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言語化の推進力

答えが言い表し得ないなら、問いを言い表し得ない。問いを言い表し得るのならば、答えも言い表し得よう。
ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン Ludwig Joseph Johann Wittgenstein(19〜20世紀 オーストリアの哲学者 1889〜1951)

こんにちは、システムデザイン研究所(SDL)のともです。
汗ばむほどの暖かい日になったかと思えば、みぞれまじりの雨が降る寒さに舞い戻るという難しい天気が続いています。花粉も多いようです。皆様お気をつけてお過ごしください。

さて、先日アメリカのスタートアップ企業の一員として、製造パートナーとなってくださっている日本の大企業の方々と、より円滑なプロジェクト運営について話し合う機会がありました。その時の会話が面白かったので紹介したいと思います(以下、大企業をA社、スタートアップをB社とします)。

A社は日本とアジアで品質の高い製品を作ることでよく知られた会社です。伝統もあり業界での評判も非常に高い一方で、業容拡大に向けて様々な取り組みをしようと新規事業機会を模索しています。
B社はアメリカのスタートアップです。大学で研究してきた成果を事業にしようとファウンダーとチームは新たな需要が生まれそうな市場に飛び込み活発に活動をしています。
AB両社はタイミングよく出会い、技術開発を共に進めることで合意します。まずは、A社の製品製造技術を期待し、B社の委託製造先として機能してもらうという形で顧客の取り込みをしようということになりました。幸い顧客も現れ、試験開発程度の量ではなく本格的な製造ができるよう体制を確立することが必要な段階にきました。しかし、ここにきて両社間の活動が滞っており、製造体制確立のタイムラインに間に合わなさそうになってきました。そこで、なんとかしたいと思い、このミーティングが開かれたのでした。

ミーティングは結構正直ベースのものでした。事前にB社から資料を用意しておいて欲しいとリクエストしてあったこともあり、問題点を見つけるのは容易でした。
A社は、技術の独自性は認めるしその製造準備を進めるのは賛成だが、もう少し慎重に進めるべきではないか、という考えがあること。
B社は、スタートアップとしてガツガツと顧客開拓をし事業化に漕ぎ着けたい。そのためにA社に踏み込んだ協力を求めたいという考えがあること。
上記の問題点にB社は理解は示し、ではB社としてどのようにA社の動きを早くできるか、について深堀していきました。

全てのことをシンプルには説明できませんが、ほぼ一日使って深堀をしていくと、その顕著な例として、A社内での「移管」という仕組みに秘密がありそうであることが判明しました。

  • A社は事業化を進めていくにあたり部門や部署間での移管がある

  • 移管にあたっては、「〜ということで移管する」という申請が必要

  • 移管に耐えるだけの情報がまだ揃っていないと考えている

プロジェクトの進階と移管イメージ

図にあるように、A社では新規開発案件は、赤四角で示したところに移管が発生します。その中で、技術成熟度や採算性、事業性などの経営指標に合わせた判断がなされていきます。
B社担当者はとてもストレートに聞きました。「私たちはA社の皆様の協力に感謝しています。こうした移管にあたって判断の指標やここで示さなければならないものは何かを教えてもらえないでしょうか?それらに対して答えを見つけていく作業をすることでプロジェクトをより効果的に進められると思うのですがどうでしょうか?」
A社の答えは以下でした。

「判断指標でしょうか。なんとなくの数字はあり事業性を見るということは申し上げられるものの、その判断は総合的にとしか言えません。また、こうした判断をするときのプロセスですが、本社でやるものもあれば、工場で行うものもあり、正式に審査会を開催して決めるものもあれば、担当者間で合意形成をして通していくものもあります。つまりはその時々の状況による、というものです。」

新規事業を進めるにあたって、この判断プロセスはかなり致命的と言わざるを得ません。第一に判断を総合的にすると言ってもそこには判断指標となるものが内在していることは明らかであるからです。また、時々の状況によって判断の仕方やタイミングを図るというのは、本来Forward Thinkingで先行的に進めるという新規事業開発作業を真っ向から否定するものです。鶏が先か、卵が先か、というパラドックスを作り出しています。
これを乗り越えるものとして、社内で絶大な信頼を得ている人を推進者に据えるという人事もあるでしょうが、属人的すぎてギャンブル的要素が却って増すということも考えられます。

B社担当者は、それでもしっかりと提案しました。
「わかりました。ではその移管について言語化をしましょう。私たちもA社の皆様と共に成功したいと思っていますので。」
共同プロジェクトのアジェンダの一つに、「A社での移管プロセスの言語化とそれに伴う判断基準の策定」が加わりました。

新たなフィールドに踏み込むには、そこでの問題や課題をクリアに作ることが有効かつ適切な方法だと言えます。これを言語化という言葉で代表させることができましょう。
進階の図の中に十分に言語化された情報が盛り込まれていれば、皆がその図を見ながら答えを見つけ作り出すという作業を進めることができます。プロジェクトを進めるという作業は、ほぼ言語化の成否が握っていると言っても良いのではないでしょうか。システムズエンジニアリングの世界ではこれを上流設計、要件定義として取り扱っています

ミーティングの最後の方で、企業Bの方から「こういう複雑なプロジェクトを回していくには、プロジェクトマネジメントツールが必要だと思います。私たちはTrelloというツールを使っているのですが、貴社ではどのようなものをお使いですか?」という質問が出ました。答えは、、、、

「いや、そういうのはうまく機能しないのでうちの会社で使っていないのですよ。多分、うちみたいな業界だと使っている会社はいないと思います。」

想像がつく答えでした(笑)。


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