my favorite street
仕事に行く時、そして帰って来る時、わざわざ通る道がある。
週末などは、手前にあるショッピングモールの買い物客の車で渋滞するので(マイカー通勤です)迂回した方が断然早いのだが、わざわざ混雑する道を抜けて、そこへ行く。
そうまでして、その道に一体何があるのか。いや特別なものは何もない、普通の生活道路だ。
しかし私にとっては、とても面白い場所なのである。
その通りはメイン道路から少し入った所にある。全長約500メートル、車だと1分ほどで通り過ぎてしまう距離だ。道幅は狭く、車同士がすれ違うのがやっとである。もし歩行者がいた場合は、一旦停止して対向車を行かせなければならない。
道の両側には、古くからの民家が建ち並ぶ。昭和の時代に建てられたと思われる瓦屋根にブロック屏、小さな庭付きといった感じの家が多い。そんな家々の間で、これまた年季の入った店構えの美容室と肉屋がひっそりと営業している。こんな場所で商売が成り立つのかと不思議に思う。おそらく客は全て、半径30メートル以内に住むご近所さんだろうなと推測する。
肉屋の横に、普段あまり見かけないヤクルトの自販機がある。以前、学校帰りと思われる中学生がそこで飲み物を買っているシーンに遭遇した。『サザエさん』に出てくる、カツオの友達の中島くんが学生服を着ているような子だった(中島くんは小学生だけど)。素朴な中学生男子とヤクルトは、すごく似合っていた。
さらに、この通りにはちょっと不釣り合いなんじゃないかと思うようなものがある。それは「画廊」である。白い外壁に青い屋根、そして外国の建物のような木の扉、とてもシックな店構えだ。なんだか、そこだけ別の空間のように見える。
かなり昔の話だけれど、ちょっとしたお付き合いでクラッシックのコンサートを聴きに夫婦で都内へ出掛け(たしかサントリーホールだった)、そしてその開演前に、会場近くの画廊で版画の個展を観るという、いささか「私達、場違いなんじゃない?」という体験をした事がある。
それもあって、画廊とは都会の、しかもクラッシックのコンサートを趣味にしているような人達が行く場所にあるもの、というイメージを私は持っている。
なので、何故こんな寂れた通りに画廊なんてものがあるのか気になってしょうがない。一体どんな人がオーナーなのだろうか。どんな人がここに絵を探しに来るのだろうか。果たして、こんな場所で商売が成り立つのだろうか……?(美容室や肉屋より難しいんじゃなかろうか)
あと一つだけ、私が気になってしょうがないものを書かせて欲しい。
それは、一見ごく普通の民家である。築年数は結構経っていそうで、玄関の横にはトタンで出来た物置きがある。で、その軒下にいつも洗濯物が干してあるのだが、なぜか必ずTシャツ一枚だけなのだ。スペース的にはまだまだ干せる余裕はある。にもかかわらずTシャツ一枚だけが、いつもかき氷屋さんの「のれん」のようにぶら下がっている。
シャツの色は黄色だったり、ピンクだったり日によって変わる。まるで何かのサインみたいだ。もしもただの洗濯物じゃなく誰かに送っているサインだとしたら、ちょっと面白いかも。そんな想像をしながら、ひとりで楽しんでいる。
この様に、ここにあるものは色々と私のツボなのだ。だから、わざわざこの道を通りたくなるのだと思う。
ちなみに以前、夜勤を終えて帰って来る時に、よく見かける人を「自転車さん」と呼び、勝手に親近感を持っているというnoteを書いた事があるのだが、実はその自転車さんに会うのもこの道である。
そう言えば、最近自転車さん見かけないなぁ。
元気にしているかな。
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