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ショートショート「不良男子」

俺は、いつの間にか、皆から″不良″と呼ばれていた。
自分でも、心外だと思う。
こんな片田舎だから、不良と呼ばれているだけで、都会に行けば、俺は不良なんかじゃないと思う。
まず、1限目から学校にいるし、授業も何となくだけど聞いてはいる。
ただ、メンドクセーからノートは、とらないし、成績が悪いだけだ。
誰かを殴ったりしないし、校舎のガラスも破らない。
そうそう、チャリンコも盗んだりなんかしない。
都会の不良は、バイクを盗んだりするらしい。
何かの歌で、俺は、学んだ。
ただ、メンドクセーから委員会には、入らないし、部活もやってない。
そう
ただの面倒くさがりなんだ、俺は。
それを、こんな片田舎じゃ″不良″と呼ぶ。
確かに、ココじゃ9割真面目に部活をしている。
部活をする事が当たり前の世界で、誰も何の疑問も抱いてはいなかった。
俺は、ただ所属する事を嫌った変わり者だっただけだ。
不良なんかじゃない。

しかし、中学2年の中頃、センセーに呼び出された。
このままだと、内申書に何も書く事がないらしい。
だから、俺は、園芸クラブになった。
センセーが無理矢理作った″クラブ″だ。
″部活″とは、違うらしい。

まず、毎日しなくて良いらしい。
毎週土曜の放課後だけ、花の世話をして(できるだけ、テキトーにチャッチャと終わらせて)解散するとのこと。
俺は、反抗したが、センセーは、無理矢理クラブに俺を入れて、たった2人だけで活動をすることになった。
担任と2人だけの″クラブ″って心底ダサい。

俺は、何度も反抗を試みたが、その度に連れ戻されて、土曜日だけは、仕方なく花の世話をするようになった。
野球部の連中は、少し笑いながら、俺の横を通り過ぎて行く…。
(真面目にやってきて良かった。あんなことさせられなくて…。)ってか?
そんなの知るか。

とにかく、花の世話をする様になった。
すると、何となく花に情が移ってしまって、毎日花壇を何となく見るようになった。
すると、同じクラスの名前も分からない女子が、毎日花に話しかける姿に気付いてしまったのだ。
「かわいい」と花に言っていた。
俺は、思った。
その花の世話をしているのは、この俺なんだぜと。
(正確には、土曜日だけだが。)

ある日は、「キレイね」と。
また、ある日は、「ステキね」と。
その度に、俺は、その花の世話をしたのは、俺だと言いたくなったが我慢した。
(正確には、テキトーに水やりしてるだけなのだが。)

ある時、その名前の分からない女子が花壇で何かをしていたので、俺は、真っ青になった。
(まさか、抜こうとしてるんじゃ…)
彼女が去った後、走り寄ってみたら、彼女は、花の周りにあった小さい草を抜いていただけだった。
俺は、驚いた。
彼女は、園芸クラブでも何でもないのに、花の世話をしていたのだ。
名前も分からないけれど、
普通女子って、案外良い奴なのかもしれない。

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