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『スター・ウォーズ アソーカ』(スター・ウォーズ ドラマ感想①)


あらすじ

アナキン・スカイウォーカーの生涯唯一の弟子にして二本のライトセーバーを操る伝説の”元”ジェダイ、アソーカ・タノ。ジェダイがほぼ消えた暗黒の時代――闇に堕ちたかつての師との別れの果てに、アソーカは銀河に迫る、恐るべき脅威に立ち向かう。

公式より


念願の実写ドラマ

 3Dアニメ映画『スター・ウォーズ クローン・ウォーズ』で初登場を果たしてから15年、アナキンの弟子としてデビューし、押しも押されぬ人気キャラクターへと成長したあのアソーカがとうとう実写ドラマで主役を張るときがやってきました。全くのゼロから立ち上げたマンドーを除けば、ディズニープラスではここまでオビ=ワン、ボバ、キャシアンといった映画を彩る登場人物によるスタンドアローン作品をドラマ化してきましたが、スピンオフを主体に「スター・ウォーズ」を追っている身からすると、やはり非実写作品発のキャラが実写で動き、主役を張るところまできたというのは格別です。
 いまでこそサーガのマスターピースとして語られることが常となった『TCW』ですが、15年前の映画版を観に行った際の周囲との温度差、その後の"何だかハチャメチャやっている子供向けアニメ"と苦笑されていた頃をリアルタイムで体験していただけに遂に、とうとう、の思いも一層でした。
 同時に、態々"アソーカ"の題名を冠してアニメ『反乱者たち』の実質的な続編をドラマで行うアプローチに懐疑的であったのも事実であり、その結果がどうなったかというと――?


TCW、反乱者たち、旧三部作、そして新共和国

 現在の「SW」ドラマの中心を走る『マンダロリアン』から始まった一連の新共和国編、本作はその最新作という側面も持ち合わせています。即ち、『マンダロリアン』S2に登場したモーガン・エルズベスとの決闘、同S3で語られたスローン帰還の噂の後で銀河史はどのように進んでいくのか。勿論、この数十年先にファースト・オーダーの台頭が待っていることをわれわれ視聴者は誰もが知っているわけですが、その間隙は未だ埋められていないことが多く、先ごろ発表された『EP9』より先の未来を描く新作映画の公開までまだ年月を要することを鑑みれば、この新共和国編は、200年前の共和国を舞台にする「ハイ・リパブリック」、『EP5』から『EP6』への道筋を絶賛指し示すコミックシリーズに並び、現在の「SW」コンテンツの最前線たる3本柱が1本といえましょう。
 『キャシアン・アンドー』で反乱のために全てを犠牲にして愚か者を演じたモン・モスマ、『レジスタンス』の主人公、カズの父親であるハマト・ジオノ議員も参戦し、それぞれのタイトルを踏まえまた別の作品を鑑賞することで前に観たときよりもさらに面白く感じられ、シリーズ全体がより深みを増していく。これがスピンオフにスピンオフを重ね掛ける「SW」ユニバースの面白さです。
 また、ヘイデン・クリステンセンが霊体アナキンとしてアソーカと対面することで『TCW』が実写世界に組み込まれ、再現される嬉しさ以上に、2000年代の旧三部作DVD-BOX発売当時賛否両論吹き荒れた"悪名高き"エンドアのお祭りシーンでのセバスチャン・ショウからの差し替えを救済するのみならず、あのときのアナキンから地続きの、その後の物語たるアナキン・スカイウォーカーの新章という見方も生じるのが意義深い。身も蓋もない言い方をすれば、ライトサイドの帰還にしてハイ終わりではなく、戻ってきたアナキンがその経験を踏まえた上で具体的にどう生きてゆくのか(いや、既に死んでいるのですが)までやってみせたのです。雷鳴と共に、煙幕の中に黒き甲冑を浮かび上がらせながら赤の光刃を振るうアナキンの何と激しく、厳かで、幻想的なこと。現実世界と切り離された世界の狭間の世界だからこそ為し得た画であり、これによって闇落ちを経験したマスク姿のヴェイダーと素面のアナキン・スカイウォーカー――両者のイメージがさらに分かち難く、密接なものへと結びつきました。


師と弟子

 そんなアソーカが『反乱者たち』の後、サビーヌを弟子にとっていた事実はびっくりでした。配信前には『反乱者たち』S4でアソーカが救出されたすぐその後から始まるのでは、との予想もありましたが、それらをすっ飛ばしたどころか、旧三部作の真裏でいつの間にやらふたりが師弟関係になっていて、尚且つ既に破綻していたとは誰もが思うまい。が、その原因にマンダロアの大粛清=千の涙の夜ががっつり絡んでいるのは『マンダロリアン』のスピンオフとしての体裁を保ちつつ、ファンには一発で理解できる良い按排でしょう。『EP3』の真裏で影なる物語としてリアルタイムで進行していた『TCW』S7に準えるかのように、旧三部作の終わりにも同じ場所で似たような出来事が起きていたわけです。歴史は繰り返される。
 中盤で明かされるアソーカとサビーヌの間に亀裂が入った理由も『EP8』におけるルークとカイロの関係を彷彿とさせ、それでいて大変なやらかしさえも互いに笑って許し合える/だからこそやり直せる陽性の解決は"お調子者"同士なふたりの性格がよく出ていました。ルークもベンも背景事情が複雑だったことに加え、水に流すにはちと繊細すぎましたからね……。
 マスターとのレッスンを経てすっかり険が取れたアソーカに、エズラも加えたこの軽口トリオには新世代の「SW」を引っ張っていくポテンシャルを大いに感じました。
 対するベイラン・スコール&シン・ハティもまた従来のヴィランとは一線を画す魅力に溢れています。かつてはジェダイオーダーに所属し、オーダー66後は傭兵として生きてきたらしいベイランの詳しい来歴は結局明かされず仕舞いではありましたが、目的達成のために帝国残党の仕事を請け負い、手を汚すことを厭わない顔を持ちつつも、己の道とは違えたいまでもオーダーの崇高さを称え、弟子に絶大な信を寄せる彼の語り口、佇まいは依然ジェダイ・マスターと呼ぶに相応しく、時代が時代であればオーダーの干渉を受けずに活動するウェイシーカーのような生き方もあったのではないかと。
 彼とシンのライトセーバーがダークジェダイの深紅ではなくどこか暖かみの残るオレンジであるところにも、敢えて露悪的に自らを卑下しているかのような印象を受けます。
 ペリディアに辿り着いた彼が、元の銀河への未練を断ってまで探していた大いなる力は何だったのか。何が彼をそこまでさせたのか――唯一無二の魅力を放つベイラン演じるレイ・スティーヴンソンが亡くなってしまったことで2度と再演が叶わぬのは悔やんでも悔やみ切れません。この先の彼の旅路は是非とも小説やコミックで描いて頂きたいです。


SWの「外」へ

 今作における最大の挑戦は言うまでもなく、別銀河への渡航とそれを実際の映像で見せたことにあります。「SW」ユニバースにおける銀河の外は旧レジェンズ時代のスピンオフで本邦でも大々的に邦訳展開された「NJO」のユージャン・ヴォングや、『バクラの休戦』のシ=ルウクが真っ先に浮かぶところですが(といってもシ=ルウクは宙図上で確認できるくらいには既知銀河に隣接していますけれど)、スローン大提督の種族チスの母星であるシーラやこれまで帝国残党が逃れていた先として語られてきた未知領域をすっ飛ばし、全く別の宇宙に飛び出していくのは思い切りましたね。
 実際、それが視覚面で新たな世界の創造に繋がっていたかというと相変わらず『TCW』の捨て回にありそうなヤドカリ宇宙人が出てきたり、宇宙野武士が雑に顎で使われたりと正直既存の「SW」像から逸脱できていたとは到底言えないのは確かです。が、こと設定面に関してはダソミアの魔女やザ・ワンズ、ともすればフォースの概念すらも別の銀河から入植してきたものかもしれない、というとんでもない爆弾を落としてきました。ジェダイとは全く異なる理論でフォースをに接する魔女たちが別銀河発祥の存在であるのは確かに納得できるものがあります。
 それ以上に興味深いのは、この『アソーカ』という作品に従来の「SW」を外から俯瞰するようなセリフ、アプローチが多く登場することです。何千年もの間ジェダイの営みを見てきたヒュイヤンが「遠い昔、遥か彼方の銀河系で…」から始まる御伽噺を語り、ベイランは「SW」の物語に繰り返される戦禍の輪廻を断ち切りたいと説く。マンダロア封鎖が起こり、大粛清が行われる。帝国が滅び、FOが台頭する。弟子の育成に失敗する。孤児が立ち上がり、銀河の命運を変える。フォースの中の一対――ダイアド。サビーヌが踏み出す瞬間をエズラの大ジャンプで見せるのも『反乱者たち』の第1話、もっといえば小説『新たなる希望』でケイナンが再びフォースと繋がることを決めたシーンそのままです。レジェンズからカノンに移行するに際し、より明確に描かれるようになったシチュエーションの踏襲はセルフオマージュの域を超え、いまや「SW」の”核”を形成しています。「SW」とは即ち、繰り返しの物語であり、シリーズが半永久的に続いていく以上、その構造からは逃れることはできない。もっといえば帝国の後継者たるスローン大提督という存在自体が過去のスピンオフの再利用に他なりません。
 先述したヘイデンアナキンへの差し替え問題の件も含め、銀河の外に繰り出す物語で「SW」というコンテンツのこれまでの歩みにメタな視点から切り込む。ウィルズ銀河(=「スター・ウォーズ」)をいま一度外から見つめ直す。『キャシアン・アンドー』でも『オビ=ワン』でもない、『マンダロリアン』や『ボバ・フェット』にもできない、モーティスや世界の狭間の世界を通して生死の"理"から外れてしまったアソーカ・タノだから語れるモノがある。それこそがこのドラマの肝なのかな、と思います。

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