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Cafeヴィレ&居酒屋銀河亭グランドオープン男はつらいよ番外編


 
 とらやのさくらと博の元へ再び宇宙郵便で手紙が届く。

 拝啓 諏訪さくら博さま

 この度ひょんなことから北十字駅にある居酒屋で葛城ミサトさん加持リョウジさんと知り合いになり、この2人のたっての願いでわたくしが仲人となりめでたく結婚する運びとなりました。

手紙の中にはどこで撮ったのか和式の花嫁衣裳のお嫁さんと紋付袴を着た新郎さんの結婚写真が挟まってた。

 このご両人今流行りの新婚さんで夫婦別姓ってやつでございます。
旦那の加持さんは居酒屋銀河亭の店主をしていましてわたくしも度々お世話になっていましたが、奥さんのミサトさんが北十字駅のビルの中で新たにCafeヴィレ&居酒屋銀河亭をオープンする運びとなりました。
朝から昼の時間帯はカフェ、夕方から明け方まで居酒屋をやるそうです。 
つきましてはグランドオープンの記念に寅さんの妹夫婦もぜひ招待したいとミサトさんが申しますので銀河鉄道の車掌の宮澤さんに頼んで特別列車を手配いたします。
何卒万難を廃してご参加されますようお願い申し上げます。
今度銀河鉄道が東京駅に立ち寄るのは2月22日ということでございます。
Cafeヴィレではわたくしの提案によりお団子を提供することとなりました。
是非ともさくらさん博さんに食べて頂きとらやの味になっているかお確かめ願いたい所存であります。

 敬具

 車寅次郎

「あらまあ、またお兄ちゃんこんな手紙寄越して」
「なんて書いてあるんだ?」と博。
「Cafeヴィレ&居酒屋銀河亭グランドオープンだって。ぜひご両人にご参加くださいって書いてあるわ」
 「へえまた義兄さんが妙なことな頭を突っ込んだようだね」
「いったいいつまで宇宙をぶらぶらしてる気かしら。人の気も知らないで」
「まあ義兄さんらしくていいじゃないか。それにリリーさんもいるならきっと大丈夫だよ」
「それがリリーさんのことは一言も書いてないのよ。どうしちゃったのかしら?たしか源ちゃんも一緒のはずよ」
「大方ケンカでもして別々に旅してるんじゃないか?」
「新婚早々に?」
「まああの2人のことだしな。たとえケンカしたとしてもすぐ仲直りするさ。それよりどうするんだい?行ってみるのか?」
「そうね。せっかくの招待状だし宇宙なんて行ったことないから行ってみたいわね」
「でもどうやって行くんだろうな?」
「ここに小さく書いてるわ。ここに挟んである切符を持って2月22日の午前2時22分に東京駅に来て下さい。そして2番線のホームの降りて2番目の柱に銀河鉄道に乗る入り口が現れるのでそこから入ってください、だって」
「なんだか妙に込み入ってるね。しかしそんな時間に東京駅は空いているんだろうか?」
「なんでもその日は特別に運行するって書いてあるわ。でもそんな早くに起きれるかしら?」
「たっぷり昼寝をして備えようじゃないか。ま、世の中には不思議なこともあるようだし騙されたと思って行ってみようか」
「それもそうね」



 そして2月22日の午前2時。コーヒーをがぶ飲みして東京駅にやってきた2人は2番線のホームの2番目の柱の前に立った。
すると2時22分22秒柱が波のように脈打つとそこから異次元へ続くトンネルが現れてプシューと盛大な音がして銀河鉄道が現れて2人の前に停まった。
やがてドアが開き車掌が現れた。
「ごきげんよう。諏訪さくらさん、博さんですね。お迎えに参りました。当銀河鉄道は北十字駅までの直行便。しばし宇宙の旅をお楽しみください」

 長いような短いようは宇宙の旅路の果てに銀河鉄道は北十字駅のホームに停まった。
びっくりしてまごついてる2人に車掌の宮澤さんが駅のホームから駅ビルのCafeヴィレ&居酒屋銀河亭まで親切に道案内してくれた。
案内を終えて戻ろうとする車掌に2人は丁寧にお辞儀をするとお礼にとらやの団子を1箱渡した。
「余計に持ってきて良かったわね」
「ああどうもここではちゃんと飲み食いするようだね」
店の前には『祝グランドオープン 庵野秀明』と書かれた花輪が飾ってある。
白い外観に焦茶色のカフェのドアを開けると芳ばしいコーヒーの香りが漂ってきた。
5、6脚あるテーブルはみな埋まってる。
座っているのはみなヘンテコな顔をした宇宙人のようだ。
部屋の片隅にはピアノが置いてあってタキシードを着た色の白い灰色の髪の青年がピアノを弾いている。



「へえこれはジャズだね。中々いい雰囲気じゃないか」
「そうね。とらやもカフェに改装しようかしら」
などと話をしていると奥の厨房から明るい声を弾ませながら女性店主が現れた。
「いらっしゃいませ~。あらあなたたちは?」
「私は車寅次郎の妹の諏訪さくらです。兄が大変お世話になったそうで」
「まあ寅さんの妹さんね~。ようこそおいで下さいました。あたし葛城ミサトって言います。お世話になったのはあたしの方ですよ~」
「僕は夫の博です。よろしくお願いします」
「ああ博さんですね。真面目ないい方だって伺ってますよ」
「そうですか。しかしいいもんですね。ジャズの生演奏は」
「ありがとう。彼はピアニストの渚カヲルくんです。あの子目当てに来るお客さんもけっこういるんですよ~」
「へえ洒落てるなあ。素敵なお店ですね。ところで義兄さんは相変わらずのようですか?」
「ええホント面白いんですよ寅さんは。あ、今呼んできますね。奥の厨房で団子こねてますから。寅さ~ん!妹さんが来ましたよ~」 
「あいよ~」
厨房から飛び出してくる寅次郎。片手を上げて会釈する。
「ようさくら。それに博。元気だったかい?宇宙の果てまでご苦労さんよ」
「ご無沙汰してます義兄さん」
「久しぶりねお兄ちゃん。幽霊じゃないわよね」
「バカ、幽霊ってことあるかい。ほれこの通り足もあるしよ」
「そうそりゃ良かったわ。私、この前からずっと夢を見てるみたいだったんだもん」
そう言って涙ぐむさくら。
「わりぃわりぃこの前とらやに電話したときはよ。本当に死んだと思ったからね。それがリリーと会ってまた娑婆に帰れるってゆうから驚いたよ」
「そうそこなんですがね。リリーさんと義兄さんは結婚したって手紙に書いてましたね」
「ああしたよ」
「やはり本当なんだ。義兄さんこの度はご結婚おめでとうございます」お辞儀する博。
「おめでとうお兄ちゃん。何もお祝いできなくてごめんね」
「何いいってことよ」
「ところでそのリリーさんはどうして一緒にいないの?それに源ちゃんも一緒だって書いてたけど」
「ああそれはこういう訳よ。途中までは確かにリリーと源公と一緒に旅をしててよ。それがダイヤだのルビーだのサファイアだの地球じゃ高けえ宝石がわんさか獲れる星があってな。そこは誰も住んでねえみてえだからってリリーのヤツ、源公につるはしとスコップ持たせてダイヤを掘りに行ったのよ。何とか地球に持ち帰る方法はねえかってな。まあ女ってのは光り物に弱えからな」 
「へえリリーさんらしいなあ」
「それでお兄ちゃんは?」
「俺はリリーと会う前、この駅で三途の川の渡し賃稼ぐために売(バイ)をやっててよ。ここの居酒屋でこの姉ちゃんとばったり会ったのよ。どうだいべっぴんさんだろ?」
「ええキレイな方だわ」
「それはど~も~」
「このミサトちゃんがよ。俺に惚れたって言ったときはびっくりしたねえ」
「やだ、寅さん。あれは酔っぱらってたのよ」
そう言って寅次郎の肩を叩くミサト。
「あはははは。まあそんなこんなで色々あってよ。このミサトちゃんが昔惚れたってのがこの居酒屋の店主だと判明した訳よ。それで旅の途中、この2人がめでたく結婚することになったって電報が来てな。これは是非とも縁のある寅さんに仲人をお願いして結婚式を執り行いたいと書いてるもんだから、リリーたちと別れて飛んできたとこういう訳よ」
「まあ結婚って言っても形だけのものだけどねえ」とミサト。
「それはご結婚おめでとうございます。あのこんな物しかなくて申し訳ないんですが」
お土産の団子を差し出すさくら。
「ありがと~。これが噂のとらやのお団子ね。早速食べていいかしら?」
「ええどうぞ」
蓋を開けて串団子を手に取りじっくり味わうミサト。
「う~んおいしいわ~。このほんのりしたやさしい甘さがいいのよねえ」
「実はよさくら。このミサトちゃんがこのビ、ビ…なんだっけ?」
「ヴィレよ」
「そうビレというカフェをやるって言うから団子を出したらどうかって言ってみたけどよ。どうも俺が作った団子はとらやの団子と違う味になってな。それでさくらに作って貰おうとこういう訳よ」
「ええそれぐらいお安いご用よ。ちょっと厨房お借りしますね」
そう言って早速さくらはミサトからエプロンを借りると厨房へ行きお湯を沸かして団子作りに取りかかった。
「悪いわねさくらさん。お客さんに働かせて」
「いいのよ。私動いてるのが好きだから」
「あ、立ち話もなんだから奥に予約席をとってあるんで座ってくださいな。今コーヒーお持ちします。マサコさん、ビルくんお店頼むわよ。」
「は~い!」
「おや他にも店員さんがいらっしゃるんですね」と博。
「ええあのふたりは元々銀河亭の常連客だったんだけど今度カフェをオープンするって言ったらぜひ手伝わせてくださいって言ってくれたの。助かるわ~。でも実はね、タダ働きなの。えへっ」
そう言って舌を出すミサト。
「何うまい賄い食わせてやってんだしいいんじゃねえか。夜は上の銀河亭で一杯やってから帰るしよ」
「まあね」
そしてみんなで奥にある予約席のテーブルに座った。
昼間はカフェの営業をして夕方から明け方まで居酒屋銀河亭をやっているそうだがカフェが終わったら2階へ上がって3人で一杯やるそうである。
「あの2人なぜかあたしたち夫婦と声がそっくりでねえ。同じ声優さんがやってんじゃないかなんてバカ話するのよ。いつも仕事終わりに一緒に飲むんだけどねえ、店の売上よりあたしらの飲む酒代の方が高かったりするのよ。赤字よ赤字よ。あはははは」
「ミサトちゃんそろそろ飲みたくなったんじゃねえのかい?」
「う~んたしかに~。銀河高原ビールぅ~♪」
「おいおい酒を飲むにはまだ早いぞ」
突然後ろに男が現れミサトの肩に手を置いて言った。
長身で長髪を束ね無精髭を生やしている。
「おおやっとお出ましね。こいつが旦那の加持リョウジです。変な男でしょ」
「加持リョウジです。寅さんにはお世話になりました」
そう言ってお辞儀するリョウジ。
「寅さんの弟の諏訪博です。いや~立派な好青年ですね。僕の若い頃に似てるなあ」
そこへメイド姿のマサコがコーヒーを持ってくる。
「お待たせしました。ミルクと砂糖はご自由にお入れ下さい。このお菓子は当店特製の完全栄養食品ですよ。ではどうぞごゆっくり」
コーヒーとお菓子をテーブルに置いてペコリとお辞儀するマサコ。
「へえ変わったお菓子だな。どれ、うん中々うまい」と博。
「おいしいでしょ~。なんでもマサコさんがドワーフに教えられたんだって」
「へえ」
ちょうどそこへさくらが団子を持って来た。
「お待ちどうさま。お団子できましたよ」
「早~い。ありがとうさくらさん。早速食べましょ。後でレシピ教えてくださいね」
「ええいいわよ」
「あ、こいつが旦那の加持リョウジです」
「はじめまして加持リョウジと言います」
「車寅次郎の妹の諏訪さくらです」
「とてもきれいな方ですね。優しそうで品のある。それに名前もかわいらしい」
「まあお上手ですわね」
「こいつ会う女性みんなにこんなこと言ってるんですよ。根っからの女好きで困ります」
「それはさぞおモテになるんでしょうね」
「はははは。俺なんか寅さんには遠く及びませんよ。寅さんから色々武勇伝は伺いました。さくらさんと博さんの馴れ初めも聞きましたよ。素敵だなあ」
「これはどうもお恥ずかしい限りです」
赤くなってうつむくさくら。
「この加持さんってのはよ。中々俺に似たところがあるからね。なんでも昔フーテンみてえなことをしてたって言うじゃねえか。とても他人とは思えねえ。まあ弟みてえなもんよ」
「ありがとう寅さん。俺は昔遊び人のフリをしながらスパイを気取ってたんですがね。結局フリだけで何者にもなれなかったな。俺の人生でやったことといったらスイカを植えたことぐらいです」
「いや人間なんてのはそんなもんよ。俺も渡世人しかできねえ男だけどよ。ずっと何かを演じてるような気がして生きてきたのよ」
「いえ寅さんは正真正銘、粋なおあ兄さんですよ。俺も寅さんみたいに生きてみたかったなあ」
「ダメよ加持さん。兄の真似なんかしちゃ」
「そうだそうだ~」
「加持さん僕もね。若い頃は人生について色々思い悩んでましたよ。青臭いことをさも正論のように言ったりね。でも寅さんのお陰でさくらと所帯を持って大分考えが変わりました」
「そうでしょうか」
「そうよ。それにあんたあたしと出会ったからいいじゃない。たとえ思い通りの人生じゃなくてもさ」
「ああそうだよな。きみに出会えてよかったよ葛城。それにしても8年前に言えなかったプロポーズの言葉をまさかあの世で言うことになるとはね。これも碇司令のシナリオのうちかな?」
「は~に言ってんのよ。あんな変態オヤジのシナリオなんてとっく書き換わったのよ。あんたとあたしが新しい世界のアダムとイヴなんだからさ」
「そうか。つまり俺たちの息子が新しい世界のメシアになるのか。これでシンジくんは宿命から解放されたわけだ」
「そうよ。今ごろシンジくん普通の高校生になって恋でもしてるんじゃない?碇ゲンドウの人類補完計画はおじゃんよ」
「なんかよく分かんねえけどそのゲンドウっていうヤクザの親分もよ。ここに引っ張り出してシンジくんと一緒にうまいもんでも食わせりゃ仲直りするんじゃねえのか。俺が間を取り持つからよ」
「そうね。寅さんがそうしてくれるならみ~んなま~るく収まるわ」
「よし、今からそのゲンドウってヤツをとっ捕まえに行くか」
「…お兄ちゃん、色々やるのはいいけどね。いい加減帰ってこないと京都の病院に入院してるお兄ちゃんの身体、腐ってカビが生えちゃうわよ」
「……それもそうだなあ。全部夢になるといけねえ」
そう言って寅次郎はコーヒーをすすった。



※これはフィクションで男はつらいよと新世界エヴァンゲリオンのパロディです。

こちらから派生しました↓


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