エクスペンタブルズ3の夜
映画鑑賞会をしている。
今夜はエクスペンタブルズ3だ。むろん、1も2も観ていない。
学者のAとプログラマーのFが今夜は相席。
しょっぱなから派手なアクションが起こるが敵も味方も分からなく、私はしびれをきらして質問する。
「え、何が起こっているの?」
「わからなくて、いい」
わからなくていいのか。
機体はオールCG、コックピットの中のムキムキの男たちもアクションシーンじゃないから居心地が悪そうだ。
スタローンは産まれるときに逆子で、しかも臍の緒が首に巻きついていたため窒息状態で生まれてしまい、その障害が表情の部分で残ってしまっているらしい。そのハンデを越えてスーパースターになったんだから凄い。もうそんなに頑張らなくていい。首もそんなに鍛えなくていい。
「自分、スタローンの褒めるときの演技が好きなんですよね」とF。
「ちょっとはにかむじゃないですか。下手でいいなぁって」
そうか、この映画はわびさびを感じてもいいのか。それならば俄然楽しみになってきた。
しかしまだわからない。
スタローンが主役なのは多分あってる。
冒頭からなんの説明もなくドンパチ始まって、キャラ紹介もなくバタバタと殺されていく。
ゴダールの映画の方がまだ理解できる。
しかし、それでいいらしい。
ジェイソン・ステイサムというオトコ
そう言えばスタローンじいちゃんの隣に、ジェイソン・ステイサム。
大好きなガイ・リッチー監督の作品に欠かせない元・飛び込み選手。
彼は私の知る限り、いつも主役の横でつまらない冗談を言っている。
ジェイソン「ナイフメア・ビフォア・クリスマス、だな」
ほらね。
彼の名誉のために主演作を調べたら「キャッシュトラック」というのがあった。ごめん、ジェイソン。観てないです。
ガイ・リッチーといえばタイムリーなことに、前日飲んでいたツレのツレがたいそう顔の綺麗な中年男性で、エキスを吸いたい私はそれとなく映画の話をしたのだ。
その時に美顔中年男性もガイ・リッチーが好きで、ジェイソン・ステイサムの話をした…あー、エクスペンタブルズ3にジェイソン・ステイサムが出ていることを事前に知ってればな!予習は大事だ。お母さんの言うとおりだ。
先生。松尾スズキくんが「ハゲモテ」って言いました。
ジェイソンは圧倒的な強さとチャーミングさを持った英国男性で、
劇中でもその弟的な生意気さと子犬っぽさと、爆笑しない程度のウイットを駆使して、スタローンの右側ポジションを獲得している。
ハゲてる?いいじゃない。テストステロン(?)のおかげだよ。
こんなカワイイハゲ、モテざるを得ないでしょ。ハゲモテでしょ。
かわいいよ、ステイサム。後で「スナッチ」観ような…。
そんなことを思っている間に、事態は展開していく。
大切な仲間が先頭により瀕死の重体に陥り、病室に「幸運のリングだ」と言って、ごっついシルバーリングを置くスタローン。
これから始まる恐ろしい戦いに赴くために、古い付き合いの仲間をリストラする決意を固める。
屈強な男たちをパブに集め、円卓を囲むスタローン。
男たちは憔悴し、背中を丸めている。
説得をするスタローン。の、手に、あの、さっきの指輪ハマってない!?
ちらっとだけど確かに見えた、あのごっついリング。
友人、まだ入院してますよね!?見せただけ!?
と思ったら、別カットでは外していた。あーゆーのは心臓に悪い。
エクスペンタブルズは皮肉か謙遜か
メル・ギブソン、アーノルド・シュワルツェネッガー、ハリソンフォード、アントニオ・バンデラス…
80~90年代を激しく、時に甘く彩ったスターたちがじゃんじゃん出てくる。
お陰でジェット・リーが小物扱いだ。
「孤狼の血」に二宮和也が出たらこんな感じだろう。
二宮君は演技が上手で好きだが、呉原警察署では生きていけない。
そもそもエクスペンタブルズは「消耗品」という意味で、埼京傭兵部隊のチームメイトはどこか欠陥を抱えながら、国を背負って戦っている。
かつてロッキーを始め様々な人気作の主演を務め、神格化されたシルベスタ・スタローンだが、それでも衰えには勝てなかったのか第一線から退く。
エクスペンタブルズでは脚本にも関わり、己を皮肉るようにセリフを綴っているようなシーンもある。
シュワちゃん「2人の女房と3人の子どもは理解してくれないがな」
(実際に離婚歴もあり、子どもを失くしているスタローン。)
バンデラス「道があるだけマシです。今のオレにはそれすらない」
(道→仕事、と思うと泣ける)
その他も「傭兵」→「役者」に置き換えると、切ないセリフが盛りだくさんで、私が共同脚本してたら泣いちゃう。笑えない。
「いやー、きっちーっすよ!スタローンさーん!」とか言えない。
そういえば、この映画はわびさびを感じてもいいのだった。
ノブ「ロッキー4の情報はもうええ!」
適宜AとFがロッキーネタとか、スタローンの私生活ネタを披露するので、色々と情報がない交ぜになってきた。
このタレ目でごっついおじいちゃんは、かつてプロボクサーで兵士で、エイドリアンを仲間に寝取られて、仕事もなくてヤケになってたけど、今は傭兵部隊で仲間に慕われている。OK?
限りなく続くドンパチ、エクスペンタブルズに当たらない弾、素手ゴロで闘うメルギブとスタローン、当時65歳のスタローンをヘリで吊るすハリソン。
色々あったけど、仲間が残ってヨカッタネ!オジイチャン!と、またパブでのむ仲間たち。
ショットで強い酒を煽った後、スタローンの為にビールを運ぶステイサムのニコニコ顔は、息子でも孫でもない、可愛い彼女か忠実な犬のようだった。
笑いもせず受け取るスタローンに、メロメロのステイサム。
「来週何観ます?」
「セッションで!」
ハゲモテの残した後遺症は、大きい。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?