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恋と農業 車輪の方軸

世の中には農業指南書が溢れかえっている。僕もときどき読む。
そこには肥料のつくり方とか配分の仕方、土壌状態の判別方法とか育苗のやり方、植えつけ方法から農薬の代わりになる嫌避剤の製造法、使用法など、ありとあらゆる事が書かれていて、とても勉強になる。

先人たちの役に立つ知識や技術がたくさん載っていて、その理論的なアプローチは、凝り固まったおっさんの脳みそのなかでも理解しやすくて、とてもありがたい。理論を知ることは、感覚の再確認にもなる。

でも、それらは車輪の方軸でしかないんじゃないか?とも思う。

車輪は両方が揃っていて、はじめて前に進むことができる。
そのもう一方の側の話を書きたいと思った。

自己主張の強い野菜たち

自然農寄りの有機栽培をしている僕の田畑の作物たちは、かなり自我が強い。自己主張もなかなかのものだ。自立しているから大抵の虫や雑草には負けない。病気になっても自力で治す。虫食いもあるにはあるけれど、そこまでは齧られない。虫も嫌がる自己主張である。

肥料をまったく使わない訳ではないけれど、殆ど使用していない。(ソレとコレはおなじものの別のかたちなので、そのうち話す。いまは長くなるので放置)それで育つのか?とよく聞かれるのだけれど、目の前の自己主張の強い野菜たちを見て、皆さん腑に落ちない感じで受け入れてくれる。騙されやすい人達は目を輝かせる。うん、素直だね~。

土の学校

数年前から求める人達向けに農業学校を開催している。
お金を払って、田んぼの草取りや畑の草抜きをする奇特な人達の集まりです。でも、まあジョギングが大流行りな世の中なので、そんなモノなのだろう。健康な汗を流すと言う意味ではおなじだけれど、流した汗の後においしいお昼ごはんが食べられるから好きな人たちには向いてるのかもしんない。おしゃべりとおいしいごはんは、結のひとつのご褒美だしね。

学校では、田植えから脱穀までのお米作りをベースに、畑の事もやってもらっている。話は逸脱するけれど田んぼの体験と言うと、普通は『田植え』と『稲刈り』をメインにしている所が多い。わかり易いからね。
ウチのメインは『草取り』である。泥濘んだ田んぼに入って、延々と手で土を混ぜるだけの作業。意味を見出しにくい、遣り甲斐がわかりにくい作業。

僕は、無意味と思える仕事をみんなにして欲しい。『俺はなにをしているのだ?』と我に返って欲しい。対岸までの遠い道のりにウンザリして欲しい。無農薬って、疲れると知って欲しい。翌日ばっちり筋肉痛になって欲しい。

それが農業の本質のひとつだからね。

教えてくれない

この学校では、今のところ参加者と一緒に僕もおなじ作業をすることが多い。一緒に汗を流しながら近くで作業をしている参加者と正直どうでもいい話で盛り上がっている。時々これじゃいかん、と過去に話して受けた農業よもやま話とかもするにはするけれど、特に教えることはしない。

僕の話は、殆どが観念的なコトしか喋らない。感情と感覚の話しかしない。
勿論、学校である以上は、聞かれたらわかる範囲で教えることもある。流石に、それぐらいの知識ある。けれども農業指南書に書かれているような役に立つ技術を、積極的に教える事はしません。そんなモノは、このご時世 得たいと思えばいくらでも手に入るのです。簡単で気軽に与えられないなら欲しくない、ならば、そんなモノは最初から必要ない

五点百姓

自然の事や農業の事を僕が人よりも知っているかと言えば、そうとも言えない。一人の時間が人よりも長かった分、代わりに野菜やお米と仲良くしてきた時間が長いだけ、子供の頃に野山を走り回っていた時間が長いだけ、たったそれだけの違いしかないと思っている。
100点満点のテストなら僕の知っている事なんて5点くらいのものだ。
自慢じゃないが胸を張って言える。(本当に自慢にならない)

5点の百姓が人に教えられるのか?どうだろう?知らない。

でも1点や2点の人には教えたっていいんじゃないか、と僕は思っている。
あと何十年か土をいじり続けたら僕も30点とか、がんばれば40点くらいになれるかも知んない。
でも、その頃には偏屈なおじいさんになっていて、人と話すことが嫌になってるかも知んないし、もう手遅れになっているかも知んない。(なにが?)


感じてください

草原みたいな畑を歩きながら話す。

自分が『うつくしいと感じる畑にすればいいだけ』
『きれいだと思うモノを増やしていけばいいだけ』
『正しいと思う選択を続ければいいだけ』
『それはあなたにしかできない。他の誰かの畑じゃない。あなたの畑は、あなたにしかできない』

こうして書くと、なんだか新興宗教みたいだなぁ。

教祖は田畑で、教義は気持ちいい、なのか?

うん。僕はそれでいいと思う。答えは、足元にすでにある。










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