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【神7】アル中を隠しながら30年以上ライターを続けられた秘技 その2

(その1から続く)

 まず、マスクは言わずもがな口臭対策になる。飲みも兼ねた打ち合わせなどでは、飲みだすまではマスクを外さず、口を開くのを極力最低限にして鼻呼吸をする。

 口臭対策としてはガムや緑茶、コーヒー、タバコなどの嗜好品も有効だ。……しかし、以前働いていた派遣会社では上司が一切お酒を飲まない人だったので、アルコール臭に特に敏感だった。

 すぐに「昨晩、どれだけ飲んだの」と冷ややかな目で言われて謝るしかなかった。そこでなるべく上司と接触を避けるべく、私はゲラや校正の届け物などで積極的に外出した。

 ちなみに歯磨き粉は、歯を磨くためではなく「食う」ために持ち歩いていた。胃の中からスッキリとした息になるような気がする。
 
 制汗剤は日常的に使用しているが、「しくじった」と思うのが、取材先や打ち合わせ先で靴を脱ぐはめになった時だ。汗がアルコール臭いというのは、当然足も人一倍臭いということになる。
 
 一瞬でも早くその場から退散したくて、取材や打ち合わせも気がそぞろ。この対策としては、出先で靴を脱がなくてはいけないかどうかを事前に徹底的にリサーチしている。脱ぐ必要があるなら、足裏、足指に消臭クリームを塗りこんでおくのと、靴用の消臭スプレーを持参するのを忘れない。

 
 こうして私は、アル中を隠すべく涙ぐましい努力と工夫をしてきた。この努力と工夫を仕事に活かしていれば、今頃私は「超」売れっ子ライターになっていたに違いない。

 しかし、そんな努力と工夫もアル中とバレる時はバレる。特に夜の電話とメールでバレる確率が高い。近年の飲み屋出禁祭りと怪我祭りもあって節酒を心がけているものの、原稿が進まない時や悩み事がある時などはどうしても急ピッチでお酒が進み、記憶を飛ばす。

 そして無駄に電話に出たり、メールに折り返している。対応しない方がよっぽどリスク管理になるのに……。 まだメールなら後から文字で確認できるけど、電話では自分が何を話したかも覚えていない。ただ通話履歴があるだけ……。

 朝起きて自分の失態に気がつき、自分の非を謝罪する。「あはは、酔っぱらってたね」と笑い飛ばしてくれる方もいれば、「疲れてたんだね」と同情(?)してくれる方もいる。

 さすがに懲りて、泥酔時に仕事の電話がかかってきた場合は「念のため、同じ内容をメールでもいただけますか?」と一言(無意識でも)添えるようになった。これなら、シラフ時に文字で確認できるので一石二鳥だ。もしくは「外出中なのでメールでいただけますか?」と伝える。これもアル中をなるべく悟られることなく円滑(?)に仕事を続ける処世術だ。

 また、お酒好きの編集さんの中には一部ではあるが私のアル中にも理解がある方がいるのにも救われている。どうせ電話で話しても覚えてないだろうと察してくれるので夜に絶対電話はしてこないのだ。ありがたや、ありがたや……。

 飲みも兼ねた打ち合わせでも、大事な話は私が意識があるうちの序盤の数分間に留めてくれる。その内容も泥酔すると記憶から飛んでしまうわけだが、幸い序盤ならメモを取っているから記憶を取り戻すことが可能だ。

 いつまでアル中を隠しながら現役ライターでいられるのかは分からない。健康や脳の方がダウンしてしまうかもしれないけど。せめて「ありがとう」「ごめんなさい」だけは忘れずに伝えていこう。誰かに役立つ、喜んでもらえる原稿を書こう。私を必要としてくれる人がいる限り。
(完)

 



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