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世界に「思いやり」を取り戻すために~クリス・コルファー

著書『魔法ものがたり』の目的

▼ 前回の記事では、クリス・コルファーさんが、「作家の使命は、子どもたちの心の中に『分別』と『思いやり』の種を植えること」だとおっしゃっていることをご紹介しました。

そんなクリスさんの作品の中でも、特に『魔法ものがたり』は、「思いやりを持たせる」のを目的として書かれたのだそうです。

クリス:最初のシリーズ『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』の主なねらいは、もっぱら、子どもたちに現実からの逃避場所を与えてあげることでした。
しかし、世は移り変わり、こんな方向に来てしまいました。
それで、いつの日かこんなひどい憎悪を味わったりニュースで見たりしなくてもよくなるように、僕らの世代の誰もが全力を尽くして新しい世代に「思いやり」の大切さを教えていかなくては、と痛感したのです。

ー クリス・コルファー 2020.11.19 Out Front誌より
https://www.outfrontmagazine.com/featured/inside-the-magical-world-of-chris-colfer/

これは、『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』の「前日譚(ぜんじつたん)」、つまり、前の時期のお話になります。
しかし、『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』の知識は不要で、読んでいなくても全く大丈夫だと、作者本人が語っています。

▲ 日本語版上巻。下巻は、2022年春に発売予定。小学校高学年以上。


抑圧されている子どもたち

▼ 前半部分が先回と重なりますが、昨年2月のこのインタビューをご紹介します。

クリス:僕がいよいよ『魔法ものがたり』を書こうと腰を下ろしたとき、世の中は、出版契約のサインをしたときから、あまりにも大きく変わってしまっていた。

そこで、僕は『魔法ものがたり』を、ある意味、独特なものにしようと決めた。この本によって、世界に明るさや思いやりを取り戻せるように努力しなくては、と感じたんだ。それは、僕が子どもの本を書くのを愛してやまない理由でもあるんだ。
もし、子どもたちに思いやりや包容力や真実を重んじることを教えることができたなら、彼らは、よりいっそう成熟した大人になるだろう。
(つづく)

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クリス:今の子どもたちは、あまりにも大きな抑圧の下にいるんだ。
テレビをつければ、社会全体にいつもカオスがあり、政治的な問題があり、あるいは地球の温暖化がある。
そして、適切な食べ物や水、雨露をしのぐ場所を得られず、大きくなれない子どもだっている。
知っての通り、僕たちはイランと戦争をする瀬戸際にいる。あるいは、北朝鮮と戦争をする間際だ。

僕は、子どもたちにとって、こうしたすべてから現実逃避することが大事だと考えているんだ。

ー クリス・コルファー 2020.2.14 シャー・マーゴリスさんとの対談より
https://youtu.be/pR_b2IA34TE


圧政的な国からの手紙

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クリスさんは、現在も「非常に圧政的な国々の若者から、週に数百から数千通」(2020.10.10「The Daily Telegraph」誌)の手紙やメッセージを受け取られているそうで、私たちが、ともすると漠然ととらえているこうした問題も、肌身で感じていらっしゃるのでしょう。
 ※画像はイメージです。


「もっと何かしなくては」

▼ こちらは、出版後間もない一昨年のインタビューですが、執筆されたときの心境がよくわかるコメントです。

ー 執筆しているとき、現実の世界や現代の政治的風潮は、物語にどのくらい影響を与えましたか?

クリス:現代の風潮が、着想のすべてです。
『魔法ものがたり』は、自分にとって簡単な仕事のはずでした。
それは、シンプルな前日譚シリーズの始まりになるはずだったのです。
作品のタイトルは「The Land Before Stories」でした。

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しかし、実際に書こうと腰を下ろしたとき、世界情勢に対して大変に怒りと無力さを感じ、「もっと何かしなくては」と、夜眠ることもできませんでした。
たとえ僕が良くないメッセンジャーだったとしても、たとえそれがうまくいかなかったとしても、次の世代をより良い軌道に乗せるために、できる限りのことをしたかったのです。

『魔法ものがたり』は、ただの前日譚ではなくなり、完全にオリジナルなストーリーとなりました。
今、僕は『魔法ものがたり』は「思いやり」についての自分のマニフェスト(公約、公言)であると考えています。
このような本は、未だかつて書いたことがありません。

ークリス・コルファー 2019.10.15  Advocate.com インタビューより

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ー While writing the book, how much did the real world and the current political climate influence your storytelling?

The current climate was the entire inspiration. A Tale of Magic was supposed to be an easy task for me. It was supposed to be the start of a simple prequel series. The working title was The Land Before Stories. But when I sat down to actually write it, I felt so angry and helpless by the state of the world, I had to do something more so I could sleep at night.
Even if I was the wrong messenger, even if it didn’t do well, I wanted to do anything I possibly could to guide the next generation onto a better path. It ceased to be a prequel and became a completely original story.
Now I consider A Tale of Magic my manifesto for compassion. I’ve never written anything like it before.

「夜眠ることもできなかった」「たとえ僕が良くないメッセンジャーだったとしても、たとえそれがうまくいかなかったとしても」
こうした言葉に、やむにやまれぬ使命感を持って、この作品に臨まれたことがうかがえます。

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▼ 次回から、この作品にかける思いについて、もう少しお伝えしていきたいと思います。