黙の時間が、30分程度過ぎた後、今度はその男性がどこかに立ち去っていった。

全開の車窓から、強風が吹く。 若者は無言でわたしの肩をたたき、身振りで「窓を閉めていいか」と聞いた。2人で窓を閉める。

ほどなくして、車掌がわたしの前にどかっと座り
「Everything is ok?」と聞く。
「どこから?」
「東京…」
「はじめてのヨーロッパ寝台列車なんです」
「日本にはない?」
「あるけど、新幹線があるから」
「新幹線?知ってるよ、早いんだろうね?」などと話してくれる。

グループの若者にも何か尋ねている。でも彼は答えない。何度も車掌に話しかけられてようやく2言3言答える。

英語ではない、ヨーロッパの言語でもなさそうだった。彼も同じように不安なのだということに、その時はじめて気がついた。

ながい沈黙の後、うとうととしたわたしは、気がつくと一人になっていた。列車はひたすらガタンゴトンと心地よく規則正しい音をたてながら走っている。

窓越しに真っ暗な外をぼんやり眺めていると、アジア系の若いカップルが入ってきた。 男性は短い清潔な髪型でとてもハンサムだ。

女性は、ぴったりとした薄い色のブルージーンズと、お腹が見えかけている短い長袖のカットソーがとてもよく似合う。美しいカップルだ。

思わず、 わたしはつたない英語で
「どこからきたのですか?」 と聞く。
「上海」
「わたしは東京、上海は大都市ですね、大好きです」
「ありがとう」
と2人はにっこり笑った。さらに、
「わたし達、ここにいた人と席を替わったんです」と教えてくれた。
「そうなんですね、オーケー、邪魔してごめんなさい、お休みなさい」
などと言葉を交わした。

「電気を消していいですか?」と 女性が聞く。
「いいですよ…」
暗闇の中で2人が抱き会う気配が伝わってきた。


長い夜が明け、ようやく到着という頃、デッキで待つわたしに、後ろにいた年配の男性がドイツ語で何事か話しかけてくる。

「英語話せますか?」とわたしは応じる。
「イエス」とドイツ語なまりの英語 、適当に想像して相槌を打つ。
「ベルリンに住んでいるんですか」
「生まれてからずっとベルリンだよ」
「それは素敵ですね」
「そう本当にグレイトな街だよ、ベルリンは」
「長いこと働いてきたが、目の手術を最近してね、もう仕事ができないんだよ、世代交代だね」
「でもあなたはまた何かはじめることできますよ」
「そうだね、自分でもそう思っているよ」
「おお、ベルリンだ、コーヒーでもいかが?と誘いたいけど、
迷惑だろうね?まだ早いしね」
「またね、よい旅を」

おおよそこんな会話だった。

2006年に完成したベルリン中央駅は、近未来的な雰囲気だ。朝4時過ぎに到着したにもかかわらず、安全で清潔な空間とコーヒーの香りが乗客を包みこむ。この時のほっと安堵した瞬間をわたしは一生忘れないと思う。

ベルリン食べたものメモと、続きはこちら!


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