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天上の会話(てんじょうのかいわ) 【ウミネコ文庫童話】

 はるか昔あるいははるか未来のおはなし

 おしらせ

 この世でもっとも賢(かしこ)い知性体は究極(きゅうきょく)のゲームを開発しました。
その名も宇宙のたまご。
ビックバンを起こして自分だけのオリジナル宇宙をつくりましょう!
重力定数(じゅうりょくていすう)、光の速さ(はやさ)、物質(ぶっしつ)の最小単位(さいしょうたんい)おもいおもいの数値(すうち)を設定(せってい)し最高の宇宙をつくりましょう。
そして140億(おく)年後に開催(かいさい)される世界宇宙コンテストでベストデザイン賞を目指しましょう!

知性体A「おっ、これはなかなかおもしろそうだねえ。」
知性体B「え?なになに~?」
知性体C「自分だけの宇宙をつくるんだってよ。」
知性体B「へえそんなのあるんだ。」
知性体A「ねえみんな。だれが1番すごい宇宙をつくるか競争しようよ。」
知性体B「うん。だけどベストデザイン賞ってなんだろ?」
知性体A「きっとうまくデザインしてね。ぼくたちみたいな知性のある生き物をつくることじゃないかな。」
知性体B「そっかー。むずかしそうだね。でもぼくコンテストで1位とりたいなー。」
知性体C「ぼくもつくるよ。じゃ140億(おく)年後みんなでできた宇宙を見せあいっこしようね。」
知性体A「よし、がんばるぞー。」

 知性体Aはいっしょうけんめい考えて理想の宇宙をつくるためにいろんな数値を入力していきます。
そしてすべての数値を入れ終わったら宇宙のたまごのスイッチをオンにしました。
すると5センチぐらいの大きさだった宇宙のたまごはまばゆい光を放って大爆発し、どんどん大きく膨らんでいきます。
そのとき時間もできました。
そしてそれから数億(おく)年がたち知性体Aが計算した通りいろんな物質のつぶつぶが集まってガスのかたまりとなり、それが凝縮(ぎょうしゅく)して最初のお星さまになりました。
ガスでできたそのお星さまは重力でおなかのなかが熱くなりぽっと火がついて明るく光りはじめました。
明るく光る星のことを恒星(こうせい)といいます。
 恒星(こうせい)はその後も次々誕生し、いっぱい集まって銀河となりました。
そしてその銀河も次々とできて銀河の集団となり、その銀河の集団も1000億(おく)個を越えました。
そして今から46億年前、とあるひとつの恒星(こうせい)の近くにお水がたくさんある惑星(わくせい)ができました。
惑星(わくせい)とは自ら光らないで恒星(こうせい)の回りを回っている星です。
ちょうどいい場所にできたその惑星(わくせい)を知性体Aは地球と名付け恒星(こうせい)は太陽と名付けました。
知性体Aは計算した通りに地球ができたので大喜びしました。
最初に設定した数値がうまくいったからです。
ただおしいことに地球はたっぷりと水があったのですが、塩分が足りなかったのでこっそりと介入することにしました。
生き物をつくるのには塩分が必要不可欠だからです。
遠くから遠隔操作(えんかくそうさ)で塩のかたまりの隕石(いんせき)を地球に落としました。
塩は水の中に拡散(かくさん)し海になりました。
また地球は重力が不安定でふらふらと太陽の回りを回っていたので、遠くの銀河にあった地球の4分の1ほどの星を遠隔操作(えんかくそうさ)で地球の側(そば)に移動させ衛星(えいせい)としました。
衛星(えいせい)の名前は月と名づけました。
地球から見ると太陽と月がぴったり同じ大きさに見えるように絶妙な場所に置きました。
そのほうが美しいからです。
月のおかげで地球の軌道は安定します。
月には他にもいろいろな仕かけをほどこしました。
地球で生き物が誕生したら、知性を持った生き物に進化するようプログラムした遺伝子を隕石のなかに入れて、時間がきたら月から地球に向けて発射するようにタイマーをセットしました。
またその隕石(いんせき)を発射する片側だけを地球に見せるようにうまく軌道(きどう)を調節しました。

 そして地球ができて35億年たったある日、雷が海の中に落ちると最初の生命が誕生しました。
それからタイマーによって月から遺伝子の入った隕石(いんせき)が落ちると、海のなかにいた小さな生き物たちにその遺伝子がくっついて、どんどんいろんな生き物に進化していきます。
それから10億年ぐらいたつとその小さな生き物の一部はお魚になりました。
そして4億年後、海で大繁栄したお魚は勇気を出して陸にあがりました。
お魚は両生類(りょうせいるい)に進化して水と陸の両方で暮らせるようになりました。
陸の上には一足先に藻(も)の一部があがって植物となり、すでに生い茂ってしました。
陸地で暮らすようになった両生類は遺伝子(いでんし)のプログラムによって大きなトカゲのはちゅう類に進化しました。
そしてはちゅう類は年々大きくなっていき、ついに恐竜に進化して地球上の陸地で大繁栄しました。
ついでにねずみなどの小さなほ乳類や小型の恐竜が進化した鳥類もできました。
恐竜はその後、長い間地球で繁栄し一部の小型肉食恐竜は、知性を持った賢い恐竜に進化しました。
 しかしその賢い恐竜たちは知性体Aがおもったような愛を持つ生き物とはならず、ロボットのように感情のない生き物だったのでやむなくいったんリセットすることにしました。
そして6600万年前、隕石を地球に落として恐竜を絶滅(ぜつめつ)させてしまいました。
しかし一部の賢い恐竜たちは高度な文明を発達させていたので隕石(いんせき)が落ちることを予知し、高い技術を駆使して宇宙船を作り、それに乗って宇宙の彼方へ逃げてしまいました。
きっとどこかで地球のような惑星(わくせい)を見つけて暮らしているでしょう。

 さて隕石によって恐竜は絶滅(ぜつめつ)しましたが、生き残ったねずみなどの小さなほ乳類は月から降ってくる隕石の影響(えいきょう)でどんどん進化していきました。
そして恐竜に変わって大繁栄したのです。
そしてある日、とても賢く体の大きな猿が一匹月の光を浴びて遺伝子に組み込まれていたプログラムが活性化し、毛は抜け落ちて2足歩行になり、頭と脳が大きくなってちょうど知性体Aと似たような生き物になりました。
知性体Aはとても喜びその生き物をヒトと名付け、1人じゃさびしいからと体を分裂させてもう一体作りつがいとさせました。
その後2人は子供を作り、その子供の子孫はどんどん増えて地球上にあふれ、様々な技術を身につけて文明を発達させ、国や社会を作っていきました。
あの賢い恐竜と違ってヒトは感情があり愛を知っていたので互いに協力しあったり高めあったりしてどんどん文明を発展させていきました。
もちろんヒトの中には戦争をしたり物を盗んだりだましたりする悪いヒトもいましたが、全体的にみれば愛をもった善良のヒトが多く、知性体Aが望んだようは世界になってきました。
きっとこれなら世界宇宙コンテストでベストデザイン賞をとれるかもしれないと知性体Aはワクワクしました。
そうこうしているうちに約束の140億(おく)年後になりました。

 140億(おく)年後

知性体A「ひさしぶりぶりー。140億(おく)年ぶりだねえ。どう?みんなできた?」
知性体B「うーんなかなかむずかしかったね。物質はできたけど重力が強すぎてばらばらになっちゃったよ。生き物はできないなあ。」
知性体C「ぼくはなんとか恒星(こうせい)はできたけどみんな潰(つぶ)れて黒い穴だらけになっちゃった。生き物が誕生(たんじょう)しそうな惑星(わくせい)もできたんだけどみんな吸いこまれて消えちゃったよ。きみは?」
知性体A「うん、なんとかうまくできたよ。ちょうど恒星(こうせい)の回りのいい場所に惑星(わくせい)ができたのがあったからさ。水分はあったけど塩分が足りないからこっそり介入(かいにゅう)して塩水を入れたよー。」
知性体B「あ、ずるいなー。設定段階(せっていだんかい)でうまくコントロールしなきゃ。」
知性体A「なかなかむずかしくてさ。ちょっとだけお手伝いしちゃった。」
知性体C「直接介入(ちょくせつかいにゅう)はルール違反だよ。間接介入(かんせつかいにゅう)ならいいらしいけど。」
知性体A「まあこれぐらいは大目に見てよ。でもおかげでうまくいった。ちゃんと生命が生まれて、ぼくにそっくりな知性を持った生き物に進化したよ。」
知性体B「そりゃよかったね。名前はつけたの?」
知性体A「うん、ヒトって名前にしたんだ。」
知性体C「そっかーきみらしい。きみに似(に)てるならいろいろ問題も起きそうだね。」
知性体A「いやーなかなかおもったような愛にあふれた者ばかりじゃないからね。遺伝子(いでんし)の多様性(たようせい)を持たせて進化しやすくしたけどおかげでめちゃくちゃな世界さ。」
知性体B「多様性(たようせい)がないと環境(かんきょう)の変化ですぐ絶滅(ぜつめつ)しちゃうからしかたないか。それに文化も発展しない。」
知性体A「あまりめちゃくちゃだとベストデザイン賞とれないからね。うまく学習するようにことばをしゃべる力を持たせたよ。」
知性体C「へーそりゃうまくやったね。」
知性体A「ぼくのことをある程度認識(ていどにんしき)できるように知能は持たせてある。少し賢(かしこ)いヒトはぼくのことに気づいてるようだよ。開発者であるぼくが直接姿(ちょくせつすがた)を見せるわけにはいかないけれど。」
知性体B「まあそういうルールだしね。で、きみはなんて呼ばれてるんだい。」
知性体A「うん、ぼくのことは神って呼(よ)ばれてるみたい。」
知性体B「そっかー。神と呼(よ)ばれてるんだね。」

 その後開催(かいさい)された世界宇宙コンテストでは、知性体Aの宇宙がベストデザイン賞をとり見事グランプリに輝(かがや)きました。
知性体BとCは残念ながら努力賞でした。
みんながんばってたくさんの宇宙をつくり、生き物のいる宇宙や賢(かしこ)い生命体のいる宇宙もありましたが、愛というものを知っているヒトという生き物がいるのは、知性体Aのつくった宇宙だけだったようです。

 おしまい



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