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【こぼれ落ちた断片01】ある日の遭遇

何度も何度も何度も曲がる
あなたの家の曲がり角
下手をすると1日に何回も
保育園の送り迎えや買い物のときは右折
次男の学校や駅の方面へゆくときは左折

この日も左折をしようと一時停止し
ウインカーを出すと
道路の右側からあなたが歩いてきて
わたしと目が合うと微笑み立ち止まる
わたしはどうぞという手振りで道を譲る
あなたはそれを見てゆっくりと歩み出す
わたしは微笑みながらその様子を眺める

あなたが渡り終えるのを見届けてから
ゆっくりと左折し
今一度あなたのほうを向くと
あなたは
道路を渡るときのよそよそしさとは不連続の
満面の最上級の微笑みをこちらに向けて
運転しているわたしに話しかけようとさえしている
大きな歩道にたどり着いた安堵で
道路を渡る緊張から解かれた人のように

さすがに会話をしてはいられないから
わたしは窓を開けて
いってきますとあなたに大きく手を振った

  強い陽射しの中
  くっきりと煌めく
  あの日のあなたの残像

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これはまだ二人が付き合うようになる前の1コマだったと記憶しています。陽射しの眩しさから、初夏あたりではないかと。ということは、今から約2年前の出来事です。
彼は毎日、家の前を散歩していました。おそらくは創作への案を巡らせながら歩いていたのだと思います。

★☆ノンフィクション【知られざるアーティストの記憶】は、覚えている出来事を一個も書き漏らすまいという意気込みで、物語よりも記録を優先して書いておりますが、それにしてもどの流れの中でも拾いきれない、あまりにも些細な取るに足らない出来事の記憶の断片を、思い出したときにぽろりと記してみんとてするなり。

形式にとらわれずに、そのときの感性に従って自由に書いていくシリーズにしようと思います。

※ヘッダー画像は若葉の芽吹いた槐と奥の八重桜。

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