ワタクシごと

私の夫①
私の夫は、40年アウトドアとは無縁で生きてきたような人である。常にインドア派の夫が今宵もせっせと携帯で何かを見ている。そういえば夜な夜な聞こえてくる音といえば、パチパチというような音。最初は、何も気にならなかったが、毎日のように届く夫宛の山のような荷物と "◯◯のキャンプ"やら、"焚き火がどうのこうの" みたいなもので埋め尽くされたテレビの録画。飼ってもいないのにうさぎのエサのようなものがいつの間にか大量においてあり、ベランダにはミニチェアと謎の缶。
基本的に私と夫は、お互いのやることに干渉しないたちなのだが、「今回は何かおかしい。何かある。」と私の妻歴が私を突き動かしたのだ。普通に尋ねても面白くないので、証拠とやらを手にいれようと企み、フリーになる夜勤明けの夫の動向を監視することにした。
仕事から帰ってきたと思ったら、うさぎのエサ(のようなもの)を手に、いそいそとベランダへ。しばらくするとベランダから、あのパチパチという音が聞こえてくるではないか。動画を撮りながら声をかけると嬉しそうな顔で、「いいやろ?」と言う。なんと焚き火を始めている。私はすぐさま賃貸契約のしおりの禁止事項に、 ベランダで焚き火 の文字がないか調べた。とりあえずは、載っていなかったが、「なんなのそれは」と怒り口調で返すと「火を見ていると落ち着く」などとわけのわからないことを延々と話し始めたので、動画は終了、即退散した。
突き動かしてしまった私も、夫に負けず劣らずインドア派なのだ。

私の夫②
それからというもの狂ったように焚き火をあさる日々が続いた。気付けば、夫曰く焚き火ができるというグッズは何種類にも及び「そんなに何個も買ってもどれも一緒やん?」「そんなに火ばっか買ってどうすんの」と呆れる私に夫は、違いや火の良さをくどくどと説くのだが、右から左に聞き流していた。キャンプ用品店というところにも足しげく通うようになり、毎度付き合わされた。
興味のないことには本当に興味がない私は、店内の夫の後につきまとい「まだ?」「まだ?」とアピールした。それなのに、必ずといっていいほど私を連れていくのだ。
この日もいつものキャンプ用品店に出掛け、私の「まだ?」「まだ?」攻撃にあいながら、棚の前で、あーでもないこーでもないとやっていた夫。
すると、隣にきたご夫妻が目にとまる。ご主人がなにか手に取りご婦人に話しかけたと思ったら、そのご婦人がご主人に一言。「そんなに火ばっかり集めてどうするつもり?」。
夫にも聞こえていたであろう。私は心の中で、そのご婦人に拍手喝采した。

私の夫③
焚き火をあさる毎日から早半年。毎日のように届く大きな荷物は、いつしか小包に変わっていた。私の前で小包をニヤニヤしながら開ける夫の横で、今度は何を集めだしたんだと私の興味もかりたてられている。まんまと夫の術中にはまっている。中から出てきたのは、ライト。「実は…」といいながら、嬉しそうにごそごそ持ってきたのは、ライト、ライト、ライト、ライト。出てくるわ出てくるわ。何個あるんじゃい。いつしか小包に変わっていた中身は、これだった様子。
はい?ライト?LIGHT?光?灯?
夫よ、 …また、火ですか。
あの日のご婦人。すみません、お借りします。
「そんなにヒばっかり集めてどうするつもり?」

私の姉
私には2つ上の姉がいる。田舎育ちなので、特に小学生の頃は近所の男の子たち(年上ばかり)と一緒に、野や山を走り回って暗くなるまで遊んだ。
小学5年生の頃、好きな人ができた。1つ上の先輩だ。何の係かは忘れたが、同じ係で、面白くて優しく目立つ存在だった。小学校高学年ともなれば、なんとなく恋みたいなものがわかっていて、え?もしかして?…みたいな距離感だったと思う。何人も同学年の仲間がいる中、その先輩は、何故か私にばかりちょっかいを出してくるのだ。その様子を見ている友達も、「告白しなよ~。絶対両思いやって。」と後押し。私は、その気になっていた。
そんなある日、ちょっかいを出され喜ぶ私に先輩は、「あのさぁ、おまえの姉ちゃんって好きな人おるん?」
と聞いてきたのだ。
一瞬何を聞かれているのかよくわからず私は、笑いながら「えー?知らんよー」と答えた。その後は、いつものちょっかい遊びがあったが、なんでそんなこと聞いたんやろう?がぐるぐるしながら、笑いながら、その場を過ごしたのは今でも鮮明に覚えている。
その日の夜、私はどうしても気になり、姉に先輩の名前を出し「知っちょる?」と聞いた。姉は、「知っとるけど、どうしたんな?」と言ってきたので、「なんでもないけど」と話を終えた。
その数日後である。姉の机の上に姉宛の手紙がおいてあり、裏面にはあの先輩の名前が書いてあったのだ。
ラブレターだった。
大好きだった姉を大嫌いになった瞬間だった。

今年私は44歳で、姉は、46歳になる。
今思えば、一緒に遊んでくれていた年上の男の子たちもほとんどが姉のことが好きだったのかなと思う。
大嫌いだった時代もあったが、今では大好きな姉。仲良しの姉。
あれから33年経つが、この出来事は忘れられない。
さて、ここで暴露としよう。

退職①
長年勤めた仕事を辞めた。色々な思い出を思い出す中で、ものすごい手相の子を思い出した。手相と言えば!の繋がりで、ゲッターズさんのことを調べてみたのだ。まずは、インスタグラム。ふむふむ。
私は、字を読むことが好きなのだが、その字にも好みがあり、とにかく読みやすいモノが好きだ。
字の間隔。行間。短い文。…などなど。
面白いなぁ。
あなたにもできる?
あなたにもチャンスがある?
へぇ~。
書く方ね。
書くって斬新だ。

退職②
ミニマリスト、
手帳沼、
洋服作家、
憧ればかりのインスタグラム。
私の現実ではなく、別世界。
いーな、こういうの。と、見てきた世界。
時間だけは、あるのでもっぱら開いて、お母さん指をずっと上下に動かす。
憧れの世界観の中で、自分を探す。
仕事を辞める時に、「辞めて何をするんですか?」 と聞かれたのだ。
「なんにもしないよ」 と笑った私。
やりたいことって、なんだろう。やりたいことって、ないとイケナイの?
そして、この創作大賞2023 をみつけた。
ゲッターズさん。
幸運すぎる手相の子に連れてきてもらったのだ。

あとがき
"本を出版すると図書館に本を残すことができる "というフレーズを見かけ、もし自分自身にも起こったら…と想像するだけでワクワクした。
本が好きだと胸を張っていえるほど読みあさってもいないし、著者の名前がスラスラ出るわけでもない。けれど、生活になんとなく文章があって、その誰かの言葉になんとなくシアワセを感じたり共感したり、周囲にふりまいたりしてきたのだ。
自分の名前を残すことができるという謎のゾクゾク感にやられてしまった私は、こうして自分の身におきたことを文章にした。
なんとも面白い作業。こんなの誰も読まないか、そうだよなぁ。いや…意外と共感あるかもよ?と自分自身に言い聞かせながら。


#創作大賞2023 #エッセイ部門
#短い文 #ただの自叙伝


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