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焼きナスはどうして別人になれるのか

調理の仕方によって、全然「別人」になる食材がある。
トマトは生でサラダで食べるあの感じと、
火を入れて、トマトソースみたいにして食べるあの感じでは
全然別人だ。「え、きみトマト?」と聞き直したくなる。

そんな、別人食材っていろいろあるけれど、
ナスも結構そうだと思う。

そもそも、ナスってパンチが弱い。
トマトの赤み、甘味、酸味、みずみずしさ、コクなど
タレント性抜群のスペックが並んでいるのに対し、
ナスは、味がはっきりしない。

ナスを炒め物で食べていて、
「これ、何かナスだな~」と感じる時がある。
ただ、それをナスの「味」といっていいのか分からない。
嚙んだ時にナスから染み出るナスらしき感じ。
ある種、唯一無二の感じなので、個性派脇役俳優として
細く長く生きていくタイプであるのは間違いない。

和食でもイタリアンでも、
ナスが出演していれば、プロ好みのそこそこ良い作品として
見ることができるって感じだろうか。

でも、やっぱりそこは個性派脇役俳優。
主役に躍り出たり、あっと驚かせるようなニュースのあることを
するタイプではない。

そう思っていたけど、
焼きナスは明らかにいつものナスとは別人の、
「焼きナス」という人格な気がするほど、だいぶ美味しい。

フライパンで焼くのとは違う、直接火であぶって、
紫色の皮を全部真っ黒に焦がすまでやわらかくする。

あぶり終わったら、冷水につけて、焦げた皮は外して、
ちょっと黄色と黄緑の間みたいな身が出てきたら、
長い皿に乗せて、しょうがやかつおぶしを多めに乗せて、
しょうゆを垂らして、頬張る。

焦げた風味と、どこから出てきたのかナスの甘味が
じゅわっと口の中で広がって、
今までのナスのキャラを覆す、完成された食べ物になっている。

焼きナスならいくらでも食べられる。
どうした、ナス。美味いぞ、ナス。
ナスに肩は無いけれど、肩をポンと叩きたくなるグッジョブだ。

ただ、直接火にかけただけなのに。ズルい。


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