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せんりょう

 ドアチャイムがなったので扉を開けてみるとそこには人がいなかった。かわりに、何やら訳ありの植物がいた。
 「どうも、お初にお目にかかります、わたくしセンリョウと申します」センリョウ?へんな名前。私は植物には詳しくない。  
 「わたくし今、マンリョウという輩と地を争っているのですが、どうかわたくしセンリョウを応援していただきたいのです。ちなみに、まだマンリョウはお宅に来てないですよね?」
 「来てないけど…」
 「ではどうかあなた様のお庭を占領させていただきたいのです」
 うーん。私はセンリョウを改めてよく見てみた。葉はフチにのこぎりのようなギザギザがあって、対生のようだ。その葉の中心に小さな赤い実がいくつもついていた。
 「どこかで見た気がする……」
 「さようですか!」
 あ、思い出した。昔、祖父母と同じ家に住んでいたとき庭にあった。実は食べられないのでざんねんな気持ちになったものだ。


 「花はどんなかんじなの?」私は質問してみた。
 「花は六月から七月頃に黄緑色の小さな花をつけられます」センリョウはハキハキした話し方だ。
 「わたくしはどうしてもマンリョウなどには負けられないのです。日本の天下統一がわたくしの目標です!」
 そんな戦いが日本で起こっているとは全く知らなかった。べつに庭を占領されても私はとくに困らない。
 「まぁ手入れされてない庭ですけど使っていいですよ。昔のよしみで」
 センリョウは赤い実を揺らして礼を言った。

 庭に入るのは何年ぶりだろうか。雑草がボーボー生えまくっていて足の踏み場がない。まぁいつか手入れしようと思っていたので丁度いい。センリョウのために抜いてやる。日陰にさしかかった時、そこにセンリョウがいた。
 「あれ、センリョウ、あなた玄関先で待ってたんじゃ……」
 その植物は赤い小さな実を鈴のように鳴らして私に怒鳴った。
 「失礼な。わたしはマンリョウだ。この実の数をみよ、センリョウと訳が違う。まぁ百両や十両、一両に比べたらセンリョウは相手にしてやってもいいのだがな」  これが、マンリョウ…………?私はまたよく見てみた。
 「君の庭はマンリョウが占領させてもらったよ。抜こうだなんて思うんじゃないよ、もう何年かすればセンリョウの領地もマンリョウのものになる。数が違うんだ」
 昔、家の庭にあったのはマンリョウだったかな…。センリョウとたいして変わらないじゃないか。血は争うもんじゃない。マンリョウのとなりにセンリョウを植えて水をかけてやった。 わりと仲良くやっているらしい。


©️2015 Mari Seki


©️2023 Mari Seki

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