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まあ太のぼうけん その11

 その一言を聞くと、今まで半透明で消えかかっていた3人の虚界の生き物たちはその色を取り戻し、ゆっくりとからだを起こして入念にストレッチを始めました。
 鬼たちはちからを表し始めた3人に気づき不思議そうに睨みつけると、奇声と赤い舌を出しながら勢いよく飛びかかってきます。

 まずははじめにカラス天狗が前に出て、いつも暑い時にあおいだりお盆の代わりに使ったりしている大きなヤツデの木の葉のうちわを取り出しました。
 カラス天狗は「チイチイチイ。」と何やら唱えるとうちわを持った腕を全身で真っ直ぐに掲げ一呼吸置くと「ぶん。」と振り下ろしました。
 するとカラス天狗の足元から小さな風の渦が巻き起こり、それがいくつかに増えやがて大きな風の柱となってほらあな全体をごうごうと揺らし始めました。カラス天狗はそのあと土煙とともに洞穴のてっぺんまで飛び上がり、天井を蹴って大きく回転しひとつの白く大きなかたまりとなりました。

 次にかつて白狼と呼ばれていた大犬が天に向かって目いっぱい首を伸ばし「ばう。」と叫びました。そのあまりの腹の強さに鬼たちは一瞬びくっとなって取り乱し、不安げにあたりを見回し始めました。
それから犬は全身をぶるぶると振るわせ続けるとそのうちに全身の体毛は金色に逆立ちそれが集まると、ひとつの大きな白銀の刃となりました。

 最後にマシラの長である大猿ことゴリラは、その姿に似合わぬかぼそく小さな声で何やらぶつぶつと唱え始めるとほらあなの壁中がぼこぼこと黒く泡立ち始め、中から有象無象あらゆる厄災の主たちが顔を出し、鬼たちを数えると何とまあ口が耳まで裂けたような笑みと邪悪な言葉で次々と、どの鬼に何をしてやろうかと話し出しました。
 ゴリラの印を結んでいる丸太のような太い腕は、2本増え4本増え、顔は3つ増え7つ増え長い牙と翼を持った鬼をも震え出す恐ろしい魔人の姿に変貌したのでした。

まあ太はそこまで見届けるとぱったりと全てが真っ黒になりました。


         暗転 

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