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まあ太のぼうけん その8

 ウミネコがぎゃあぎゃあと鳴いております。陸地が近いのでしょうか。
 七海里というとおよそ800メートル。波も高く小さな船ではずいぶんな距離です。しかしそこは大猿。いやゴリラ。櫂をぐるんぐるんと回転させ、ありえないスピードで進みます。
 犬は海面にじっと目をこらせているかと思うと「はっ!」という掛け声とともに新鮮な魚介類を前足で掬い取っては丁寧にさばいて食べています。
 カラス天狗はというと上空はるか彼方にカラス達の陣を構え「あ、そっちそっち。」だの「あ、ちょっとずれてる。」だの言いながら、島の方角を指示しております。
 なんだか遠足みたいですね。

「島が見えたぞー。」とカラス天狗は大声で叫びました。ゴリラの勢いも止まりません。犬は全身をぶるぶると奮い立たせて、何やらやる気です。けれどもまあ太はじっと動かず黙ったままです。

薄暗いもやの中、海が盛り上がって見えるその先に島はありました。
 島は岩だらけでごつごつしており、跳ね返る波の音と海鳥のフンでまだらになっているその姿はまるで島全体が鬼で、これからまあ太達を飲み込もうとしているようでした。

岩場の近くまで来ると犬がまあ太をくわえて飛び移り、そのあとからゴリラが乗っていた小舟を掴んだまま一回転し岩場に到着しました。
帰りのために小舟はそこに置いていくこととなりました。

岩場を4人でよっこらしょと登り続けること30分あまり。そのうちに視界が開けて小さな広場に着きました。地面は砂利で出来ていて、草などもまばらに生えています。
広場のまっすぐ先にはほらあながありました。

 ほらあなの左右にはたいまつが掲げられ、その炎が点々と奥まで続いています。それでも先は暗くてよく見えません。
 まず犬がにおいをかいだあと、最初に進んで行きました。続いてゴリラとカラス天狗が中に入っていきます。
 まあ太はこんなときにトイレに行きたくなって、誰も見ていない洞穴の前ですっきりさせると、ひとりでいる事が心配になり仕方なく洞穴の中へ走っていきました。

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