デスクワーク系社畜おじさん、2年連続3度目の痔の手術へ……

いぼ痔を患い始めたのは何時頃からだったか、明確な記憶はない。

少なくとも大学生くらいには、何となく、肛門に違和感があった。

排便時に、尻の穴の奥から、何かがひょっこり顔を出す時がある。
けれど、しばらくするとそのひょっこりさんは引っ込んで、パンツ越しに尻の穴周辺を触っても違和感はない。

気のせいかな?

うん、気のせいだよね。
気にしない気にしない。
さあ、今日もストレスを晴らすためにヤケ酒だあ!!

そんな学生生活を送り、社会人になってから双極性障害(躁うつ病)Ⅱ型の診断を受けた頃には、更に自暴自棄になって、朝から缶ビールを開けてた時期もあった(仕事は休職していたので、まあ飲んでもいいのだが、休職中の生活態度としては最悪だった)。

酒量が増え、もともと緩かった便は一層水気を含んで下痢ばかり。
これが、いけなかった。
痔が急速に悪化し、ひょっこりさんが肛門から露出して、なかなか戻らなくなった。

こいつこそが内痔核。
いわゆる「いぼ痔」である。

痔はそもそも、下痢や便秘、いきみ、長時間便座に腰かけるといった習慣によって、肛門の血液循環が悪化し、結果的に静脈叢がうっ血して膨らんだ状態のこと。

内痔核は「歯状線」という直腸と肛門の境目の上側(直腸のほう)にできたもので、下側の肛門上皮にできるほうは、外痔核というふうに区別するという。

私の場合は排便習慣の悪化と、もともと親族に痔持ちが多いという遺伝的な理由が大きかったらしい。

それでも、医者とはいえ、アカの他人に自分のケツの穴を見せることには大いに躊躇してしまった。

そしてさらに、私の治療への決意を鈍らせたのが、内痔核の場合痛みがまるでなかったこと。
いぼがひょっこり飛び出してきて、排便時に不快感があるのは確かだが、とりあえずは便が通ってる間に激痛に襲われることもないし、出血もなかった。
そして、横になっている間にひょっこりは頭の先っちょだけ残して肛門に戻っていった。排便時以外は、とりあえずは肛門を気にせずに生きていける。

まあ、いいか。

こうして私は、メンタルの治療が優先ということもあって、いぼ痔のことはとりあえず棚上げにした。

が、これが痛恨の判断ミス。
さっさと治療すれば良かったのだ。

とりあえず働ける程度にメンタルは安定を取り戻し、転職を経て、酒も節度を持って飲むようになり、とりあえずは人生が少し落ち着いてきたかなと思っていた2018年の秋。ついに肛門の中から出たり入ったりを繰り返していたひょっこりが、完全に脱肛して戻らなくなった。割とまとまった出血があり、さすがにヤバいかな・・・と思っていたのも束の間、まともに便が出なくなり、何やら白い粘液みたいなものが混じった、異臭のする黒いコロコロした小さな便がやっと出る程度に。

ああ、これはもうアカン。
さすがに観念した。
ケツ穴を曝け出す決心ができた。
どうせ頼むなら、思い切って痔の権威的な専門医がいいと思い、いろいろ調べて、大阪にある診療所へ。

眼鏡のおじいちゃん先生の双眸に、ほぼM字開脚をして下半身を曝す成人男性。なんとも、客観視したら居た堪れない恰好かもしれないが、あくまで治療行為。先生は「おお、これはなかなか、大きく育てましたね」と言い、「とりあえず軟膏と経口薬を出しますが、これは手術が必要ですねぇ」と、なぜかちょっぴり楽しそうに説明。

まあ、しゃーなしでした。

その後の経過は色々と波乱もあったのですが(術後に便が肛門を通らないで人生初の浣腸を経験したことなど)、ここでは割愛。

1回目の手術は2018年11月。
古典的結紮(けっさつ)手術。

患部のいぼを小さな輪ゴムで結んで縛り、根元を締め付けて痔核をしぼませて、自然に離脱するのを待つというもの。患部を切られて括約筋が傷つけられるのが無性に怖くて、この術式を先生に頼むことにした。保険適用は無かったので、実費で30万近く支払うことになった。

これに懲りて、その後は排便習慣に気をつけて再発を防ごうと固く心に誓った。

が、歴史は繰り返す。

結局は、排便中にスマホをいじって便座オンタイムが長くなるといったNG行為をやめられず、日々のデスクワークで肛門に少しずつ重力による圧迫を加えていたこともあり、4年ほどで再発。

折しも仕事が忙しくて、放置している間にまたひょっこりさんが成長。前回とほぼ同じ場所にできてしまったようで、ようやくまたあの先生の診療所の門を叩いたころには、「こりゃ、手術になりますね。でも今回はまだ注射でいけますよ」。

2回目の手術は2023年6月。
ジオン注射(ALTA療法)による手術。

内痔核に直接注射して、痔核に流れる血液の量を抑えて縮ませるという方法。内痔核自体は粘膜にあって痛みがないから、注射は麻酔もなく日帰りでアッサリ終了。しばらくして、鬱陶しい脱肛はなくなり、ようやく平穏な便通の毎日が訪れた。

と思われた。
しかし歴史はまたも繰り返す。

2024年6月29日。
関東方面に旅行中、新幹線で帰路についたころに急に肛門部に鈍痛が生じた。

え、マジ?
まだ1年しか経ってないのにもう再発したの?
ていうか昨日までこんなデカいの無かったよね!?
きみ(ひょっこりさん)、どっから出てきたの!

というか、痛い!
え、なにこれ、結構じんわり痛いんですけど!

いやもうむしろ座るのきついくらいに痛いんだけど!
こんな経験ないんだけど!
お前、本当にいつものひょっこりさんか!?


「ああ、これ血栓性の外痔核ですね」


みたび診療所の門を叩いて先生も見飽きているであろう尻穴を曝すと、私の患部を視たおじいちゃん先生は即答した。
こんどは内じゃなくて外のほうでしたか……。

「これはねぇ、痛いんだよね。この大きさだと、切らないといけないかもね。とりあえず、経口薬と軟膏を出しますから、2週間ほど様子を見てください」

そんなわけで、様子見中(今ここ)。
3日前に便器が鮮血で真っ赤に染まるほどの出血があり、恐れおののいて先生に電話したが、「ああ、治療中によくありますから。幹部は圧迫しておくようにね」。何度見ても、尻穴からの出血は怖くて慣れられそうもない。

出血でちょっと縮んだものの、相変わらずうっすらと疼痛の残る外向型のひょっこりさん。パンツ越しに撫でてみる。愛着は湧かないが、これも私のからだの一部であることは、間違いないのだ。

すっかりいぼ痔のデパートと化してしまった私だが、二度あることは三度あっても、四度目はないように、今度こそは気をつけたい。

酒はもう、今度こそ本当にやめよう。
肛門の先生だけでなく、心療内科の先生からも、酒はなるたけ控えるように勧められている。当たり前だ。昔の一時期に比べれば随分酒量も頻度も減ったわけだが、それでも猛烈に飲みたくなるときがたまにある。
さすがにアルコール依存症と診断されるほど深刻な状況ではないのだけれど。

ダメな習慣はいくらでも続くのに、良い習慣は本当にまず1週間が続かない。
ああ、なんとも、人間ってやつはダメだなあ。
というか、私のことだけれど。

手術に向けて肛門括約筋を鍛えていこうかと思ったが、尻穴をしめるトレーニング法は、かえって痔を悪化させる場合があるからむしろNGらしい。

肛門にこうも悶々とする日々から、はやくオサラバしたい。
切実に。

(了)








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