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命の本能|一駅ぶんのおどろき

私は生まれた。だが自分の存在が不確かだった。自分が何故ここにいるのか理解できなかった。手が動く。声が出る。全てが不思議で仕方がなかった。

将来は何になりたいのか。それを答えなければ悪魔のような扱いを受けた。将来。現在。私には、今の自分が何なのかすらも、分からないのに。

勉強を繰り返す日々。知識と教養を身につける意味とは。閉ざされた少数の集団の中から、友だちを作らなければならない意味とは。全てが私をすり抜けていく。私の存在が理解できないから。

同じ夢を繰り返し見るようになった。私は高校生になっていて、それからすぐに卒業して、大学受験に失敗していた。私の目の前に広がっていた道が、全て真っ白に変化した。そこには何もない。あるのは白だけだ。私は一歩も動けない。そして私は目を覚ます。

予知夢なら、それで助かったのかもしれない。私は現実に大学受験に失敗した。私の目の前に広がっていた道は、白くならずに、変わらぬ日常がそのまま存在していた。私に与えられた役割は何なのだろうか。ここで終わりではないことが示されてしまった。

人間は本能的に次世代へ命を繋げる。それは全ての生物に課せられた使命なのだろう。だが、その目的は、何だ。命を繋げる目的とは。何を目指して、四十六億年も命を繋げ続けるのか。

海から陸へ上る必要があったから、陸上生物は繁栄したのだろう。陸から空へ飛ぶ必要があったから、鳥は繁栄したのだろう。何故、陸へ。何故、空へ。何処かを目指しているのだろうか。それは、何処へ。宇宙、か。

四十六億年の命を繋げて、生物の本能は、陸を目指して、空を目指して、宇宙を目指している。宇宙に誕生した地球。地球に誕生した生物。生物の本能は、宇宙に還りたいのか。

私は、子孫を残したいという本能を感じない。代わりに、私の存在はここで終わりだという実感がある。あの白い世界のような、最後に立っている実感がある。それは強烈に、自分の存在を確かなものと感じられる程に。

宇宙に還る生物の最終進化が、人間だ。人間なら、宇宙に還ることができる。私の世代なら、宇宙に還ることができる。だからもう、私は命を繋ぐ必要がない。

私は宇宙に還るために生まれた。

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