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今の私を作ったTの影響

若い頃はいかに多くの刺激を受けたかが将来に影響を及ぼすと思う。
物事や言葉に対して少しでも興味が湧いたことを気にしてみること。これが大事なんじゃないかと今32歳になった私はそう思う。

私は福岡県の田んぼに囲まれた田舎で育った。遊び場なんてなくて、小学生の頃は友達の家か、学校の校庭か、学校横の小さな文房具屋さんしかなかった。刺激に枯渇していた。でもそれが当たり前だったから、人生ってこんな退屈なものなんだと受け入れていた。
小学校の同級生のほとんどがそのまま同じ中学校に進んだ。その中にTという男の子がいた。Theガキ大将というような子だった。比較的大きめな身体と圧倒的に大きな態度の彼はその後クラスの男子側のボスキャラになった。彼とはそれまで喋ったことはなかったが、中学1年生で同じクラスになり、同じ班になった。
記憶力がない私が唯一鮮明に覚えている出来事がある。英語の授業中、班になって机を向き合わせて勉強していた時のことだった。教科書に『BUS』という単語をTが見つけた。そして目の前の私にこんな言葉を放った。「これお前だ。ブスだって。」大人しい性格だった私は明らかに傷ついた。それまでブスという言葉は兄弟喧嘩をした時に兄からしか言われたことがなかった。兄に言われ、まだ免疫があったからいいものの、中学1年生の思春期の女の子にはとてつもない暴力的な言葉だった。

ただ、その頃のTに感謝していることがある。彼と仲が良かった友人がTに海外アーティストのCDを貸しているのをある日見かけた。興味本位で私にも貸して欲しいと言ったら、気の良い友人は後日貸してくれた。家に帰って早速聴いてみたら洋楽のメロディーと歌詞のあまりのかっこよさに痺れた。刺激に枯渇してカラッカラだった砂漠にいきなりエナジードリンクをぶち撒かれたような衝撃だった。それが海外への憧れを抱いた最初の一歩だった。その後「School of Rock」や「Freaky Friday(日本ではフォーチュンクッキー)」の洋画を近所のビデオやさんで買ってロックのかっこよさに夢中になった。ギターを弾いてみたい、バンドを組んでみたいと思うようになったが、その当時仲が良かった4人グループでBlue Roseというバンド名のもと、一人ずつ役割を決め、エアーで弾く練習をしただけで終わった。一歳下にいる妹が、昼休みに学校のベランダでエアー練習していた私たちを見ていたから、今でもネタにして笑うが、私のしたいと言ったことに付き合ってくれた友達には今でも感謝しても仕切れない気持ちである。きっと恥ずかしかったけど我慢して付き合ってくれたんだと思う。

高校2年生になり、私はTとは別の高校に進んだ。高校生活は非常につまらなかった。バンド部があった為入会したが、エレクトリックギターではなく、アコギをメインとするバンドで思っていたのと違ったため2ヶ月程で辞めた。恋愛しても友人と遊んでもバイトしても何か退屈だった。このままだったら自分が腐っていく感覚があった。

そんな時にTが留学に行くと聞いた。
私も行きたいと思った。海外への憧れと現実からの脱出、それが一番の動機だった。
私の家は裕福ではなく「節約」が口癖のような家庭だった為、そんなお金ないと言われ反対された。何しろ、母に「寒い」と言えば「外で縄跳びしておいで」と返される家庭だった。おかげで私は自力で体温調節する能力がついた。感謝しかない。
反対された時は悔しくて悲しくてお風呂の中で母に聞こえるように泣いた。
でも私は諦めなかった。英語の先生に留学したいと話をしていたら、ある日「廊下に留学のポスターが貼ってあったよ」と教えてくれた。そこに書かれていた留学にかかる費用は、前調べた会社のものよりも100万円程低かった。私は帰宅後お母さんにもう一度お願いをした。バイトを頑張って、成績もあげるからと。そしたらなんと許可が出た。とても嬉しかった。反抗期でお父さんと話をしなかったけど、お父さんにも感謝の気持ちが湧いた。
それからの毎日は今までとは全く違った。目標を持つとこんなにも人を変えることができるんだと思った。それまでは退屈で授業中は窓の外ばかり見ていて青空ちゃんと先生の間で呼ばれていた私は、クラスの中心になって授業に参加した。私に対する周りの人たちも変わった。バイトは平日は17時から22時まで、休日はほぼ1日中入った。それでも英語をはじめ全体的に成績も上がった。
毎日が充実していて楽しかった。それからTと私は同じ時期に1年間のアメリカ留学をした。二人とも現地の一般の高校に通っていた為忙しかったが、たまに連絡を取り合った。辛いこともたくさんあったけど、一人じゃないって思えて頑張れたのは、Tの存在があったからだった。

あれから15年程経った今、私はTのインスタグラムを辿ってTの書いたnoteを読んだ。とても面白かった。Tの書いた記事全てを一気に読み終えた。私も書きたいと思った。そのことをTに伝え、書き方のコツを聞くと、おすすめの本を一冊教えてくれて、「とりあえず書いてみな」と言った。
とりあえず行動してみることが大事なんだと、言葉数少なく伝えてくれたのだろう。そうやって新しい風を吹かせるTもさながら、ブスと言われてもTと友人でいた屈強のハートを持った自分に拍手したい。


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