女子体操の飲酒を考える
パリ五輪体操の女子日本代表主将の宮田笙子が、代表行動規範に違反した疑いでチームを離脱。喫煙の疑いが浮上し、本人に聞き取り調査した結果、6~7月に喫煙と飲酒行為があったことが確認されたということから辞退につながった。今回の問題は内部通報によるもので、他の選手に喫煙や飲酒を勧めるなど、同室の選手が嫌がっていたことから選手の通告といわれる。
一連の問題。飲酒喫煙の事実以上に飲酒や喫煙で辞退がふさわしいのかどうか、そもそも飲酒や喫煙がそこまで大きな問題かといったことが必要以上にクローズアップされている。
協会は以前より噂レベルではあるが飲酒や喫煙を把握していたともいわれ、単なる宮田の問題以上に、五輪直前に不祥事で辞退した者が未だかつていない、そのことが体操協会や体操界、はたまた五輪にとって大きな汚点となるいった影響を考慮すると、積極的になれない事情があったとみる。
1回限りの飲酒や喫煙といった話も不自然なことである。飲酒も喫煙も常習的なもので、誰かに誘われるといったことでもない限り1度だけ行うといった類いではないのだ。
本来違法ではない喫煙のような軽微なもので除外という重い措置は、法的に問題で訴訟となる可能性があるため、協会やJOC側の処分というのは避け、自主的な辞退の形にしたいという協会の意向があり、いわば協会の圧力で辞退になったという話もある。
協会側が「1回だけを信じている」というのを強調し、本人の意向を尊重した格好となっているのもこのような含意があるとすれば頷ける。
この1回だけという事実に対し、辞退という大きな決定が下されたことの乖離を批判するものも多い。しかし、「本人から辞退」「1回だけ」というのは今後の選手生命のための妥協点ともいえ、信じているという文言もある意味これ以上傷を広げないための寛大な措置ではないか。発端が内部通報からであり、ある意味事の次第では永久追放もやむを得ない状況まで行きつく可能性もあるだけに神経を尖らせているとみてしまう。
そもそも今回の問題も擁護派が本当に擁護しているか、擁護になっているかも疑問である。体操協会を権力や旧態依然の象徴のように掲げ、宮田の問題をダシにいたずらに騒ぎ立てているように見える。どこまで宮田選手にとってプラスなのか疑問である。
かつて相撲界が不祥事で大きく揺れた際も、ある識者が「膿を出し切りました、しかし相撲は消えましたではどうにもならない」と今後の改革について提言していた。今回の問題もいわばそれに近い。この時も大相撲の慣習や体質がことさらに批判されていた。妥協点はどんな事案にも必要である。
ちなみにスケートボードでも飲酒騒動があったが、飲酒の意図がなく少量だったことなどが考慮され、処分は口頭注意で、以降の予選にも全員が出場した。公開された情報による各所での推定では、宮田よりも年齢は下の選手もおり、この中の複数人は五輪代表になったとみられる。同じ飲酒という行為ながらも体操協会との処分の差がかなり大きい。五輪という大会の特殊性からみると、今回の問題が発覚した現在では、宮田選手の辞退が厳しすぎたというよりは、スケートボード選手の処分が軽すぎたともいえる。
ほかにもサッカー、野球選手の暴行騒動などがあるが、年齢も立場も異なるとはいえ、比較すると今回の処分はいささか過剰とも思える。
飲酒そのものでいえば、成人年齢が18歳に引き下げたにもかかわらず健康被害云々ということから、飲酒や喫煙はこれまで通り、20歳未満は禁止。これに疑問もある。というのであれば従来通り20歳が成人でいいのではないか。成人が18歳と決めた以上、喫煙や飲酒も同様の扱いにするのが自然であろう。
そもそもこの成人年齢引き下げは、公職選挙法で選挙権年齢などが18歳以上と改正されたことが最大の要因で、いわば選挙権拡大のために成人年齢を変更したというのが実情のようだ。政治的な要素が大なのである。だからこそ歪んだ構造となるのも理解できる。
大相撲界も未成年の飲酒喫煙は常態化しており、北の湖など20歳でこれから避け辞めるといったという話もあるほど。現在とてビールなどを水のように飲む世界。かつてよりも飲酒の習慣が減ったとはいえ、昨年の巡業、今年の二所ノ関部屋で飲酒問題もあった。強制、自主的問わず酒とは切り離せない。
今回の判断は、重い処分ではあるが、五輪という他の大会と異なり世界が注目する場で起きたことでありやむを得ないだろう。仮に五輪後に発覚の場合、さらに事態が大きくなったことは想定できる。宮田選手には、今後も再起のチャンスが得られるような道筋を、協会や大学がバックアップしていくべきではないか。
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