ノンレム列車
今年4月から小学生になる次女は保育園でのお昼寝がなくなり、夕方は疲れがピークに達する。
その日もとうとう歯磨きをせずに眠ってしまった。
寝顔を覗き込みながら長女が言う。
「あーあ、ノンレム列車に乗っちゃった」
私の脳内に突如列車が現れる。
最近読んでいる本の影響からか、それは壮大な緑の山々を切り開くように進む、黒い蒸気機関車だった。たぶん日本ではないと思う。
列車が通り過ぎると、私は聞く。
「…ノンレム列車?」
「うん、寝てから2時間はぐっすり眠ってて、話しかけても反応しないの。」
やはりノンレム睡眠のことかと確信する。
と同時に、"ノンレム"は固有名詞ではないのかという、何故か少しがっかりした気持ちがふわっと浮かび、消えた。
「おもしろいね。ノンレム列車。どこで知ったの?その言葉。」
「保健の先生に聞いたの」
何と素敵な先生だろうと感激した。
是非その列車の停車駅を教えて下さい、先生。
そういえば先日キャベツを切っているとき、前夜に見た夢の残像が突然脳裏に瞬いた。
人間の子供たちの死を悼み、小象が大粒の涙をポロンと流す夢。
何故このタイミング?という瞬間に、夢の欠片を思い出すことがある。そして一瞬で消えてしまう。思い出したことすら、忘れてしまうから不思議だ。
何故、キャベツを切っているときに思い出したのだろう。
その夢の前後のストーリーは思い出せない。その記憶をどうにか掬いとろうとしても、指の間からするするとこぼれ落ちて消えてしまう。
小さな象が悲しんでいるその時、私はノンレム列車に乗っていたのだろうか。
「いーなー。ママも乗りたい、ノンレム列車。」
長女は笑った。
マシュマロのようにふわふわで、ほんのり香ばしく色付いた頬っぺたを、時々むにゃむにゃ動かしながら眠る次女。
ノンレム列車の乗り心地は、どうですか。
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