冷たい出来事の温かい本
辻村深月『朝が来る』
本の重要なキーワードを抜き取って綴るので、まっしろな頭で読みたいという方は本を手に取り読んだ後、戻ってきてください。
退屈しない展開が望まれる分厚さですが、期待は裏切りませんでした。あっという間に読み終えました。読書メモを取る間も惜しんで没頭しました。これからの人生、他人事と思っていたことが自分に降りかかるかもしれないと考えさせられました。
この本のキーワードは不妊治療でした。事はこのひとつの点から派生し、多くの問題を露わにしていきます。
恥ずかしながら不妊治療の対象は女性だと思っており、男性専用の部屋についての描写には驚きました。そのときうっすら蘇った記憶は、テレビで放送された男性の不妊治療の実態についてのニュースでした。目を背けてきたことを実感しました。
考えないことは問題だと思います。しかし、目を背け無かったことにするのはもっと問題です。問題意識を持つには問題と対峙しなければならず、負担を感じるならこんな小説をよむことから始めてみるのがいいかもしれません。追っても追いきれないほどの問題であふれた社会だからこそ、問題にもまれてようやく生きてゆけるのだと思います。
目を背ける問題は必ずしも社会問題として取り上げられることとは限りません。当たり前のようにあふれるモノや環境に潜んでいるのだと感じました。
家族がその一例だと思います。僕は一人暮らしをするまで、幸せに暮らせる家のことを深く考えもしませんでした。「よそはよそ、うちはうち」の精神、他人の家庭には踏み込んではいけないという文化などが、考えることを阻んでいるのではないのでしょうか。
社会問題を羅列した本ではありません。温かい本です。読み終えた後、図書館の本であることが惜しいほど手元に残したいと思いました。心のこもった本でした。
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