厚生労働省による日本初の「飲酒ガイドライン」が2月に公開!! その飲み方、実は治療が必要かも!?お酒と上手に付き合うためには
2024年2月に厚生労働省から「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(*1)が発表され、お酒との付き合い方に改めて注目が集まる中、減酒治療アプリの研究開発を行うCureAppは2024年3月に減酒治療に関するメディアラウンドテーブルを開催いたしました。その内容から抜粋し「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の背景や解説を中心にお話しします。
*1 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf
<解説者>
国内初「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が公表、背景は「減酒・早期治療の重要性」
今年の2月、厚生労働省から「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が発表されたことをご存知でしょうか。このガイドラインは『アルコール健康障害の発生を防止するため(中略)自らの予防に必要な注意を払って不適切な飲酒を減らす』ことを目的に作成されたものですが、ここに至るまでに日本国内ではアルコールに関する様々な法律・ガイドラインが作成されてきた背景があります。2013年の「アルコール健康障害対策基本法」成立に始まり、2018年の「アルコール薬物使用障害の診断治療ガイドライン」刷新と続いてきました。この流れの中で「減酒」という考え方が提唱されはじめました。
それまでアルコール依存症の治療目標の基本は断酒だとされていました。アルコール依存症が重症化すれば飲酒量のコントロールができなくなるため断酒が必要であることは確かです。ですが、断酒を強調することで重症度に関わらずアルコール依存症の方が治療を敬遠してしまうという問題がありました。そこで、「断酒目標」を基本としながらも「減酒目標」も重要という考えが国内のアルコール依存症の専門家の間でも少しずつ広がってきました。国内初の飲酒量低減治療薬「セリンクロ錠」(*2)が発売されたのもこの時期です。 2021年に策定された「アルコール健康障害対策基本法」に基づく第2期「アルコール健康障害対策推進基本計画」には、アルコール依存症の早期治療に関する内容が多く盛り込まれました。そして2024年、飲酒は少量であっても様々な害があることが明記された「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が発表されました。これは、少量であればアルコールは健康に良いという言説を否定する多くのエビデンスに対応したものです。
(*2) セリンクロ錠10mg(ナルメフェン塩酸塩水和物錠) 大塚製薬株式会社
あなたも実は危ないかも?すぐできる飲酒問題スクリーニングテストをやってみよう!
ここで一度、AUDIT(*3)というアルコールに関する問題をスコアリングするスクリーニングテストがあるので、ご自身あるいは飲酒習慣が心配な人を想像して答えてみてください。
「正常飲酒」の範囲は、40点満点中7点以下です。8点から14点は「危険な飲酒」とされ、健康に色々な影響が出てくるとされています。そして15点以上だと「アルコール依存症(疑)」とされています。「危険な飲酒」とは、アルコール依存症に至っている可能性は低いが、今の飲酒の仕方では先々に身体的、精神的、社会的な問題を抱えかねない状態を指しています。また、「アルコール依存症(疑)」の方は医療機関に相談するべきとされています。「アルコール依存症(疑)」の方の一部が「アルコール依存症」の診断基準を満たすことになりますが、既に述べたように「アルコール依存症」による問題は人によって軽重があります。このうち、身体的、精神的、社会的問題がそこまでひどくなっていない方に対しては、既に述べたように「減酒」という治療目標の選択肢が出てきました。こういった方々に対しては、依存症治療を専門で行う医療機関以外、例えば一般的な内科クリニックなどでも早期に治療を提供しようという考え方が、現在のガイドラインや第2期「アルコール健康障害対策推進基本計画」には含まれています。今私たちが開発している減酒治療アプリは、そのようなシチュエーションでの診療を補助するためのものなのです。
AUDITをやってみよう
(*3) 参考:AUDIT https://kurihama.hosp.go.jp/research/pdf/20140604_hoken-program3_06.pdf
身近に通える「減酒外来」の普及を目指す
アルコール依存症疑いの方は日本国内に100万人超(*4)とも言われてますが、実際に治療を受けている患者はわずか10%程にとどまります。そこにはいくつかの原因がありますが、私達が着目しているのは次の2点です。
1つ目は、専門医療機関への抵抗感です。現状依存症治療は専門の医療機関で行われる事が多いですが、軽症の患者にとっては敷居が高いものです。まずはかかりつけの内科などで相談・治療したいという意見は多いですが、アルコール依存症の治療を提供している内科医療機関は現状多くありません。
2つ目は、早期治療のためのリソースの不十分さです。今後早期治療を担ってほしいと期待されている内科では短い時間に多くの患者を診察しなくてはならないのが現状です。アルコール依存症の治療の基礎であるとされる心理社会的な治療をしっかり提供する時間的な余裕は医師にはありません。また、専門でない治療法のトレーニングを受けるための時間もなかなかとれないはずです。
CureAppのミッションは「ソフトウェアで治療を再創造する」、全ての人が地域的な格差なく、安心して、持続可能なコストで、いつでも場所時間の制約なく良質な医療を享受できることをミッションにしています。2019年からは減酒に関するプロジェクトを開始し、先ほどの2つの課題を減酒治療アプリで解決したいと考えています。目標は非専門医療機関(精神科の診療や一般内科など)で広く減酒外来が提供される世界の実現です。
患者は受診と受診の間にアプリを使ってさまざまなインプットを受け、その推奨に従ってアルコールを減らすための行動を実践していきます。そこからどういう時にお酒が増えるのか、その時に何をすべきかを身につけます。そして月に1回は受診して医師と一緒に目標を調整します。患者を励ますのはアプリではなく人間がやるべきだとおもいますので、手厳しいことは全部アプリに言ってもらって、医師は「よく頑張ってるね」と言いながら心身のケアをしていくイメージです。
(*4) 尾﨑米厚 and 金城文. (2020) ‘アルコールの疫学 : わが国の飲酒行動の実態とアルコール関連問題による社会的損失のインパクト (第1土曜特集 アルコール医学・医療の最前線2020 UPDATE) -- (アルコールの基礎医学)’, 医学のあゆみ, 274(1), pp. 34–39.
「あのとき減酒していれば」を少しでも減らすために
我々が減酒治療アプリによって実現したいのは、アルコール依存症における早期治療とステップドケアです。ステップドケアとは、問題が重篤なレベルまで至っていないアルコール依存症の方がお酒の量を減らしたいと思った時に、様々な医療機関で治療アプリの処方が受けられ、必要に応じて薬物療法も受けられ、それでもだめなら専門医療機関にスムーズに受診できる、といったようなステップを踏んでいける治療体制のことです。アルコールは少量でも様々な病気の原因になります。不適切にアルコールを取り続け、病気になってから「もし知っていたらあんなに飲まなかったのに…」ということを少しでも減らしたいのです。そのための手段として、現在開発している治療アプリが活用されるとよいなと考えています。