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ロールプレイゲームの中で生まれる経済

注意書き

今回の話は政治、経済学、時事ネタの話ではなく、私が実際にあるゲームで実際に目撃した、ゲーム内で自然発生した経済活動の体験談、考察です。
出典元などはなく、私の考察が載っています。なので、この先に経済学的用語や理論が登場しても、その使い方や考察の正確性や中立性は欠くものです。
また、この記事はVRプラットフォーム(VRSNS)のVRChat内で行われたイベント(非公式)「だいたい10分で分かる政治経済」で行われた講演のスライドをそのままnoteに移植・補足したものです。

今回の話は、「GTARP」というロールプレイゲームを過去に遊んでいた話を、知り合いに話したところ「その中で発生した出来事や問題は経済っぽいね」というのが発端で、それをまとめたものです。

その他補足

  • この話は一年前の話です。今GTARPをしても同じ体験ができるとは思えません。

  • GTARPは配信者の中で流行ったことがあり「ストグラ」という名前で有名です。

  • GTARPは複数のサーバー(コミュニティー)があるので、サーバーによって常識が違います。

  • 私がいたサーバーは同時接続150~200人ぐらいの大規模なところでした。

  • 今回の話のサーバーはもう閉鎖されています

  • だいぶうる覚えです。


GTARPって何?


GTARPの元となるGTAオンライン

GTARPとは、GTA5オンラインを外部ツールやスプリクトで改造し(ロックスター公認)、コミュニティーが制作、運営している街で、プレイヤーが自分自身となるキャラクターを作り、第二の人生のように振る舞い、複数のプレイヤーが街を作り上げていくというロールプレイ×メタバースの要素を持つゲーム。
街の中での警察、救急隊、飲食店、ギャングなどをプレイヤーが行い、強盗やカーチェイスの犯罪から飲食店の接客までもプレイヤー同士でロールプレイとして楽しむ。
もちろん、そこにゲーム内通貨が存在し、物の売買があるということは、経済が存在する。

運営が介在しない雇用の創出

GTARPでは基本的に運営が希望者の中から飲食店オーナー、警察署長、ギャングボスなどを任命、管理し、任命されたリーダー(雇用主)はルールの範囲内で決められた役職を自由に雇用できるという体制。職種によって人数制限や禁止行為が定められている。
しかし、運営はいくら計画し、想定しても、仕事というのは需要から自然と生まれるもので運営が想定していない職業や雇用が自然と発生した

運営が想定していない”アルバイト”

その中で一番最初に生まれた仕事はギャングプレイヤーが雇用主となる”アルバイト”だった。
GTARPのギャングは薬物を製造し、密売することで資金を得たり、縄張りを得る(陣取りゲーム)ことができる。

しかし、薬物を作るにあたっての原材料の採取は、非常に時間がかかる。満足いく最低量を得るのに現実の時間で一時間弱はかかってしまう。解決のために人員を大量に投入しようにも、ギャングメンバーには人数制限がある上に、この薬物の原材料は所持すると違法なため、逮捕されれば別のギャング活動(強盗など)にも支障が出る。
そこでギャングはメンバー以外に原材料の採取をさせることを思いついた。これが”アルバイト”の始まりとなる。要するに現実でいう闇バイトに近い。運営は想定しておらず、制限がないため、ギャングはアルバイトを自由に雇うことができ、原材料の取引価格は運営の影響がなく、需要と供給で決まった。また後述するが失業者問題が発生していたため、このアルバイトブームに拍車がかかった

アイテムを巡ってのバブルの発生

また、このギャングとバイトの間の原材料の取引価格は常に一定ではなく、その日の需要と取引するギャングの資金力によって左右された

薬物の原材料を巡ってのバブル

ある時、一つの資金力のあるギャングがたくさんの縄張りの覇権を得るために原材料の買い占めを行った。原材料1つあたり500円だったのが、数日で2000円前後まで跳ね上がった。これに他のギャングも利益を無視して追従したため価格競争に発展し、普通に働いているよりもアルバイトをした方が稼げるという状況になった。
そのため、失業者問題があったのも相まって大勢のプレイヤーが違法な原材料の採取に携わり、薬物の製造も増え、街全体での犯罪率の上昇を招いた。

バブルともいえるほど過熱した原材料価格の高騰を、運営は介入を開始。薬物1つ作るのに、必要な原材料の量を1.5倍にした。これにより需要は増えるが、そもそもこの価格の高騰は、利益を無視した競争から生まれているため、この仕様の変更はギャングにさらに金銭的な負担をかけることに繋がり、すべてのギャングが価格の引き下げに踏み込むことになった。これにより薬物原材料のバブルは終焉を迎える。しかし、依然として失業者は合法の稼ぎ方よりもこのアルバイトの方が稼げたため、違法なアルバイトは最後まで消えることはなかった。

余談

この原材料価格の盛り上がりに合わせてアルバイト以外でも、関連のビジネスが生まれた。原材料を採取者から大量に安く買いたたき、それをギャングに高く売りつけるプレイヤーや安い時に原材料を買い、ピークの時にすべて売り払い利益を得るプレイヤーがいたりなど、このバブルをうまく利用するプレイヤーは多種多様だった。
また、バブル以前から強盗の手引きや強盗道具の入手方法の情報を売買する情報屋が存在したが、彼らはこの時は新規のバイトとギャングを仲介したり、原材料の採取方法を教えたりなど、もともと犯罪に詳しく、ギャングとの繋がりがあることを生かしていた。

仕様変更による職業の活性化


仕様変更による個人タクシーの活性化

GTARPでは元のGTAと一緒で撃ち合いや交通事故による負傷が発生する。ただし、GTARPではプレイヤーによる救急隊が存在し、彼ら以外の手段で回復や蘇生することはできない。今まで事故現場などでその場で蘇生することが可能だったが、仕様変更により一度病院へ搬送してから病院での蘇生ということになった。
これがビジネスチャンスになると考えるプレイヤーがいた。搬送された負傷者は病院で治療後、病院で解放されるが車などは事故(事件)現場にあるため移動手段がない。これに目を付けたプレイヤーが病院前に常駐する個人タクシーを始める。これも運営のルールがなく、料金も運転手次第で、タクシー会社が存在しないため稼げることができた。また複数のプレイヤーによる価格競争や差別化のための個性や工夫などが行われ、タクシー業全体の盛り上がりを見せる。

運営によるタクシーの管理下と衰退

しばらくして運営はタクシー会社を一つ組織し、会社に属さない個人タクシーを禁止した。これはもともとタクシーが流行る前から決まっていて、個人タクシーは会社ができるまで、見逃されていただけに過ぎなかった。
タクシー会社は採用を開始するが、個人タクシー廃止によって職を失った元運転手や大量の失業者が仕事を求めて殺到した。これに対し運営は、既に失業問題に対してプレイヤーの抗議が多かったため、不満解消を込めて大量雇用した。
一方、別方面でタクシー関連の不満を訴えていたプレイヤーがいた。先ほど紹介した病院の仕様変更は、プレイヤーたちに大きな負担になっていた。怪我や重傷を負うことは元がGTAだけなあって非常に多い。(交通事故、高所からの落下、溺死など)救急隊員が現場まで到着するまで時間がかかり、車などの移動手段を現場に残して病院まで搬送される。病院で治療を受けてやっと解放されるが、移動手段がない。タクシーを呼んで待つ、これも時間がかかる。そしてタクシー料金も払わなければならない。そしてやっと事件、事故の後処理をすることができる。この金も時間もかかる状況が頻発することにプレイヤーは不満だった。
そこで運営は病院の仕様を元に戻した。一連のタクシーの盛り上がりは病院の仕様により成り立っている。元に戻されたことにより、病院まで搬送されるプレイヤーは減少し、タクシーの需要は下がってしまった。

この大量雇用という過剰な供給と仕様変更のよる需要の減少という経済的不均等になってしまった。またタクシー会社は一社しか存在しないため、価格競争や創意工夫などが一切なくなってしまった。また利用する客が少ないのに運転手が多いので仕事が回ってこないため、暇をする従業員が多かった。
しかも会社に入らないとタクシーはできないが、設立の際に大量雇用をしてしまったため、しばらく採用することができない。運営はタクシーを遊べるコンテンツとして提供しているつもりだが、実際はほとんどのプレイヤーは遊ぶことができない。実際より職業選択の幅は狭く、面白くない。

失業者と経済格差

大勢の犯罪関与、タクシー問題にも関わっていた失業者問題は深刻な問題だった。
一応、補足すると職業に就いていなくても稼げる方法はいくつかある。 (釣り、鉱石堀り、ごみ収集など)しかし、無職者は数十万ほど所持金を持っているのに対し、有職者は数百万から数千万も所持している上に、自動車を何台も持ってるなど経済格差があった。そして、ゲームとして一番大切な面白さは飲食店などの職業に就いていたほうが、ロールプレイのことも考えると絶対に良い。(釣りや鉱石収集は同じ作業を永遠にするだけで退屈な上に得ることができるお金も少ない)

「現実と違って運営はゲームだから店や職業をたくさん増やせないのか?」という疑問もあるかもしれないが、データの容量やバグの問題、運営自身のキャパシティを考えると難しい。そして一番、運営が店舗などを増やさない理由はプレイヤー企業が複数あることによって生まれる競争を恐れているからだった。このプレイヤー企業の業績の悪化やプレイヤー同士の競争を極端に避ける運営の姿勢がより就職難を悪化させた。

善意が経済を苦しめる

運営はすべてのプレイヤー企業がみな均等に利益を出せることを意識し、プレイヤーの企業が倒産するという概念すらなかった
これは職に就いているプレイヤーがロールプレイに専念し、楽しめるようにという配慮と、競争により労働者や消費者に負担をさせるようなことや企業同士のトラブルが生まれることを避けたいという善意から来ている。

この善意から企業は潰れることがない。潰れないのでオーナー(雇用主)は変わらない。競合相手も少なく、経営が傾くこともないので従業員を解雇することもない。従業員も「人間関係が良くない」「他のことがしたくなった」「現実が忙しい」などの理由ぐらいでしか辞めることはないし、やめても求人している職業は少なく、就職できる保証がないので基本はやめない。従業員がやめたり、運営が小手先で雇用枠を増やしたりしても、雇用主は現実世界やゲーム内での知り合いを縁故採用してしまうので、繋がりのない新規のプレイヤーは就職できない。

運営は雇用主にに雇用の人数制限はかけていない。
失業者の問題に対しては我々は最大限対処している。(意訳)

運営

たしかに運営はギャング以外の職業の雇用に人数制限はかけていなかったが、さすがに雇用主にもキャパシティがあるし、いくら運営の加護があっても雇い過ぎると人件費は莫大になってしまうし、トラブルも起きやすくなる。しかも、先述した通り雇用主は縁故採用してしまうのでプレイヤー目線では雇用には枠があるし、採用されるのにもハードルが存在する。運営にはそれが理解できていなかった。

運営はこれだけたくさん職業があると謳っているが、実態をみればその職業たちは既に枠が既存プレイヤーで埋まっていて、枠が開いた瞬間、その店の知り合いでまた埋まってしまうだけ、という状況でプレイヤーが実際に遊べる職業はなかった。そしてコミュニケーションや繋がり、またはビジネスを考えられるプレイヤーしか楽しめることができなくなっていた。

現実の経済では「事業参入と撤退の自由」があるから成り立っている。
誰でもその事業に参入できることが「参入の自由」、しかし、GTARPでは運営の用意した店舗でしか飲食店はできないし、個人タクシーの事例のように自由に事業を起こすことができない。「撤退の自由」参入は想像しやすいが、実では撤退の自由も大切だ。経営者の手腕が足りなかったり、需要がなかったりすれば、自然と資金などが尽きて事業から撤退する。そして撤退したところに新たな企業が参入できる。そうやって経済は回るが、GTARPは運営の手厚い支援やシステムのおかげで企業が撤退することはなく、枠がないので新しく参入することはできない。

最後に

ゲームの中で経済が生まれることは古くからMMOなどにもあることだが、運営が介在しないところでプレイヤーがプレイヤーを雇ったり、ビジネスチャンスやビジネスモデルをゲームの世界で考えるプレイヤーがいたりするのは非常に面白かった。

一見、運営が悪手なことばかりしているように見えるが、彼らは良かれと思って介入したり、プレイヤーの意見をなるべく取り入れようと行動したりなど配慮と善意の上で行っている。でも、彼らは経済学者でも政治家でもない。だから善意で社会主義まがいなことをしても、需要などは読めないし、利害調整も失敗する。あくでまでロールプレイから生まれたGTARPだったが、プレイヤーの行動はもはやロールプレイではなくなり、いつのまにか経済が生まれていた。他のゲームでも経済は生まれる。EVE ONLINEなどの経済が成功しているゲームは、プレイヤーに経済の主体を任せている。今回のことも含めるとゲーム内経済にも「神の見えざる手」が存在するのかもしれない。


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