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ルール ☆60

『薬屋のひとりごと』は、中国唐時代の宮廷をイメージされて作られたマンガだが、

宮女達はガチガチのルールに縛られてか細く生きていたようだ。

そもそも皇帝の為の宮女であるから、ルールも皇帝ありきで作られている。宮女の人権など毛程も考えられていないのだ。

例えば、自由にトイレに行く事が出来ない。運悪く失禁などしようものなら死罪であるから、ご馳走があったとしても少しだけしか食べない、飲まない。それはルールにはないが、排泄しないためには結局そうせざるを得ない。

このように、昔作られたルールには酷いものもあるのだが。

ルールなんてなるべく決めない方が良い、人は自由が1番だと思っていたが、案外、縛られて生きる方が楽だというパターンだってあるようだ。


私は、商売に失敗し、財産を全て失い、借金が山のように残った。

一時期は浮浪者にまで堕ちたが、冬になって寒くてどうしようもなくなり、結局は役所に泣きつき、ある施設の世話になった。

憲法第25条 生存権によって国民は守られているのである。

施設に入った日、A4で20頁程の冊子を渡された。施設内での禁止事項や、施設の目的、方針が書かれていた。

施設が私を支援してくれるのは最長で6ヶ月。その間に自立の道を見つけなければならなかった。

いや、自立と言うからには新居を見つけ、そこへ移らなくてはならず、家賃、敷金、礼金分くらいを貯蓄する為には、逆算して3ヶ月以内に再就職するのがリミットなのだ。

当時の私は55歳、再就職はそう簡単な問題ではないのだった。


その話はともかく、私は施設から渡された冊子を毎日、穴が開く程読み込んだ。

施設では夜10時消灯。1部屋に6人寝ていてベッドの間はカーテンで仕切られていたが、やることがないので豆電球で冊子を読んでいた(スマホは棄てていた)。

施設では毎日3食出たほか、1日400円支給された。たった400円で何が出来る??
俺たちを馬鹿にしてるのか?

いや、違う。

その冊子はホチキス止めされた粗末なものだったが、内容は素晴らしかった。

浮浪者は私1人ではない、世の中には、たぶん何十万人といる筈だ。それをそのまま放置するより、再生させて税金を回収した方が、国としても助かるのだ、

半年せっかく支援しても、その後また浮浪者に戻ってしまっては意味がない、国だって何とか我々に立ち直って貰いたいのだ、立ち直る為の支援なら、国は喜んで出してくれる。

だから、徒手空拳の浮浪者が、どうにか再生する方法が、その道筋が、よく読むとそこには確かに記されていたのだ。

施設の職員は、いちいち、ああですよ、こうですよ、などと教えてはくれないが、実はお得な情報満載の冊子だったのだ。ルールから外れれば簡単に追い出されるが、ルールの範囲内ならかなりの援助を引き出すことも可能なのだった。

私は本気を出したので、2ヶ月で再就職し、5ヶ月と少しで施設を出たが、

その頃には内心では施設が居心地いいと感じていた。驚いた事に、共同生活も10時消灯6時起床も慣れたらどうと言う事もなかった。むしろずっとここで暮らした方が上手く行きそうな気がしたくらいだった。

それまでの私の生活は、だらしがなかった。お金も野放図に使っていた、施設での暮らしは、自分を見つめ直す良い機会であった。

そう、私はもちろん自由が好きだと思っていたのだが、本当は、

ある程度ルールに縛られていた方が自分を良く律して、むしろパフォーマンスが上がる男だったのだ!!

その後の私は無駄遣いを自然と排除し、山のような借金も、返済のこり僅かの状態に迫っている、多分、余裕で返せるだろう。

ルールに縛られながらも、ルールを熟知し、逆に利用する方法もあるはずだ。

ルールも、あんがい捨てたもんじゃないのかも知れないと思う。


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