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中途半端がお似合いです

あれはたしか私が20代後半くらいの頃だったと思う。

はじめて行った美容院での出来事。

今みたいにネットで検索して店を探すなんて事の無い時代、外観を見てなんとなく入りやすそうだったから、それだけの理由で決めた美容院だった。

「いらっしゃいませ〜」

店に入るとすぐ、いかにも接客業という感じの40代くらいの美容師さん(女性)が満面の笑みで私を迎えた。

店内は割と広めで、他にも美容師の方が数名いたような記憶がある。

そして、最初に迎えてくれた美容師さんは営業スマイルのまま「当店はカットの前にカウンセリングをさせていただいております」と言い、細身のテーブルとイスが置いてあるちょっとしたカウンセリングスペースへ私を案内した。

そこでどんな話をしたのかはよく覚えていない。

多分ヘアケアの悩みを聞かれたり、私は私で自分がどんな髪型が似合うのか分からない、なんて事を言ったような気がする。

いくつかの質問に答えたあと最後に美容師さんからアドバイスをもらうのだが、その最後の一言が面白すぎた。

そうですね〜、お客様は中途半端な長さの髪型がお似合いだと思います!

おそらくショートでもなくロングでもなく、セミロングとかミディアムヘアくらいが似合うという意味で言ったのだと思うが、それにしても中途半端って(笑)

一瞬(ん⁈)となったが、まあでもアドバイスはありがたく承る事にした。

で、ここからが本題なのだが、実はこの時の「中途半端がお似合いです」という言葉を、私はずっと忘れる事が出来ずにいた。

それは何故か。

当時から仕事が長く続かず転職を繰り返していた私は、そんな自分を心の中で中途半端な人間だと感じていた。

それ故にこの言葉は髪型だけじゃなく、自分自身の事をズバリと言い当てられた様な気がしたのだと思う。

何も成し遂げられていない自分。

所詮、中途半端がお似合いな自分。

度々思い出しては、自虐的になっていた。

でもここ最近、ちょっと考えが変わってきている。

たとえ人からは中途半端に見えたとしても、自分の中でキリがついていればいいんじゃないのか?

そんな風に思い始めているのだ。

今だって、相変わらず人から見れば中途半端な事をやっている。

例えば十数年前、数百万かけて3年間専門学校に通い国家試験を受けて取得した医療系の資格、その資格の教員免許も取ったのに現在は全く関係ない仕事に就いている。

前職までは資格を活かして働いていたのに、勿体ないと当然周囲からは言われた。

でも今の仕事は自分の性に合っていると思っているし、医療系の資格は筋トレをする時のメニューを考えたり、自分の体のメンテナンスをするのに役立っている。

私にとっては、それで十分満足なのだ。

改めて考えてみれば、過去の仕事についても軽い気持ちで辞めた事は一回もない。

どうにか続けたいと努力して、でもどうしてもダメで、悩みに悩んでもう辞めるしかないというところまで悩んだ末の退職だった。

なので人には唐突に辞めたように見えても(それはそれでちょっと申し訳ない部分もあるが)、自分の中では全力で考えた上での決定事項だった。

繰り返しになるけれど、自分の心が「これでいい」とか「もうここまで」と思ったなら、もうそれでいいんじゃないかな。

自分と向き合うって苦しい事だから、それが出来た自分を自分だけはちゃんと尊重してあげなきゃいけないんじゃないだろうか。

かの有名な、相田みつをの書にもある。

しあわせは
いつも
じぶんのこころが
きめる

その通りだな、と思う。

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