津次郎

映画レビューなど。 vulnerable9115b.hatenablog.com

津次郎

映画レビューなど。 vulnerable9115b.hatenablog.com

最近の記事

熱演なのはわかる ミッシング (2024年製作の映画)

沙織里(石原さとみ)は必死さをだそうとしているのがわかった。が、必死さをだそうとすることと、必死に見えるのはちがった。 砂田(中村倫也)は局の方針に疑念をもつ情け深い記者──という設定だが、昨日今日番組づくりをはじめた──わけでもない局内でヒューマニズムと視聴率主義が対立している様子にはムリがあり、結局憐憫をかせぐ状況をつくりだそうとしている気配が、リアリティを上回ってしまっていた。つまり世間の冷たい風にあてられる沙織里たちと、局内で葛藤する砂田を描くことで、惨禍を盛り上げ

    • 不幸の連鎖 あんのこと (2023年製作の映画)

      まず売春と薬物常習者である杏(河合優実)が描写される。底辺な生活環境と、母の春海(河井青葉)の毒親ぶりも併せて描かれる。 個人的に日本映画の壮絶人生描写には、はいはい悲惨ですね──という印象しかおぼえない。日本映画の、なんか衝撃を与えようとしてくるところが嫌だわ。 不幸な状況ほど淡々と描くべきだと思うが日本映画が100あると99は不幸盛り描写をしてくる。 この人物が不幸であることを否定するつもりはない。ただし不幸はたんたんと描かないと、凡百の日本映画に埋もれますよ。と言いたい

      • 腐敗した警察との闘い レベル・リッジ (2024年製作の映画)

        Jeremy Saulnierが書いて製作も編集も監督もやっている。やはりSaulnierが書いて監督したBlueRuin(2013)やGreenRoom(2015)をよく覚えている。独特でギリギリで苛烈なアクションスリラー。主要人物を絶対絶命or四面楚歌なシチュエーションへ落とし込んで、はらはらどきどきさせるのが巧い。本作でもその本領が発揮された。 現代劇だがプロットは西部劇のそれ。 足は馬ではなく自転車だったが、テリー(Aaron Pierre)は通りすがりのよそ者であ

        • 思春期のメカニズム インサイド・ヘッド2 (2024年製作の映画)

          日本語脳で考えると頭の中の話なんだからインサイドヘッド。 邦題に文句をたれることがよくあるが、これは邦題のほうがしっくりくる。 しかし、それならinside outってのはどう訳したらいいのか。検索して意味を見ても分からなかった。 inside outは片耳に天使がいてもう片耳に悪魔がいて双方が交互に囁きあっている──という定型の心象葛藤表現を複雑化&可視化させた映画といえる。 前作のレビューに『悲しみを乗り越えて、崩壊した自我が戻ってくる過程=ヨロコビがカナシミの存

        熱演なのはわかる ミッシング (2024年製作の映画)

          不可解な寮則 サイダーハウス・ルール (1999年製作の映画)

          サイダーハウスルールは超簡単に言うと妊娠中絶が道徳的に間違っていると考える若者が、実際に世の中を体験して、それが必要なものだと知る──という話です。 セントクラウドはラーチ博士(マイケルケイン)が院長をつとめる孤児院兼産院です。 博士は望まない妊娠をした女性の出産を手伝って赤ん坊を預り、ときには違法の堕胎も請け合う、博愛と現実主義を併せ持った赤ひげタイプの医師です。 孤児のホーマー(トビーマグワイア)はラーチ博士にたいして継父の恩義がありますが、外世界への好奇心が抑えられ

          不可解な寮則 サイダーハウス・ルール (1999年製作の映画)

          満の満々 キングダム 運命の炎 (2023年製作の映画)

          お好きな方はスルーでお願いします。 多数の人にとっての愉しみがじぶんにとって苦しみであるということがあります。この映画を見ることは苦痛というより拷問でした。それなら見なければいいのですが、これが面白いという感性が中央値であることは、衝撃かつ納得できなかったので前作・前々作でも感想をあげてきました。 誰も傷つけるつもりはありませんし、望まれて供給した結果、需要が満たされた以上何の問題もありません。ただ、どんなことでも自分の意見が世評と乖離しているばあい、同意見を探すことがあり

          満の満々 キングダム 運命の炎 (2023年製作の映画)

          野心と純心 ルックバック (2024年製作の映画)

          PVを見て、むしょうに見たくなった。吸い寄せられるような絵と声。アニメなのにカメラワークを感じるPVだった。特別なもの・フレッシュなものを感じたので映画館へ行った。 じぶんは漫画を見ない人で、何も知らないまっさらで見た。 小学校四年生の藤野は漫画がじょうずで運動能力にも優れたクラスの人気者だった。尊大な態度だが、まだかわいい範囲内である。 学園新聞に四コマ漫画を連載していたが、不登校児である京本の漫画と併載されたとき、京本の画力は彼女の自尊心を打ち砕いた。 しかし京本は自ら

          野心と純心 ルックバック (2024年製作の映画)

          イスタンブールの猫たち 猫が教えてくれたこと (2016年製作の映画)

          獣を擬人化させてしゃべるやつではなく、かわいいで釣るペット映画でもない。猫の視点にカメラを下げると、その肩越しに人間界の雑踏が見える。 オスマン朝が興隆したとき下水道が配備されたがそこへネズミが繁殖し地上へ出ては民家を荒らすようになり、対策のため人々は猫を飼うようになった。 その時からイスタンブールは人間と猫が共存する街になった。そうだ。 街の人々は透明グラスに入った赤茶色の飲み物=チャイをしきりに飲む。必ずソーサーに載り、必ずスプーンが付いている。座るとチャイが出てくる

          イスタンブールの猫たち 猫が教えてくれたこと (2016年製作の映画)

          大人のコメディ ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋 (2019年製作の映画)

          Hailey Welch(22)は今(2024/07)アメリカで大流行しているバイラルスターである。 動画のオリジナルはYouTubeやTikTokによくあるバズるのを目的としたNSFWな街頭インタビュー。質問は「ベッドで男性を夢中にさせる行動は何ですか?」だった。Welchは差し出されたマイクを一物に見立てるような格好をしつつ、南部訛りで「『Hawk Tuah』して、あれを唾でベトベトにすんのよ!分かる?」と快活に答え、その独特な回答と仕草と可憐な外観で動画は鬼のごとくバズ

          大人のコメディ ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋 (2019年製作の映画)

          気まずい 夜明けのすべて (2024年製作の映画)

          リアルというよりawkward。 awkwardの翻訳を見ると、気まずい、ぎこちない、不味い、照れくさい、重苦しい、ぶざまな、不器用な、不具合な、不為な、など。 ドキュメンタリータッチのリアル演出だが、な~んか、いちいち気まずい。びみょうな不自然さがついてまわる。それが気持ちわるかった。ぬるっとしていて、からっとしてくれない。 その形容は気まずいがしっくりくるが、ぎこちなさ、照れくささ、重苦しさ、ぶざまさもあり、つまりawkwardだった。 同僚男性のアパートで女性が髪

          気まずい 夜明けのすべて (2024年製作の映画)

          日本ぶらり鈍行旅 青春18×2 君へと続く道 (2024年製作の映画)

          ジミー役グレッグシュー/許光漢の起用は18歳と36歳ができるからだそうだ。w 映画が緊張をもたらす理由はたったひとつでアミ(清原果耶)がしにそうな病気を隠匿していること。 そのふたつで成立している映画だが岩井俊二のloveletterを表敬しつつノスタルジー&ロマンチックな絵を並べて尺をかせぐ。台詞に成熟がなく、長くだるい映画だった。 『『青春18×2 君へと続く道』は、賴吉米 (ジミー・ライ) が「藍狐」名義で書いた旅行エッセイ『青春18×2日本慢車流浪記』を基にしてい

          日本ぶらり鈍行旅 青春18×2 君へと続く道 (2024年製作の映画)

          フラグ過多 あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 (2023年製作の映画)

          特攻隊員らが陽気な感じを出しているのが臭かった。 やがて逝ってしまう特攻隊なので、陽気な感じがすべてフラグになってくるから、速い段階でフラグ満腹がおこる。とりわけ伊藤健太郎が元気いっぱいのムードメーカーを演じているのが胃にもたれた。 タイムスリップした女子高生が特攻や戦争の核心に首をつっこむのも不自然。 現代JKであるはずの百合(福原遥)がさっさと1945年の生活に適合し、飢えた子供に「日本は戦争に負ける」と言ったのを津田寛治演じる官憲に聞かれてしまい「この非国民が」とど

          フラグ過多 あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 (2023年製作の映画)

          田舎という地獄 理想郷 (2022年製作の映画)

          スペインの限界集落に移住してきたフランス人夫婦がいじめぬかれる話。 主役はドゥニメノーシェ(Denis Ménochet)。イングロリアスバスターズ(2009)でユダヤ人をかくまうフランス人を演じて国際的な認知を得た──とされているが、確かに一度見たら忘れられない目をしている。 米俳優のロバートミッチャム(1917~1997)は眠り目と呼ばれて親しまれたが、メノーシュも似たような「ねぼけまなこ」をしている。が、愛嬌よりは禍々しさ(まがまがしさ)が勝る。悪役よりも邪悪な猟奇系

          田舎という地獄 理想郷 (2022年製作の映画)

          尼崎育ちの想い あまろっく (2024年製作の映画)

          あまろっくとは尼崎閘門の通称。 工都の号どおり経済成長期に尼崎市の工業地帯は地下水のくみ上げによって地盤沈下をおこしゼロメートル地帯となって水害が多発した。そこで治水および高潮対策と臨海部の船舶利用を両立させる目的で設置されたのが国内最大級の尼崎閘門だという。 親父はぐうたらだがそれを詰られると「おれはあまろっくだから」と弁解する。動かずに護る存在──というような意味だろう。そんな父娘の愛憎が描かれる。 『ちゃらんぽらんで役立たずでほんま迷惑なおっさんやったけど、あたし

          尼崎育ちの想い あまろっく (2024年製作の映画)

          家族への憧憬 ベイビー・ブローカー (2022年製作の映画)

          とても見たかった。 ゆるいしあまい。 リアリティは置いてメルヘンをとりにいった感じ。 登場人物全員の素性がふわふわしている。生活の気配がない。ふたりの刑事なんか、ほとんど買い食いしているだけw。 でもいい。絵がとてもキマる。どのカットも是枝映画史上最高に映える構図だった。 演者たちは言うに及ばず。ちょい役のイ・ドンフィさえしっかり爪痕をのこした。 が、個人的に最優秀男優賞はヘジン君だった。 ヘジン君は捨てられ養護施設で育った。 養子としてもらわれる年齢の上限とされる

          家族への憧憬 ベイビー・ブローカー (2022年製作の映画)

          泣けたによってつたわること

          はてなブログのお題:お題「邦画でも洋画でもアニメでも、泣けた!というレベルではなく、号泣した映画を教えてください。」 号泣したのはプライベートライアンだと思う。 が、映画を見る人が大人になると他人様とじぶんの感じ方の違いに諦観をおぼえるようになる。 その分岐点となっているのが、じぶんにとってプライベートライアンでもあった。 わたしはかつてプライベートライアンのレビューにこう書いた。 こうやって、いったんじぶんの映画嗜好をアイデンティファイしてしまうと、他人様の「泣けた

          泣けたによってつたわること