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予測不能マン

私の職場に、全く行動が読めない人がいる。

その人は、お笑いコンビ『フルーツポンチ』の村上さんになんとなく似ているので、仮に「村上さん」と呼ぶ事にする。

ちなみに村上さんは、この会社に10年近く勤めているベテランである。

村上さんの出勤時間は、いつも始業時刻ギリギリだ。間に合っているからいいのか、それともずっとこうだから諦められているのか分からないが、誰からも何も言われない。

村上さんとペアで製造ラインに入り、流れてくる製品を検査している時、村上さんは他に気になる事があると、何も言わずにラインを抜けてサッとどこかへ行ってしまう。

これには最初、驚いた。(ええ〜っ!一人じゃ間に合わないよぉ)と思いながら、どんどん流れてくる製品と必死に格闘していると、スーッと戻って来て、また何事も無かったかのように作業を始める。

また先日は、他の職員と二人で休憩に行った村上さんが時間になっても戻って来ないので、一緒に行った職員に「村上さんは?」と聞くと、「途中まで一緒だったんですけど、気が付いたらいませんでした」と、まるで危険地帯から、命からがら逃げて来た人のような答えだった。

その場にいた全員で「どこに行ったんだろうね〜」と話しながらふと見ると、ガラス扉の向こうに、隣の部署の作業風景を腕組みしながら観察している村上さんの姿があった。

本当にどこに飛んで行くのか分からない、パチンコ玉のような人だ。

村上さんエピソードは、まだある。

ある日、一人の職員の作業用手袋が無くなった。製品に混入しては一大事なので、私の職場は紛失物には非常に神経を尖らせている。手の空いている全員で探し回った。しかし、見つからない。村上さんも、もちろん探していた。誰よりも広範囲を、誰よりも熱心に。

数時間後、手袋は見つかった。村上さんが間違えて自分の手にはめていたのだ。

「どこにいっちゃったんだろう」と、必死に探していた村上さん。いや、あなたがはめてますから、という話だった。

そんな村上さんは、女性陣からの評判がすこぶるよろしくない。しっかり、キッチリしている女性陣からすると「全くもう!いつもフラフラと勝手な事ばかりして!」という、ところだろう。

反対に、男性陣からは好かれている。やや、かまわれている感も無きにしもあらずだが、男性陣は村上さんのキャラクターを割と面白がっている雰囲気がある。

私も、村上さんの事は嫌いじゃない。

というか、今までさんざん痛い目にあって、かなり気を付けているものの、本来は私も、興味の無い事には集中出来ず、気になる事があると後先考えずに突っ走ってしまう、という村上さん寄りの人間なのだ。

だから、村上さんが何のたくらみもない単純な人だという事や、自身の突拍子もない行動で誰かが戸惑っているなんて本当に本当に分からないんだって事が私には理解出来る。

ちょっと気を抜いたら、私もおそらく予測不能ウーマンなのだ。


村上さんは、自分の知っている知識を人に教える事を厭わない。

ベテラン職員の中には「忙しい時に、聞いてくるんじゃねー💢」と、常にピリピリオーラ全開で、ちょっと話しかけづらい人もいるが、村上さんはいつでもフラットに対応してくれる。

入社半年で、まだ自分で判断出来ない事も多い私にとって有難い存在だ。

それともう一つ、村上さんは入社してまだ日の浅い新人にも「実際にやらないと、覚えられないから」と、どんどん仕事を振って来る。

女性陣曰く「自分がやりたくないから人に振るんだよ」という事らしいが、どちらにせよ最初は戸惑っている新人(私も含めて)も、結果として早めに仕事を覚える事が出来て、その後は自ら積極的に動けるようになっているのは確かだ。

一見、無茶振りに思える村上さんのやり方だが、案外いい方法なのかも知れない。

たまにハラハラする事はあるけれど、予測不能な村上さんと仕事をするのは、結構楽しいと私は思っている。

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