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021.横浜税関本館庁舎

≪3.生糸貿易をささえた横浜の洋館・建造物015/みなと地区≫


*クイーンの塔の愛称にふさわしく気品が感じられる横浜税関本館と塔。3塔の中では一番高い。かつては、海からくると、この塔が一番目立つといわれていたが、今ではみなとみらい地区に高層ビルができて、目がそちらに奪われているとか。海からくる船に見せるための裏の顔です。


 
 神奈川県庁舎裏を通る海岸通りから象の鼻に出る交差点の左角にあるのが、横浜税関本館です。海側、象の鼻、大さん橋方向から見れば、イスラム風の塔のある建物が横浜税関本館です。
 なんといっても特徴は、港に面して建つイスラム風の塔で、横浜の3塔の中で、「クイーン」の愛称で呼ばれる塔です。たしかに、他の2塔が直線的で鋭角に感じられるのに比べると、丸みを帯びた柔らかなたたずまいは、女性的でクイーンの愛称にふさわしい命名です。
 この塔、税関の本館を立てるにあたって、港に入ってくる船舶からはっきり見えるように、という意図で作られたということですが、目印と考えれば、この塔は3塔のなかで一番高く設計されています。この件については誕生秘話があって、当時の税関の所長が「他の2塔に負けてはならぬ」と一番高くすることを求めて、計画を変更させたという逸話があります。話としては面白いのですが、その真偽については不明です。

海岸通りに立つ横浜税関本館。海と反対側にある正面玄関。こちらがいわば、表の顔か。

■「近世式?」のクイーンの塔
 この塔が一番高く見えないのは、他の2つと比べて、丸みを帯びているからかもしれません。今ではベイブリッジもでき、大さん橋も高くなっているのであまり感じられないようになってしまっていますが、かつて多くの船が横浜港に入港する際に、この塔を目標に入ってきたといいます。そう聞くと、かつては、横浜のランドマークになっていただけでなく、船舶にとっての道しるべ、灯台としての役目も果たしていたのでしょう。
 建てられたのは、昭和9(1934)年。当初は鉄筋鉄骨造りの5階建てだったのですが、平成15(2003) 年に改造され7階建てになりました。設計は大蔵省営繕管財局。横浜市の歴史的建造物に認定されています。
 この塔の建築様式は何か、というのが話題になったりしますが、どうやら決まった答えはないようです。出来た当初のパンフレットには全体の意匠として「近世式」と書かれていたそうです。アール・デコ、ロマネスク、ゴシック、イラスミック・・・といろいろ過去の様式を当てはめてみればできないこともないのですが、どれも決定力に欠けるようです。やはり「近世式」と言っておくのが正解かも知れません。

玄関は建物の顔、アーチ型の門柱など個性的ななかにも重厚さが感じられます。
外壁は白タイルが貼られて、デザインもシンプルに見えますが、
細かな装飾があちこちに施されています。

 外壁に白いタイルが張られ、シンプルなデザインなのですが、軒の飾り(コーニス)のように、要所に装飾が見られます。
 
 
 海に向かった塔の下に入り口がありますが、正式な正面入り口は塔の反対側、海岸通りに面してあり、細やかな装飾が施されています。
 安政6(1859)年に作られた関税を担当する運上所から言えば何代目かの税関庁舎に当たります。終戦後はここも接収され、ホテル・ニューグランドとともにマッカーサーの居室・執務室として使われたそうです。
●所在地:横浜市中区海岸通1-1


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