FMDJ還暦ジジィの想い出

「砂浜に書いた文字って好き」

そんな事を言ったのは、大学生の時に付き合っていた、2つ上の、彼女だった 

大学一年生の夏にクルマの免許を取ったボク、

そんな僕に、二年生の時、出来たばかりの2つ上の社会人の彼女

その彼女を、ちょっと背伸びしてドライブに誘った

人に自慢できるような、かわいらしい彼女だったから、

ボクは、デートのときは、何かにつけて頑張った

ドライブは、梅雨の晴れ間の暑い日だった

風呂なしのアパートに住んでいたボクは、もちろんクルマなんて、持っているわけもなく

友達のプレリュードを借りてドライブに行った

たわいもない話をしながら

楽しく

逗子から鎌倉、湘南方面をドライブ

そして、僕たちは、江ノ島が見える海岸近くに

クルマを止めて 

浜辺に降りていった

海開き前の海は、海水浴客も ほとんどいなく

海の家もまだ開いてなかった

そんな海岸を歩きながら

どこからか流れて来た流木を彼女は、拾って

砂浜に、いたずらっぽい顔をして

「大好き♥️」って書いた

「砂浜に書いた文字って好き」

って言う彼女に、ボクは、

「そんなの書いたって波が来たら消えちゃうよ」と懸命に大人っぽく言ったら

そんな僕を見透かしたように、彼女は、

「人の心って、いつ波に、消えるかわからないんだよ」

その時の、ぼくは、まだ子供で

若さ、繋がり、愛、すべて永遠だと思っていた

ちょっと大きな波が来て

文字を、すべて、消していった

「あっ!」と言った僕に 

彼女は、

「消えちゃったね、でも、書いた事実は、二人の心に残っているよね、それでいいんだよ」

ボクは、たった2つしか違わないのに

彼女が、なんだかすごく大人に見えた

二人で海に沈む夕日を

見ながら帰路に着いた

何か違和感を持ちながら

彼女を駅まで送って

「じゃあ、また連絡するね」と

彼女は、ボクの車が見えなくなるまで

ニッコリ笑って手を振ってくれた

でも

次の日から、彼女からの連絡は、ずーっとなかった

毎日の喧騒の中、連絡しても繋がる事もなく

日々過ぎて行った

初秋に、さしかかった頃

彼女が不倫でもめてるらしいって話を聞いた

あわてて、連絡をしたけど

やはり繋がらなかった

噂で聞いた話だと

8つ上の、上司との不倫で、結構ヘビーにもめて、会社に居づらくなった彼女は、

仕事を辞めて田舎に帰ったらしい

今じゃ、どうしてるか、わからないけど

ボクは、今でも

砂浜に書いた言葉は、覚えているよ

では、ここで1曲聞いていただきましょう

畑中葉子で

「後ろから前から」


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