【009】井の中の蛙短編集

大鍋一品料理からスタートした料理道も、酒好きが相まって、3年経つ頃には肴をよく作っていた。
きんぴらごぼうは家庭の味として継承しても良いくらいである。
ちなみに私は牛蒡と人参は千切り派であるが、妻は笹掻き派なので、既に家庭内で分断している。
毎回の千切りに煩わされていた大学生の私は、千切りセットを商品化すれば、あとは火に掛けて調味料を加えるのみでよく、画期的なのでは、と友人に真剣に相談した。
「そういうものは既にもう商品化している、恥ずかしいことを言わないでくれ。」とひどく呆れられた。
おかしい、私が普段利用していたスーパーには千切りキャベツはあっても千切り人参など見たことがなかった。
帰り道に普段はいかない大手チェーンのスーパーに寄ると、確かに売っていた。

買って早速調理したが、予想通りとても便利であった。

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昨年、妻の実家からホームベーカリーを貰って以来、スーパーやパン屋でパンを買う機会が激減した。
スイーツパン等も色々作れるコースがあるようだが、食パンばかり焼いて宝を持ち腐らせている。
食パン1斤を5枚切りにする場合、縦に切り山型にするのが普通なのだろうが、私は横に切り正方形にしている。
そして底面の方から食べる。
この食べ方の嬉しいところは、パンの最後、山の部分は気泡が多く身の詰まりが少ないため、フレンチトーストをすると卵液の染み込みが良く美味になる点である。
この事実に気が付いてから我が家は3日に1度はフレンチトーストの日としている。
卵を牛乳で割る、変哲の無いレシピであるが、ある時牛乳を切らしたので代わりにヨーグルトを用いた。
焼きあがったフレンチトーストはチーズケーキのように濃厚で大発見、欣喜雀躍である。

これはレシピを公開すればかなり流行ると思ったが、念のため検索すると山のようにレシピが溢れ出てきた。

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 新宿で所用があったため、久しぶりに電車に乗った。
主夫になってから、近所のスーパーへの買い出しのための外出はよくするが、電車に乗ってまでの遠出は滅多に行わなくなった。
せっかく遠出するので昼食にインド料理を食べようと、京王線の幡ヶ谷にあるお店を目指すことにした。
京王線に乗るのは数年ぶりである。
訪れる度に改装工事で姿を変える新宿駅を、上京初日のような足取りで京王線の改札を目指すと、京王線には「京王線」と「京王新線」があるようだ。
ここ数年、新路線が開通したなんてニュースは記憶に無い。
地下通路を通っている内にパラレルワールドに迷い込んだのか、百貨店の自動ドアをくぐった拍子に数十年後にワープしてしまったか、どちらかだろう。
異世界の新宿から無事辿り着けるか大きな不安はあったが、「京王線」の各駅停車に乗り込んだ。
新宿駅から幡ヶ谷駅は2駅なのでこの奇妙な世界も5分少々で抜け出せる筈である。
しかし、何と次の停車駅は笹塚駅、新宿駅から3駅目の駅である。間違いなく寝ていなかったのに、やはり時空が歪んでしまったのか。

どうやら「京王線」は各駅停車でも初台、幡ヶ谷には止まらない路線で、この2駅に行くには「京王新線」に乗らないといけないようである。
そして京王新線は40年も前に開通していた。
時空は何も歪んでいなかったが、「新線」といつまでも新物がってチヤホヤしない方が良いのではないか。

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 今やIT全盛期である。
井の中に居ても日本海溝の深さを知ることは可能であるし、何気ない呟きが書籍化することもある。
私のエッセイを洞察力に優れた純文学と評してくれる慧眼の識者も、世界中に1人はいるかもしれない。

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