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ショートショート「世にも奇妙な色々物語④ 占いペン」


僕も、もう高校二年生になった。
まだ、ではなく、もう…だ。
そろそろ、受験勉強というものに本腰を入れなきゃならない。

この前、僕等は授業中、先生に三年寝太郎の例え話をされた。
この高校の生徒達は、まるで三年寝太郎。
一年の時には、寝ている。
二年の時にも、まだ寝ている。
三年になって、受験だと気付いて、飛び起きて勉強を始めても、もう手遅れ…。
他の高校の生徒達は、早くに受験勉強を始めているものだから、追いつけない。
そうして、後悔ばかりが残る。
勉強を始めるなら、″今″でしょ?!という話だった。
先生の話の最後のオチは、某塾講師のパクりだな…とチラッと思ったけれど、先生の言う事は、決して間違いなんかじゃないと思う。
先手を打っておかないと何事にも…。

僕は、帰宅して早々に、近所の文房具屋へと向かった。
この文房具屋は、本屋も兼ねている。
数は少ないが、隅っこの本棚には、参考書も置いてある。
とにかく、今は、勉強だ…。
僕は、数冊の参考書を手に取り、レジへ向かうと、カウンターの所に新商品が置いてあった。
新商品 占いペン。
見本が置いてある。
僕は、思わず手に取ってみた。
小学生の頃、鉛筆キャップがおみくじになっていた商品が流行っていたなぁ。
懐かしい…。
あの最新版みたいなもんかなぁ??
電源をオンにすると、ペンの胴体にデジタル表示で″Happy″と表示された。
すげぇ。
デジタル表示か…。
さすが、最新版だなぁ。
値段を見てみると、1500円。
ペンとしては高価な値段かもしれないが、デジタル表示が出るとなると案外安いかもしれない。
僕は、参考書を買うついでに、占いペンも一緒に買うことにした。
レジのおばさんには、
「もう、受験勉強かい??偉いねぇ。うちの息子も君と同じ位の歳なんだけどね。全然、勉強しないの…。はぁ…。爪の垢でも煎じて、飲ませてやりたいよ。」
と褒められた。
お世話や社交辞令だと、頭では分かっていても、褒められると純粋に嬉しい…。
これがもしかして、占いペンの″Happy″の効果なのかな??
僕は家に帰ろうと、買った商品を自転車の買い物カゴに入れ、自転車をまたごうとした瞬間…。
「林君…。」
と声を掛けられた。
僕の目の前には、クラスのマドンナである藤崎さんが立っていた。

僕は、帰る方面が一緒なので、自転車を押しながら、藤崎さんと一緒に帰る事にした。
同じクラスにいる時は、一言も話した事がないのに、こうして一緒に帰る事になるとは、純粋に嬉しかった。
口下手な僕に対して、藤崎さんは、鈴が鳴る様な透き通った綺麗な声で、色々な事を話してくれる。
僕には、有り難かったし、嬉しかった。
あっという間に、僕の家の前に着いた。
「僕の家、ここだから…。」
それじゃあと別れようとしたら、顔を真っ赤にした藤崎さんに呼び止められた。
そして、綺麗な瞳に見つめられながら、こう言われた。
「あの…。私…。林君の事、ずっと好きだったの…。」
信じられない言葉だった。
クラスで一番の美人のあの藤崎さんだぜ…。
かたや、クラスでは、目立った事のない、この僕が…??
僕の脳裏には、占いペンのデジタル表示、″Happy″の文字が浮かんだ。
占いで出たハッピーとは、まさにこの事だったんだ…。
「こんな僕で良ければ、宜しくお願いします…。」
僕達は、この日から付き合う様になった。

僕は、夢見心地の気分のまま、占いペンを開ける事にした。
お前のお陰だよ…。ありがとう!!!
僕は、自分で買った占いペンを早速使ってみた。
デジタル表示には、″Lucky″の文字が…。
そりゃあ、そうだよ。
あの藤崎さんだよ。クラスのマドンナ。
彼女と付き合える様になったんだ。
これ以上の幸運は、ないよ…。
僕は、幸せな気分のまま、勉強に励んだ。

次の日。
靴箱で偶然にも、藤崎さんに会った。
「林君、おはよう!!」
今日も、藤崎さんは綺麗だし、声も美しい。
彼女が僕の恋人だなんて…。
「お、おはよう…。」
僕が藤崎さんに、話し掛けようとした瞬間、友達の各務かがみが話し掛けてきた。
「よぉ!!林〜。何、耳まで真っ赤になってるんだよ〜!」
各務は、俺の肩に手を回しながら、絡んでくる。
藤崎さんは、その場の空気を察してか、僕に軽く会釈をして、足早に階段を昇って行ってしまった。
僕は、各務に藤崎さんとの事を報告した。
各務は、かなり驚いている様だった。
「お前、どうやって、クラスいや…学年一のマドンナを手に入れたんだよ??」
僕は、各務に占いペンを見せながら、昨日のいきさつを話した。
「占いペンで″Happy″が出て、学年一のマドンナが彼女か…。やったな!!お前!!」
各務は、笑顔で僕の肩を叩いた。
僕は、各務が喜んで祝福してくれた事が一番嬉しかった。

休憩時間に何気なく、僕は占いペンを使ってみたら、何とデジタル表示が″Bad″になっていた…。
占いペンを使ってから、初めて出た表示だ。
僕は、何だか言い様のない胸騒ぎを感じた。
嫌な予感がする。
今日は、初めて藤崎さんと一緒に、学校から下校したのだが、何か嫌な事が起きたらいけないと、必要以上に、周りをキョロキョロしてしまって、折角の藤崎さんとの会話に集中が出来なかった。
気まずい空気のまま、藤崎さんを家まで送った。
家に帰宅してからも、僕は、全く勉強にやる気が出ず、ひたすらに無駄な時間を過ごしてしまった。

そして、次の日の放課後。
僕は、藤崎さんに呼び出された。
「各務君から聞いたの…。私達が付き合い始めたのって、占いペンのお陰だって…。」
僕は、初めて藤崎さんに占いペンを見せた。
「あの日、文房具屋さんで、参考書と一緒に買ったんだ…。このペンで占ったら、″Happy″が出てさ。その後、すぐに藤崎さんに告白されて…。」
僕の言葉が言い終わる前に、藤崎さんを見たら、彼女は、泣いていた。
「林君…。私は、本気だったんだよ…。私は、ちゃんと林君を見てたから…。林君が、電車に乗っていたおばあさんに席を譲ってあげた所とか…。転んだ小学生に、絆創膏を貼ってあげた所とか…。困っていたクラス委員の子を、さり気なくフォローしてあげていた所とか…。私は、ちゃんと林君を見て、それで好きになったんだよ…。それなのに、当の林君は、告白されたのは、占いペンのお陰だなんて…。そんなの酷いよ…。」
僕は、驚いて、声が出なくなった。
藤崎さんは、本当に僕という人間をちゃんと見て、それで真剣に僕に告白してくれたのに…。
僕は、藤崎さんに告白された事に舞い上がって、正直、藤崎さん自身を全然、見ていなかった。
それどころか、占いペンとか、そんな物のせいにして…。
僕は、初めて自分が情けなくなった…。
僕は、藤崎さんの手を引っ張って、泣いている藤崎さんを抱き締めた。
「藤崎さん…。ごめん…。藤崎さんは、真剣に僕に告白してくれたのに…。僕も、明るくて、僕にきちんと真正面から接してくれる藤崎さんを改めて好きになった…。こんな僕だけど、これからも、宜しくお願いします…。」
藤崎さんは、肩を震わせながら、頷いた。

それからというもの、僕は、占いペンに頼る事は、一切なくなった。
運命というものは、自分で切り開いていかなければ意味がない。
占いは、参考程度なら良いが、その結果に支配されてしまう様なら意味はないのだ。
受験も、恋愛も、未来も、全部僕の手の中にある。
それを掴むのも、掴まないのも、僕の努力次第だ。

僕は、久しぶりに占いペンのスイッチを入れてみた。
デジタル表示には、こう記されていた。
″Error″と…。
単純に、電池が無くなっただけかもしれない。
でも、僕は、こう思う事にした。
僕の未来は、測定不能なんだ。
未来は、全部、僕次第なんだ。
僕のこの手で変えてみせる。
そう、胸に誓い、僕は静かに占いペンのスイッチを切った。





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