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大学のミュージカルに入りました

歌も演技も何の経験もないまま、大学のmusicalに入った。振り付けもオーケストラも学生がやっている、いわゆる部活やサークルというやつだ。

数か月前の私に、"ベルギーの大学でオーディション受けてミュージカルに入って、けっこう大きい役をもらって演技してるんだよ!"なんて言ったら、驚きとうれしさでとても幸せな気持ちになったであろう。笑
そんなこともあるのだ。


Open rehearsal

引っ越してsemesterが始まるころ、バイトやら、大学の学生団体やら、いろんなものにsign upしていた時期があった。そうして情報を取るようになったもののひとつがmusicalだった。
そして、ある日、今度open rehearsalがあるよ!というのを見た。誰が来てもいいもので、musicalをやってみて、入るかどうかを決めていい、というもの。
行ってみようかな…でも経験一切ないしな…と、いろんな不安を抱えながら当日は昼寝をして、ぎりぎりだ~~というタイミングで行った。そして、みんなで歩きながら歌うような練習と、グループで台本をもらって役を決めて、演技してみる、というのをやった。演技では笑わせることができた。始まってみたら、とても…楽しかった。我をも忘れる楽しさだった。

ここでは、"誰でもアンサンブルには入れるけど、せりふやソロ歌があるような役がほしいならオーディションを受けてね"と言われた。曲や何やらの相談は気兼ねなくしてね、と言われ、どうしよう…と思ったので、幹部(という表現が正しいのか)に相談した。

「大学1年目?寮に住んでるの?」
「…いや。Master'sなんだよ」
大学の寮は1年生限定なんです…つまり、大学生に18歳と思われた32歳は私です。苦笑

「ほかに入ろうと思ってるクラブはある?」
「LGBTQIA+の団体を考えてる。Because I'm ace!」
「Cool! ここにも何人かいるわよ」
まじで。こんなに簡単にcoming outしてしまったで。

Open rehearsal後、家に帰ると、キッチンには誰もいなかった。
風にあたりたい気分だったので中庭に出て、ベンチに寝転がって空を眺めた。空は、少し雲がかかっていて、暗かった。しばらく、横たわっていた。誰も来なかった。
そうして呼吸をしながら、この感覚だ、と思った。好きなことをやった感覚があった。とても充実していた。

Acting classは、NYの大学にもあった。Performing arts majorの友達も、そうでなくてもacting classを取っている友達も、何人かいた。
”Actingを楽しめるタイプにはとても見えないけれど、もしやりたいと思うなら、やってみるといいと思うよ”と、強く勧められたわけでもない記憶だけが残っている。ここでのactingは即興な上に、なんでもありで(記憶喪失になってしまうとか、かなりcurseもしているイメージだった)、ごちゃごちゃしてうるさそうで、私は全然惹かれなかったし、アメリカのlate night showsやcomedyを見始める前の話だ。

Hey, guess what? I'm acting now!

Audition

そうして私は、なんと、オーディションを受けることになった。
台本と役の情報をもらい(海賊の話)、どの役がおもしろそうかな…といくつか候補を考える。歌と演技両方受けることになったが、演技はその場で台本を渡されるし、グループで配役も決めるし、何より私の心配事ではない。私の心配事は、ひとすじに、歌であった。というのも、声が通らないことが理由でボイトレを習っていた私である。

曲を選ぶところから(Hamiltonにした)、部屋で練習したらとなりや上下に聞こえてしまって恥ずかしい、から、ボイトレで習ったwarm-upを色々やりながら、緊張とドキドキというか、そんな日々を過ごした。
ボイトレをやっておいてよかった…!と思いながら、audition当日もきちんとwarm-upをした。かなり声が通る状態にできた。

このaudition, ミュージカルと言えば競争がある想像をしていたけれど、受けてくれたみんなに役をあげたい、うまくやってほしい、というかんじらしく、審査する側も一緒に声出しをしてくれ、本番も高い音までちゃんと出た。

その後、演技のauditionの時間までは、待機部屋にいた。ここにも何人か幹部の子たちがいて、突然歌い出した曲がどのmusicalの歌なのかわかり、"musical peopleの楽しいところはこれよね"と言われて、とても嬉しかった。その後なぜか一緒にイギリスのdance showを見た。(何故?)

演技は、groupがあまり良くなかったな、という印象だったが、うまくできた!終わった!と、無事に幕を閉じた。

Open Night/Initiation

配役を聞く前に、ベルギーの大学のクラブの通過儀礼があった。
伝統的?には、黒いごみぶくろを着て、マヨネーズやらなんやらをぶつけられる、というとんでもないイベントなのだけど、queerな子が多いこともあってとても配慮したmusicalのため、open mic nightだった。
出し物(という表現になってしまう)をしたい人はする、強制はない、時間があまったらみんなでカラオケ、という、とても楽しい会だった。歌ったり、楽器を演奏したりを見た。

ここでは同じMaster'sの2年生で、去年musicalをやっていたという人に会い、"明日2年生のグループで飲みに行くけど来る?"と誘われて、行くことになった。趣味でつながって人脈が広がっていくって、すごくいいものだ。この人は、練習を重ねるうちに実力が認められ(というのか)、最後には結構大きい役をもらったという噂だった。だから、auditionでも、一度で全部決まるわけではない、と知っていたのはよかった。

今までmusicalsは大好きだった。NYCでBroadwayをたくさん見たし、Lin-Manuel Mirandaも好きだ。NYCにいれば、誰しもひとつやふたつmusicalsは見に行くものだけど、それ以上見に行っていて、話が通じる人とは出会ったことがなかった。
だから、一緒にやっている人たちが突然歌い出し、それがどのmusicalの歌なのかわかるだけで、とても嬉しいのだった。

Casting

この日までに配役の連絡をするから、と聞いており、気づいてみればmessageが来ていて、なんと…ヒロインのお父さん役になった。
お母さん役は希望のひとつとして伝えてあったが、お母さんよりもせりふの多いお父さん役だった。性別については、女性の方が多いので、男性役を女性がやることはよくある。ちなみに、musicalの男の子たちは、基本的にみんなgayなんだろうと思っている。。。

ともあれ、心配して、練習して、うまくできた!と思った歌のソロはない役で、何の心配も準備もしていなかったactingが評価を得た、という役だった。かといってショックではない。お父さんの恰好・キャラクターで踊ったり歌ったりするのは楽しいだろう。

聞いていた通り、auditionを受けた人に役を与えるため、役を増やしてせりふを分けているところがいくつかあった。私のはそれではなく、ステージにいる時間は長くないが、元々せりふが多い役だった。つまり、それなりの評価を受けたということだ。

以降、table readがあって読んでみるも、せりふの声の高低がどれも一緒で、つまらないな、と感じる。それでも私が最適だと思って選んでくれたのだ。相談して、実験して、いろいろ演じてみればいいのだ。

役について

"Stock-up and whiny"というのが、説明として書いてあった。私自身の性格とかけ離れすぎていて引き出しから出せないので、この役を思わせる人やキャラクターはいるだろうか?と考える。これが私のacting methodのようである。
そして、一昔前が舞台なこともあり、男尊女卑なせりふも言うし、ちょっと抜けている賢くないところもあり、嫌われ役なところもある。なんせmusicalが初なので、自分=役の印象を持ってほしくないな~と思い、好きにおしゃれして練習に臨むことにした。私自身はピンクの花柄のワンピースとか好きなんだけど、役は男尊女卑なお父さん…と、とても不思議な状態になった。
役の恰好で来てと言われたことはないんだけど、ヒロインの子が大きいスカートを履いてくることはあった。考えてみれば、私以外にも男役をやっている子たちはいるし、みんなタイツにスカートという出で立ちだからして、気にすることはないんだけどね。。

その後

以降、週に1-2回、練習に参加することになった。毎週練習することが違い、歌だったり、あるシーンに出る人だけで演技の練習だったりする。
数か月前の私がおどろいたであろう状況にも、すぐに慣れてしまうもので、歌の練習はつまらないなー(私は絶対音感)、なんて思うようになった。けれど、演技のけいこや、ダンスのふりつけになると、とても楽しかった。練習の後は、いつもご機嫌な気分で家に帰り、キッチンにいるhousematesに、Yo-ho-ho! なんて言うのだった。すると、housematesも、今日はmusicalだったんだね、と言ってくれる。

うちは母が人形劇をやっていたことがあり、いとこも演劇部だったし、いとこの家は昔から宝塚ファン。これはruns in my familyと言っていいのではないかと思う。帰省したときには、演劇部だったいとこに演技の相談をし、なんだかとても盛り上がって、つながれて幸せな気分になった。

そういうわけで、musicalに入った。
この歳で、経験もないのに、大学生に混じって、musicalをやるってどうなのよ?と思ったけれど、そんなことは誰も、文字通り誰も、気にしなかった。そもそも年相応に見られていないのだ。笑
必要なのは、勇気と、やりたい気持ちだった。自分が許可を出せば、それでいいのだ。

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