津次郎

映画レビューなど。 vulnerable9115b.hatenablog.com

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最近の記事

医学博士の車旅 野いちご (1957年製作の映画)

映画は78歳の医学博士イサク(Victor Sjöström)の独白ではじまる。 『いわゆる「人づきあい」の主な中身は、そこに居ない誰かの噂をし悪口を言うことだ。私はそれが嫌で友を持たず、人とのつきあいを断った。歳をとった今ではいささか孤独な日々だ。・・・』 映画野いちごはイサクが学位の授与式に参列するためストックホルムからルンドまで車で移動する道中の様子を描いている。マップを開いたら直線で500キロほど、車で7時間──と出た。当時の車/インフラならもっとかかっただろう。

    • 静かな少女 コット、はじまりの夏 (2022年製作の映画)

      親に褒められるのがなんとなく照れくさくて嫌だった──というのがある。「おまえはできる子なんだから」と言われても、だいたい「そう言ってくれているんだな」ということが解るし、そもそもじぶんはできる子ではなかった。 だから心の中で「いや父さん(母さん)あなたは知らないだろうがね、おれはクラスでみんなからばかにされているんだ、父さん(母さん)が想像もできないほどみじめな子なんだ」と口には出さずに回答する。 機春秋を経て50代になったが何も成しえず離婚して低所得に生きているわたしを年

      • 王室スキャンダル:BBC記者の追及 グレート・スクープ (2024年製作の映画)

        エプスタインの顧客だったアンドルー王子を追い詰めていくBBC記者の話。アンドルー王子のインタビューはBBC史上最高視聴率を獲得し多数の賞を受賞したそうだ。 アンドルー王子はエプスタインの別荘で未成年を買い乱交パーティーにも参加した一顧客だった。だがもっと高い頻度でエプスタイン邸を買春利用した得意客が多数いる。アンドルー王子が大きな注目を集めたのはかれが英国王室だから。 映画は英国王室であるアンドルーが未成年者を買春したのだからスクープだと言っていて、それはまったくそのとお

        • 問題抱える家族の人間ドラマ 波紋 (2023年製作の映画)

          くそみそにしているのでこの映画がお好きな方は読まないでください。 「現代社会の闇や不安、女性の苦悩を淡々とソリッドに描いた絶望エンターテイメント」だそうです。ウィキペディアにも『東日本大震災、老老介護、新興宗教、障害者差別といった現代社会が抱える問題に次々と翻弄される中年女性とその家族を描いた人間ドラマ。』と書いてありました。 見始めてすぐに解りますがすべてがとってつけたような感じです。時事問題をとってつけたような感じで羅列していきます。それはまさに羅列で、依子(筒井真理子

        医学博士の車旅 野いちご (1957年製作の映画)

        • 静かな少女 コット、はじまりの夏 (2022年製作の映画)

        • 王室スキャンダル:BBC記者の追及 グレート・スクープ (2024年製作の映画)

        • 問題抱える家族の人間ドラマ 波紋 (2023年製作の映画)

          女囚系映画と洋画劇場 ロサンゼルス女子刑務所 (2014年製作の映画)

          昔は(今もあるのかもしれないが)21時からはじまる洋画劇場があり映画館へ行って映画を見るのが稀な者にとって映画といえばそれらのことだった。 そして映画評論家といえばそこに解説者として出てくる淀川長治や水野晴郎のことだった。 たいてい誰もがそのモノマネができ、わたしはもっと高度な荻昌弘のモノマネもできた。愛すべきキャラクターではあったにせよ当たり障りのないことしか言わない淀川さんや水野さんにくらべると荻さんは好奇心をそそる主知的な解説をした。 その頃洋画劇場でえっちなやつが放

          女囚系映画と洋画劇場 ロサンゼルス女子刑務所 (2014年製作の映画)

          若者向けの美容ルーティンとは ダムゼル/運命を拓きし者 (2024年製作の映画)

          ネットにしばしばElizabeth PerkinsとMillie Bobby Brownの顔が並んでいる。パーキンスのはBig(1988)辺りの若い頃で並べられると確かに両者は双生児とみまがうほど似ている。ただ思い出すかぎりパーキンスはクールな役が多かった。対してミリーボビーブラウンはクールではなく、ちゃきちゃきとした男の子みたいな溌剌とした役を身上としている。つまり、顔がそっくりでもふたりのまとっている雰囲気はぜんぜん違っていた。 役の上で得たキャラクターが一人歩きしてそ

          若者向けの美容ルーティンとは ダムゼル/運命を拓きし者 (2024年製作の映画)

          降霊実演と破滅 TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー (2022年製作の映画)

          ヘイリーとジョスが主催するパーティは酒も薬もないかわりに過激な降霊実演をやってSNSで人気があった。冥府と現世を仲介するのは防腐処理をした屍体の手。それは生前悪魔崇拝に耽溺していた者の手だと言われ握手すると黄泉への扉が開きI let you inと言うとランダムな霊が憑依し、90秒以内に握手を引き離すことで安全な「トリップ」ができる。──はずだった。 ホラーの主人公が落ちていく破滅のきっかけにはオブセッションがあり、ミア(Sophie Wilde)の場合は母親の自死とカンガ

          降霊実演と破滅 TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー (2022年製作の映画)

          脱北者の苦悩 ロ・ギワン (2024年製作の映画)

          ソン・ジュンギといえば私のオオカミ少年(2012)が思い出される端正な顔立ちの韓国人俳優だが、来歴によると、少年時代はショートトラックスピードスケート選手で全国大会への出場経験があり、名門の成均館大学校を最終学歴とし、イケメン俳優なのにしっかり兵役にも服役して、妻はイギリス人女優のKaty Louise Saundersという実生活でもヴィンチェンツォな男だが、この映画ではベルギーで市民権を得ようとする脱北者を演じた。 とても過酷で気の毒な話だったがこの映画が苦戦するとした

          脱北者の苦悩 ロ・ギワン (2024年製作の映画)

          不敵な笑み マダム・ウェブ (2024年製作の映画)

          imdb3.8、Rotten Tomatoes12%と57%。 本作は批評家から『恥ずかしい混乱』や『史上最悪のコミック映画』などと酷評されている。海外の批評家は嘲弄的でアイロニカルな物言いが上手だがRottenTomatoesはさながらそれのコンペティションのような活況でほとんどの批評家が親指を下に向けつつ修辞を駆使してマダムウェブがいかにだめかを語っている。なかでも口を極めて糾弾されているのは脚本である。 ご覧のとおり4人の会話は弾みもしなければ笑えもしない。全員が主

          不敵な笑み マダム・ウェブ (2024年製作の映画)

          おっさんと少女の友情を描く マイ・ファースト・ミスター (2001年製作の 映画)

          この映画のWikipediaの「See also」にLost in Translationがあるのは年配男性と若い女性の友情を非性的に描いているからだろう。 たとえば日本のコンテンツではおっさんとJKがいたらそこにセクハラがおこるのは必至、というのも世間において年齢や性別は人物をとらえる材料であり、おっさんはいやらしいものであり、JKは挑発的なものであり、したがってふたりが揃ったらそこにはセクハラがおこる──という類型化された脳内変換がおこる。 一方でそれは創造性の限界と

          おっさんと少女の友情を描く マイ・ファースト・ミスター (2001年製作の 映画)

          アメリカの祝日 サンクスギビング (2023年製作の映画)

          感謝祭とはイギリスからアメリカに渡ってきたピルグリムと呼ばれる人たちが新しい土地での初めての収穫を神に感謝をしたことが起源です。その食べ物の栽培方法を教えてくれた先住民であるネイティブアメリカンを招き一緒に祝いました。 ──とネットの拾い記事に書いてありました。謂わば、わけへだてなくみんなでごちそうを食べる日です。エイプリルの七面鳥(2003)を見るとそれがわかると思います。 映画はスーパーマーケットにおけるブラックフライデーの暴動からはじまります。 ブラックフライデーとは

          アメリカの祝日 サンクスギビング (2023年製作の映画)

          ピンとハネた アップグレード:どん底女子の幸せ探し (2024年製作の映画)

          上京するたびJREポイントが貯まるのでアップグレードして新幹線のグリーン車に乗ることがあり、車内で知り合いに会ったことがある。 都心と新幹線でつながっている地方住まいの人はお解りいただけると思うが、新幹線ではあんがい見知った地元民に会いやすい。 で、たまさか同僚に会ったとき、わたしはとっさに「アップグレードなんだ」と言ったのだった。 本来そこは「しばらく」とか「奇遇だね」とか言うべきところなのに開口一番「アップグレードなんだ」と弁解した。 そのときの心理を説明すると、労

          ピンとハネた アップグレード:どん底女子の幸せ探し (2024年製作の映画)

          思春期の少女と宗教問題 神さま聞いてる?これが私の生きる道?! (2023年製作の映画)

          原作小説はジュディブルームという人が1970年に書き、以来人々に愛読され、少女が神に呼びかけるマーガレット独自の“儀式”がパロディとして使われるまでに大衆文化の中に溶け込んでいるそうです。 等身大のマーガレットが微笑ましくコミカルに描かれる一方、両親が異宗教間結婚をしているという挑戦的な設定があります。 小説は中学生向けに書かれたものだそうですが、おそらくこの話の真価は、月経やブラジャーや男の子などの思春期初期の不安に直面した少女の親しみやすさと、それとは相容れない宗教問

          思春期の少女と宗教問題 神さま聞いてる?これが私の生きる道?! (2023年製作の映画)

          やにだらけ マエストロ:その音楽と愛と (2023年製作の映画)

          子供のころ指揮者という職業に疑問をもっていました。 でたらめにタクトを振っても大丈夫な気がしたからです。 たとえばシンバルを鳴らすところでシンバルに向かって合図しなくても奏者はシンバルを鳴らすのではないだろうか。 楽譜もあるのだしシンバルを任されたからにはシンバルを鳴らすところがわからないということはないと思ったのです。 無教養なわたしにとって指揮者はなにがすごいのかわからない人でしたがTAR(2022)を見たときTAR(ブランシェット)が曲を克明にスコアしているのを見

          やにだらけ マエストロ:その音楽と愛と (2023年製作の映画)

          キモさみなぎるサイコスリラー Saltburn (2023年製作の映画)

          バリーコーガンのキモさみなぎるサイコスリラー。 オリバー(コーガン)はオックスフォードに入学したとはいえ中大在学中のステハゲという感じのぼっち。対してフェリックス(Jacob Elordi)はもてもての爽やかイケめんで、コーガンは蛇のようにぬめぬめと彼にまとわりつく。が、ほとんどラストまで何をしたいのかわからない。見ていて思うのはBLモードになったらヤダなということぐらい。たのむから乳繰り合うのはやめてくれ──と願いつつ見た魅惑のスリラーだった。 監督は初監督のプロミシン

          キモさみなぎるサイコスリラー Saltburn (2023年製作の映画)

          一種のコメディ LOVE LIFE (2022年製作の映画)

          むしろそこに陥るほうが難しいと思える状況に陥らせて哀切や情感をつづっていくのが深田晃司監督だと思います。 これもわりとインポッシブルな話だと思います。よこがおはコメディだと思いましたがこれもコメディだと思います。連れ子が不慮の死を遂げるにもかかわらずコメディというのは不謹慎かもしれませんが、矢野顕子のLOVE LIFEからこういう話をつくってしまうほうが不謹慎だと思います。 楽曲はモチーフなんだし、そこからどんな想像を拡げていこうと個人の自由ですが、甘いソフトな歌に、実は暗

          一種のコメディ LOVE LIFE (2022年製作の映画)