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電車がレ-ルを鳴らすたび 僕らは旅をしたくなる 春を呼べ 

年の瀬に万年筆を買った、インクはブルー。
別に重大なことを書き留めるわけではない、ただ何となく紙に書いてみたかった。

冬の夕刻、北の国では暖炉に火を入れるのだろうと思いつつエアコンのスイッチをいれた。2月に入り、少しずつ日の傾きが遅くなってきている。

一年で一番寒い時期だが、最近は暖冬傾向でおしなべてそんなに寒くはない、温暖なこの地でも、以前は屋外の水たまりが凍ったり、時々ツララを見ることがあったが、今は目にすることはない。

冬の温かい日差しで黄金色に輝いていた南向きの山も、日が落ちると枯れ木の集まりで、冬枯れて見える。寒さを感じなくとも季節は冬だ。
そんな中、裏山の梅が咲き、海の見える丘に水仙を目にする。日中の光は春になりつつある。

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我が街にも、電車がレールを鳴らしていた。
私鉄の終着駅を降りて街道に行くと、銀行を中心に東西に商店街があり、田舎町にしては活気があり、多くの人や車の往来があった。
ところが今は、商店のほとんどが店を閉め、銀行までも移転という名目で閉鎖して、キャッシュカード機もなくなった。
電車の線路は道路になり、車はその新しい道を高速で走り、この街道を通らなくなった。

住まなくなった親の家を、この地を出た子が潰して更地にしている。田舎の割には、隙間なく家が立ち並び、それなりの「街」を形成していたこの辺も、空き地が増え、人が減り続ける。スクラップ&ビルドではなくスクラップ&エンドだ。
当然子どもの声はあまり聞かれず、あのくらいあった駄菓子屋は今は一軒もない。

ごく一部の大都市は栄え、田舎はますます寂れていく。その流れが早すぎる。
上辺の「改革」をして走り続けるからこうなるのか、走るのについていけない者がいるから「改革」をするのか。とにかく急いでいる。

以前走っていたおんぼろ電車でも、レールの向こうに目的地があり、乗り継いでいけばどこへでも行けた。もちろん時間がかかり、ゆっくりだ。
急がなければいけないのだろうか、何かが迫って来るから急いでいるのか、誰かが追いかけているのか、目的地がわからないのに我先にと走り続ける。
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「記憶にやどる陽炎は 線路の彼方に 今もある /   電車がレ-ルを鳴らすたび 僕達は旅に出たくなる」吉田拓郎
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時代が変わる事を否定はしない。
でも、ゆっくりレールを鳴らしながら、行くのもいいのじゃないか。

梅畑に香りが漂い、海が見える丘に水仙が咲きそろう。
春はそこまで来ている。

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とんでもない災害の起こった海岸にも、春の光が届くだろうか、海を見下ろす高台に水仙は咲くだろうか。争いの、ぬかるみの地にも、春の風と光を届けてほしい。
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ーー ブルーのインクで書いてみた ーー




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