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職場を飛びだしたまま戻ってこなかった後輩。1,000km先にいた

酒イさんなのだ。
noteの大半は心の問題についてや、しんどかった過去のエピソードについてなのだ。

この記事は酒イさんのnoteの主旨から外れる内容になるのかもしれないのだ。
でも、働いていて日々しんどさを感じている人には読んでほしいのだ。

後輩が仕事中に職場から飛び出して、そのまま戻らなかったというお話しなのだ。

音信不通になってしばらくして、彼が約1,000km先の南の島にいることが分かったのだ。

酒イさんのTwitterのフォロワーは心がしんどい状態の人も多いので、最初にお伝えしておくのだ。

このお話しはハッピーエンドではないのだ。

今ほんとうに辛い人は読まないことをおすすめするのだ。

ブラックな職場で派遣社員

ずいぶん昔のお話しになるのだ。
とある業界ではそこそこ有名な企業を退職した酒イさん。
なんと、つぎの就職先のアテもなく辞めてしまったのだ。

新しい就職先をすぐにでも見つけたいところだけど、次こそは失敗したくない。
そう思った酒イさんは、つなぎのバイトをしながら新しい就職先を探すことにしたのだ。

登録していた派遣会社からの紹介で見つかった、つなぎのお仕事。
かんたんにいうと、営業マンがとってきた契約の事務処理をするお仕事なのだ。

しかし、これがなかなかの曲者だったのだ。
営業マンは契約が1件取れればインセンティブが入るので、契約を取り付けるためにお客さんにキチンとした説明をしなかったり、
大事な説明を省いたりしていたことがとても多かったのだ。

そのため、事務処理班の酒イさんたちはお客さんに契約の細かい説明の電話をしたり、ときには説明と実際の契約内容が違うと怒るお客さんからの電話対応を頻繁にしていたのだ。

毎日のようにお客さんからクレームの電話が入る。
ときには1時間以上もクレーム対応の電話をしていたりして、精神的な消耗はなかなかのものだったのだ。
そんなハードな仕事なせいか、事務スタッフの出入りはめちゃくちゃ激しかったのだ。

ブラックな職場で出会った仲間たち

ブラックな職場あるあるなのかもしれないけど、日々たいへんな目にあっているせいか事務スタッフ同士の結束は固く、仲のいい同僚はたくさんいたのだ。

クレームで受けた日々のストレスを解消するため、ほぼ毎日のように職場の仲間と飲みに行っていたのだ。
仕事はキツいけど、仲間には恵まれていたのだ。

あと、ブラックな職場にも優しくて頼りになる上司がいて、その人のおかげで仕事が続けられていたというのもあったのだ。
現場スタッフへの気配りもよくしてれくるし、ほんとうにキツいクレーム案件は代わりに対応してくれたりと、とても頼りになる人だったのだ。

この上司は大の野球ファンだったので、ここでは監督さんと呼ぶことにするのだ。
似ている野球選手にでも例えたいところなんだけど、あいにく酒イさんは当時も今も野球はまったく詳しくないのだ。

出入りの激しい職場なせいか、数カ月も在籍していると酒イさんはすっかりベテラン扱いをされるようになるのだ。

働きはじめてから半年くらい。
酒イさんの所属するチームはほとんどが新人さんで、後輩の教育なども担当するようになっていたのだ。
そこに新しく男の子が配属されてきたのだ。

20代前半の男の子で、穏やかで優しい青年だったのだ。
柴犬のような人懐っこい顔立ちをしていたので、ここでは柴崎くんと呼ぶことにするのだ。

柴崎くんはほんとうに優しい性格をしていて、物腰もやわらか。
それでいて筋肉質で胸板が厚くて二の腕とかもムキムキだったのだ。

筋トレでもしてるの?と聞いたら、「体質みたいでちょっと運動しただけで筋肉がついちゃうんですよ〜」かと言っていたのだ。

いくら筋トレしても筋肉痛にしかならない酒イさんはその話しを聞いて、ちょっとうらやましいなと思ったことを覚えているのだ。

柴崎くんは温厚な性格なのもあって、他のスタッフともすぐに打ち解けて職場になじんでいったのだ。
ただちょっと、優しすぎる彼にはハードなクレームが日常的にあるこの仕事が続けられるかという心配はあったのだ。

それからさらに数カ月。
酒イさんは転職先を見つけることができて、退職日までのこりわずかだったのだ。

酒イさんの退職日も近いある日。
私服OKの職場だったのだけど、柴崎くんがグレーのスーツにネクタイ姿で席に座っていたのに気づいたのだ。

「あれ?今日はどうしたの?」と柴崎くんに尋ねたのだ。
「じつはこの会社の正社員になることになりまして。今日はその面談だったんですよ〜」

あるていど長くいる事務スタッフには社員採用のお誘いがかかることがあって、酒イさんも何度か打診を受けたりもしていたのだ。

過去にも社員になって別の部署の責任者になったりした同僚もいたのだ。

「そうだったんだね。おめでとう!職場の人たちとも顔なじみだし、社員になっても上手くやっていけるよ。」

最初に言ったように出入りがめちゃくちゃ激しい職場なのだ。
そんな環境にも適応できた柴崎くんなら社員になっても続けていけるかもしれない。
酒イさんはそうおもったのだ。

彼が正社員として別の部署に配属されるのと同じくらいのタイミングで、酒イさんは転職したのだ。

退職日には上司の監督さんや柴崎くんも参加した、にぎやかな送別会を開いてもらったのだ。

仕事中に職場を飛び出した柴崎くん

酒イさんは新しい職場で毎日忙しく働いていたのだ。
環境もちがうし覚えることもたくさんある。
前の職場のことも思い出すことはほとんどなくなっていたのだ。

仕事も覚えてすこしだけ余裕がでてきたのは、転職してから半年後くらいだったのだ。
前の職場と新しい職場は電車で1駅くらいの距離だったけど、前の職場の人と会うことは1度もなかったのだ。

仕事が終わった帰り道。

監督さんからとつぜん電話がきたのだ。
あれ?どうしたんだろう?飲みのお誘いかなにかかな?

「こんばんは。突然すみません。柴崎って覚えてますか?
彼から最近なにか連絡があったりしましたか?」

転職してから柴崎くんから連絡がきたことは1度もなかったのだ。
そのことを伝えると、
「そうですか・・・じつは彼がいま行方不明なんですよ・・・」

え?行方不明って?

柴崎くんは仕事中に職場を飛び出したまま、音信不通になってしまったそうなのだ。
当時の彼は監督さんの部署を離れ、別部署に正社員として所属していたのだ。

その部署の上司がかなり厳しい人だったらしく、柴崎くんは毎日のように叱責を受けていたそうなのだ。
彼は温厚で口答えや言い訳けをするタイプではなかったので、そうとうストレスがたまっていたようなのだ。

ある日、上司から問い詰められているときに、ついに我慢の限界がきた柴崎くんは

「もういいです!もうたくさんだ!」

社内に響き渡るような大きな声でそう言い放ち、そのまま職場を出ていってしまったそうなのだ。
監督さんが言うには、あんなに大きな声を出している柴崎くんを見るのは初めてだったそうなのだ。
酒イさんも彼が声を荒げたり、大声を出しているところは見たことがなかったのだ。

数カ月間も行方不明だった

ストレスの多い職場だったこともあって、ある日突然来なくなるスタッフも珍しくなかったのだ。
ブラック企業やブラックなバイトをしていた人なら分かるかもしれないけど、いわゆる「飛ぶ」というやつなのだ。

なので、柴崎くんが仕事中に職場を飛び出したのは衝撃的ではあったけど、会社としてはそこまで驚くようなことではなかったのだ。

数日したら気持ちも落ち着くだろうから、連絡をとって今後どうするかを話し合おう。
彼の上司はその程度に思っていたそうなのだ。

しかし、彼は職場の誰からの連絡にも出なかった。
心配して彼の家を訪ねた監督さんは、彼がしばらく家に帰ったような形跡がなかったことを会社に報告していた。

もしかしたら仕事が嫌になって実家に戻っているのかもしれない。
実家にも連絡した。
そこにも柴崎くんはいなかった。彼は実家にも連絡すらしていなかったそうなのだ。

彼がどこに行ったのか。今どこにいるのか。
友人の家に転がりこんで引き篭もっているのか。

消息は不明ではあったけどそれ以上探しようがないし、どこかで元気にしているだろうとみんな思っていたのだ。

監督さんには「柴崎くんから連絡があったらすぐに伝えますね」と話しておいたのだ。

監督からの突然の電話

柴崎くんが職場から飛び出して数カ月。
彼の一件は頭の片隅にはあっても、とくに思い出すことはなかったのだ。

日々の忙しさのせいで思い出すことはなかったのだ。

とつぜん監督さんから電話があったのだ。
とても静かで落ち着いた口調だったのを覚えているのだ。

「彼の所在がわかりました。屋久島にいました。」

屋久島!?随分また遠くへ。
南の島でスローライフでも送りたくなったのかな。
屋久島は自然も豊かそうだし、のんびりしててストレスもあまりなさそうだよね〜と思ったりしたのだ。

「地元の警察が見つけて、昨日ご家族が現地で確認をしたそうです。
遺体の損壊が激しくて、所持品から彼だと判明したそうです。」

監督さんの言葉に、酒イさんがなんと言葉を返したのか。
なんど思い出そうとしても思い出せないのだ。
おそらく何も言葉を発することができなかったのだ。

柴崎くんは職場を飛び出したあと、そのまま自宅にも実家にも戻らず、
屋久島行きのチケットを買い、そのまま飛行機に乗ったそうなのだ。

彼の所持品にもチケットの購入履歴にも、帰りのチケットを購入した形跡がなかったそうなのだ。

柴崎くんは戻るつもりはなかったのだ。
屋久島の森の中を、着の身着のままで彷徨い、森の中でひとり亡くなったのだ。

辛かったら逃げてもいいの?

辛かったら逃げてもいい。という言葉はよく聞くのだ。
反対に、逃げた先になにがあるの?けっきょく何も変わらないでしょう?
という言葉もよく聞くのだ。

答えはないのだ。

彼がどんな気持ちで亡くなったのか。
最後になにを思っていたのか。
知る術はもうないのだ。
遺書らしきものも見つからなかったそうなのだ。

辛くて逃げたとしても、その先にはまた辛いことが待ち受けている。
だから逃げても意味なんかない。
そうかもしれないのだ。

でも、酒イさんは限界まで耐え続けるのなら、その場から逃げるというのも選択肢のひとつだと思うのだ。

辛いよ、しんどいよ。ということを誰かに伝えられるだけでも
救われることがあると思うのだ。

日々しんどい気持ちを必死に押し殺しながら働いている人は、ほんとうにここでずっと耐え続けるしかないの?と、
ときには自分に問いかけてほしいと思うのだ。

柴崎くんのようになってはいけない。

なにもできなかった酒イさんには、そんなことを言う権利も道理もないのだ。

ただ、
日々しんどい心に自分でムチを打ちながら生きている人が、少しでも楽になれればと願っているのだ。

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