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忘れられない恋


#忘れられない恋物語

 そんなものあったかな。
 頭の中をグリングリン回して、私は今までの人生を思い返す。
 モノクロで出来た、少し古めの映画のように、"こんなことがあった"とか"あんなことがあった"とか、引っ切り無しに過去の出来事が、頭の中に投影された。
 私には、異性との絡みはそれなりにあったようだ。
 小学生のときは、絵を描く子を気に入り、よく授業中に落書きしては、その子と描いた絵を交換しあった。
 中学生のときは、頭の良い子を気に入ったが、丁度思春期にはいってしまい、好きじゃない素振りで振り回してしまった。
 高校生では──何も無かったな。というより、思春期で疲れ果てた私は、人と付き合わなくなっていったのだ。
 そんなこんなで、社会人になった。
 春が訪れたのはその時だった。
 学生の頃の好きとは比較にならないくらいの衝撃。恋は世界が薔薇色になるとよく言われるが、まさにそうだ。
 あの人が口をひらくたびに、心臓が高鳴り、出てきそうだった。心臓が。
 お相手と小説にある恋愛のシチュエーションに近づいた時には、恥をかくまいと走って逃げ出した。
 ご飯を誘おうと駆け寄ったときには、このぐるぐるした感情を上手く出せずに、わざと突き飛ばしたりした。
 初詣に一緒に行ったり、そのニ日後には遊園地に連れて行ったり、誕生日が近いものだから、私はその人に"時計"をプレゼントしたりした。
 まぁ、なんだ。でもこんな支配的な人間は、そりゃ恋愛なんて、上手くいくはずもなく。付き合うことなく、二人は会うこともなくなった。
 その初恋の相手は、かなり年上のきれいな人だった。
 瞳は黒くて光を帯びてない。この世につかれた顔をした、儚げな人。
 好きになった理由はわからない。だけど、その人の笑顔をみたいから、仕事を頑張ったことは覚えている。週七なんて当たり前。
 "必死"にやりとげた。そして、私は文字通りに"必"然的な"死"を遂げた。
 そんな、忘れられない恋が私の枷になっているのか、あれ以来、恋を感じても避けるようになっている。
 自業自得と言えばそうだな。

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