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09.屋根を支える複雑な二手先斗栱組のなぞ

           薬師寺の二手先斗栱組(ふたてさきときょうくみ)

二手先斗栱組というのは、鐘楼などで、屋根の重さを支えるために肘木を二重に出して受ける工法をいいます。
ものづくりの世界では、剛性とかレジリエンスとかが重視され、しっかり安定的に稼働する設備が求められます。不安定の最大の要因は、結合部にありますから、できるだけ結合部を減らして一体化し、耐震設計には固定するというのが、精度を上げ剛性を高める一つの工学常識です。
そんな剛性論に対して、まったく逆の立場をとっているのが築後1300年を経てなお地震にも耐えている健在な法隆寺や薬師寺です。
丈夫に・・・というと、鉄とコンクリートでガチガチに固めようとするのですが、逆に、がっちりと固定してしまうコンクリートは揺れや振動にはもろい。そのため近代建築では、補強に柔軟性もあって曲がりに強い鉄材を入れて、鉄筋コンクリートにしているのですが、実は鉄も錆びるという弱点を持っています。だから、千年というスパンで考えると万全ではありません。
 
寺院建築を見ると、屋根は複雑な構造の上に載っています。柱の上に二手先斗栱組と呼ばれる構造物を入れて、横木、屋根を支えているのです。
複雑な構造が組み合わされているのですが、薬師寺を改築したときに、それがどのような意味をもってなされているのか、現代科学をもってしても解明できなかったというのです。西岡棟梁は、当時建築した棟梁の技に感心し、「ただ真似をするしかなかった」と述懐しています。
そして、真似をして作っていくうちに、その意味が一つずつ、薄皮がはがれるように明らかになっていきます。先人の技の奥行きの凄さに圧倒されたそうです。
 
揺れに影響されない高い精度(=固定する)か、揺れ・振動に強い丈夫さ(遊びを生かす)か、という選択の問題かもしれません。
法隆寺の五重塔や薬師寺の東塔は、幾多の地震にも倒れずにいます。
その秘密は、木造の接合具がもつ隙間が地震に耐えるポイントだと喝破したのは西岡常一棟梁です。固定するよりも、遊びで振動を吸収するということですね。この発想は、いまでは固定せずに耐震ゴムを活用することで遊びを持たせるという工法に活かされているのです。

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