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イノベーションシステムと人材育成 (第1回:USA)

 

 このスライド集は2020年度に行われたJICA北海道による、発展途上国の政府および大学・研究所等の中堅行政官・研究者を対象とした研修、「クラスターアプローチによる産業振興コース」の一部で、イノベーションと人材育成にかかわる講義の日本語原稿です。実際の研修は英語吹替の講義ビデオと英文テキストを参加各国に配信し、オンラインで行われました。講義項目は以下の通りでした。カッコ内の数字は、項目が始まるスライド番号です。

はじめに.イノベーションとは何か    ・・・・・・・・・・ (2)
1.USAにおけるイノベーションシステム ・・・・・・・  (5)
2.ヨーロッパにおけるイノベーションシステム ・・・・   (13)
3.日本におけるイノベーションシステム ・・・・・・・   (29)
  (産業クラスター形成過程を解説するため、
          2000年から2016年の動向を中心とした。)
4.イノベーションマネージャー育成講座とその成果 ・・   (40)

 本noteでは、上記の項目を4回に分けて連載します。第1回は、「はじめに.イノベーションとは何か」、「1.USAにおけるイノベーションシステム」を掲載します。第2回では、「2.ヨーロッパにおけるイノベーションシステム」、第3回は、「3.日本におけるイノベーションシステム」、第4回は、「4.イノベーションマネージャー育成講座とその成果」を掲載します。

はじめに. イノベーションとは何か


 ◆-1 イノベーションとは?

     産業クラスターは地域の競争力を高めるために作られるものです。地域の競争力の源は何か? 資源や労働力がその源であったのは過去のことです。現代では地域の産業競争力は、産業の革新能力、言い換えるとイノベーションを創出する能力を源泉とするのです。産業クラスターをマネージする人は、イノベーションをマネージする人なのです。そこで、講義の最初に、イノベーションについてお話しします。
    イノベーションとは何か。1776年にジェームス・ワットは蒸気機関を改良し広く応用できるエンジンとしました。これは発明です。1802年、リチャード・トレビシックは蒸気機関で走る蒸気機関車を作りました。これはイノベーションでしょうか? いえ、違います。まだ発明なのです。1830年ジョージ・スティーブンソンが鉄道を敷き、駅を作り、列車に荷物や人を乗せて走りました。これがイノベーションなのです。

◆-2 イノベーションの理論

    イノベーションを最初に研究した経済学者はシュンペーターです。
彼はイノベーションは「新しい結合」であり、「馬車を何台つなげても汽車にならない。強力な蒸気エンジンと客車と貨車をつなぐことにより、イノベーションが創出された。ここには不連続な過程がある」と述べました。さらに、産業、流通から文化様式に至る総体的な変化が起こると述べ、これを「破壊的創造」と名付けました。

    また、イノベーション創生に重要な点について次のように述べています。
・新結合:科学的に新しい発見に基づく必要はなく、商業の新しい方法も含んでいる。
     これはとても重要なことですね。
・企業家の機能とリーダーシップ:企業家のみがイノベーションを実現できる。
・信用創造の重視:起業家と銀行とのクラスターが重要である。
この3点です。

◆-4 現代におけるイノベーションの例

    現代におけるイノベーションとしてGoogle とiPhone を代表的な例として挙げることが出来ます。
    Googleはシュンペーターの「馬車を何台つなげても汽車にならない」という言葉を借りれば、「コンピューターを何台つなげても検索システムにはならない」のです。強力な検索エンジンとインターネットをつなぐ「新結合」によってイノベーションが創生されたのです。
    iPhone の場合は「この世に無かった組み合わせ」が、「この世に無かったニーズ」を作りました。「どこでも」というコンセプトと「画面タッチ」の組み合わせです。
     シュンペーターの言葉と比較してみましょう。
・新結合は科学的に新しい発見に基づく必要はなく、商業の新しい方法 も含んでいる。:Google を使うときにお金はかかりませんね。新しい商業の手法が入っているからです。
・起業家の機能とリーダーシップ:これはスティーブ・ジョブスのカリスマリーダシップを見れば明らかです。
・信用創造の重視:シリコンバレーのエンジェルとベンチャーキャピタルですね。これが無ければGoogleもiPhoneも出来ませんでした。

1.USAにおけるイノベーションシステム

1-1. USAにおける産業クラスター形成 - Silicon Valley 及び Washington 
       Metropolitan Area (D. C. Area) -

    次に現代の産業クラスターを見ていきましょう。最初はアメリカ合衆国です。シリコンバレーとワシントン及びその周辺部を見ていきます。

1-2.   シリコンバレー - スタンフォード大学(1) -

    シリコンバレーのクラスターはスタンフォード大学から生まれました。今もスタンフォード大学はその中心です。大学構内には共同研究施設があります。そこにはゼロックスやインテルなどイノベーションを起こした企業が大学との共同研究のために入居しています。そして、世界各地を担当する教授が、世界と連絡を取っています。左上の写真は東アジアを担当するダッシャー教授です。

1-3.   スタンフォード大学(2)

    スタンフォード大学の産学連携システムを図示したものです。シリコンバレーにはTechnology-Based Economic Development の風土があります。スタンフォード大学には研究マネジメントシステムがあり、産業を発展させる研究を行う大学の研究者にインセンティブを与えています。その制度の上に大学の研究が成り立ち、企業との連携を推進するリエゾン・オフィスと受託研究契約をサポートするOSR、特許や技術を移転するTLOがあり、基礎研究を産業技術研究に押しあげます。これらの研究を、エンジェルやベンチャーキャピタルの投資、ビジネススクールやインキュベーションプログラムによる経営のトレーニングによってベンチャー企業が生まれビジネスに発展します。

1-4.   シリコンバレーの企業

シリコンバレーの代表的な企業です。インテル、アップル、グーグル、フェイスブックです。

1-5.   ワシントンD. C.エリア

    次にワシントンとその周辺部を見てみましょう。

1-6.   メリーランド大学

    ワシントンエリアを見てみましょう。ワシントンDCの隣の州、メリーランド州にあるメリーランド大学です。ここは学生数6万人で大学構内数ヶ所に ”Technology Program Building” があります。施設内にはオープンラボラトリーやベンチャー企業のオフィスがあり、経済学や経営学の教授がアドバイスをしています。

1-7. USAの大学におけるアントレプレナー教育  - メリーランド大学を例に

     これはメリーランド大学の起業家教育のプログラムです。大学からは研究成果、コンセプト、アイディアが生まれ、それらを「教育」、「起業創出」、「既存企業との連携」を促進させるプログラムにより産業に押し上げ、メリーランド州を活性化させようとするものです。

1-8.  USAにおけるイノベーションシステム

    アメリカ合衆国のイノベーションシステムを図示するとこのようになります。
    基礎研究、開発研究、事業と進む過程で、基礎研究は大学が担い、事業は企業が担いますが、大学の活動範囲が広いことが特徴です。大学は事業の領域にまで活動を広げています。企業とのオーバーラップは大きく、容易に技術移転が起こります。
    大学では起業家教育が充実し、スタートアップに対してはエンジェルやベンチャーキャピタルからの潤沢な投資があります。少し古いデータですが、2012年のアメリカでのベンチャー投資額は267億ドルです。同時期の日本、2012年では9,85億ドルにとどまっています。
大学構内や大学周辺にインキュベーション施設がありスタートアップが生まれやすい環境になっています。

(次回はヨーロッパのイノベーションシステムを掲載します。)

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