見出し画像

顧客の声を聞くべき理由

大企業が新規事業に取組む時、何から始めれば良いでしょうか?

市場トレンドのリサーチ、スタートアップの情報収集、アイデア・ブレスト・・・いいえどれも違います。最初に取組むべきは「顧客の声を聞くこと」です。彼らが何を課題に感じ、何を求めているのかを知ることに、革新的なサービスやプロダクトを作り出すヒントが隠されています。

この記事では、顧客の声を聞き、彼らの声に潜むインサイトに基づいてプロダクトやサービスを開発する考え方と事例を紹介します。

1. 顧客の声を「ジョブ理論」で考える – Job To Be Doneを発見しよう-
顧客の声を聞く目的、それは「Job To Be Done(ジョブ トゥー ビー ダン)」を発見することにあります。「Job To Be Done」は破壊的イノベーション理論の権威クレイトン・クリステンセン氏が提唱した「ジョブ理論」の中で提唱されているコンセプトです。ジョブ理論とは、「顧客はジョブ(課題)を持っており、それを解決するためにサービスやプロダクトを用いる」というものです。この理論の特徴を簡潔にご紹介したいと思います。

① 特定のシチュエーションで顧客が成し遂げたい進歩(ニーズ、ゲイン)を”ジョブ”と呼ぶ

② ジョブを解決する手段として顧客は特定の製品やサービスを使う。これを”雇う(ハイア)”と呼ぶ

③ 顧客が置かれた状況によって、ハイアされる製品やサービスは異なる

④ ジョブの解決によって、顧客は報酬を得ることができる。

『ジョブ理論』クレイトン・M・クリステンセン(著)より引用、編集

画像1


ジョブ理論とは「顧客はジョブを持っており、解決するためにサービスやプロダクトを用いる」というシンプルな理論です。次の章では、このジョブ理論を活用し、実際のビジネスケースを見ることで「顧客の声を聞き、ジョブを発見する」ことの重要性や、ジョブ理論の活用方法についてご説明します。

2. 事例1 Netflix 「いつでもどこでも観たい時に作品を観れる」
最初にご紹介する事例は映画、ドラマ、アニメ、ドキュメンタリー、あらゆるジャンルをサブスクリプション(定期購読型)で視聴できるサービス「Netflix」です。

彼らが解決したユーザーのジョブを一言で表現すると「いつでもどこでも観たい番組を観れる」ことです。Netflixが登場するまで、映像作品を視聴する体験にはいくつかのジョブがありました。例えば、映画館やビデオレンタル屋などへの移動や、自宅テレビでの番組開始時間にテレビの前にいないといけないといった時間的制約がありました。

VHSやDVD、HDDレコーダーといった録画・再生機器が発展することで「いつでもどこでも観たい番組を観れる」というジョブを解決しました。録画容量の増加や映像の解像度の高さなど、技術的進化はユーザーにとって嬉しい進化です。昨今は録画・再生機器を生産するメーカーがその技術の高さを徹底的に追い求めています。

しかし、ユーザーは本当に録画容量や解像度の高さを求めているのか再点検しなくてはいけません。各社が録画再生機器の開発に取り組んでいる最中に「いつでもどこでも観たい番組を観れる」というジョブを異なる形で解決する企業が現れました。それがNetflixです。

画像2


Netflixは元々DVDを宅配レンタルするサービスを展開していました。顧客の「いつでもどこでも観たい番組を観れる」というジョブが解決されていないことに気付いた彼らは、インターネットを駆使し、映像コンテンツをネット配信する事業に転換しました。

インターネットの通信速度向上、サーバー価格の低下タブレットやスマートフォンなどのデバイスの普及などの変化にうまく適応したNetflixは結果として急成長を遂げました。「顧客の表層的な声に潜む、深層的なジョブ」を見つけること、そして解決に適切な手段を用いることが、成長する事業を創出するために重要なlことなのです。

<Netflixの事例のまとめ >

・Netflixが解決したJob To Be Done:いつでもどこでも観たい番組を観れる

・解決を可能とした技術的背景:通信速度の向上、サーバーの価格下落、タブレット・PCなどの視聴デバイスの普及

・結果として変化や衰退を迫られた業界/サービス:レンタルビデオ屋、ハードディスクレコーダーメーカー

3. 事例2 iPod「 聞きたい時に音楽を聞く」
次に紹介する事例はアップル社が開発した「iPod」です。iPodが解決したジョブは「いつでもどこでも聞きたい時にお気に入りの音楽を聞く」というものです。しかし、このジョブを先に発見し解決したプロダクトがありました。それはSONYが開発した「ウォークマン」です。

ウォークマンは音楽を記録したメディアを本体に挿入し、イヤホンを挿すことで、歩きながら音楽を聴くことを可能にした画期的なデバイスでした。カセットテープ、CD、MDなどの外部の記録メディアの軽量化と容量の増加によってウォークマンは発展を遂げました。しかし、メディアに記録できる曲数や分数には限界があり、本当の意味で「いつでもどこでも聞きたい時にお気に入りの音楽を聞く」というジョブを解決はしていませんでした。

そこで誕生したのがiPodです。iPodは「持っている全ての音楽をポケットに入れて持ち運べる」という画期的なコンセプトと共に登場しました。HDDの小型化、大容量化という技術進歩も後押しする形で、その他のメディアに比べて圧倒的な曲数の記録を可能としました。また同時に従来のウォークマンが抱えていたCDやMDの入れ替えという手間を削減することもできたのです。iPodもまた顧客のジョブを正しく捉え、適切な技術や手法を用いてジョブを解決に導いた成功事例になります。

< まとめ >

・iPodのJob To Be Done:いつでもどこでも聞きたい時にお気に入りの音楽を聴く

・解決を可能とした技術:HDDの小型化、大容量化

・結果として変化や衰退を迫られた業界/サービス:MDウォークマン

4.「思い込みの顧客像」と「自社ビジネスの否定」を突破できるか。
新規事業に取り組むとき、まず「顧客の声」を聞き、彼らの声の中に潜む普遍的なニーズである「Job to Be Done」を発見することが、最初にやるべきことです。Job to Be Doneを正しく捉え、それを解決する事業を創出することができれば、Netflix、iPodのように成長可能性のある事業を実現することができるでしょう。

この記事では2つの事例を通して顧客の声を聞き、そこに潜むジョブを発見すること、ジョブを解決する適切な手法を採用することの重要性を説明しました。しかし、ジョブを発見し、そのジョブを解決に取り組む企業は幾つかの課題に直面することになります。

1つは「顧客はきっとこう考えているであろう」という先入観です。VHSやHDDの事例のように、記録容量や画面の解像度の高さを顧客が求めていると信じ、競合に勝負を仕掛けた結果、Netflixのような動画配信サービスという商機に気づくことに遅れてしまいました。

このように「自社のプロダクトやサービスを使ってくれている顧客はきっとこう考えているだろう」という先入観を捨て、顧客の声に潜むジョブを発見することは非常に困難です。よって企業は、「自社が考える顧客のジョブ」と「実際の顧客の持つジョブ」はは異なる可能性があると考えなくてはいけません。

画像3


もう1つの課題は「自社の既存ビジネスを否定することになる可能性」という現実に向き合うことです。これは大企業が抱える最も重要な課題です。顧客の声を聞き、ジョブを発見し考えた理想の解決方法が自社のビジネスモデルを否定することに繋がる可能性があります。

もし、VHSやHDD機器を生産する企業がネット配信サービスに乗り出そうとしたならば、自社のビジネスを否定し、成長を阻害する(いわゆる「カニバる」)と、社内批判され、実行できなかったことでしょう。

この課題を生む人間の心理のことを行動経済学では「現状維持バイアス」と呼ばれています。「変化することにより利益を生む可能性があっても、現状維持する方がよいという偏見・先入観があるため、変化を避ける心理的作用が発生する」という理論です。新しいことを始める時、人間は現状維持バイアスに陥いる傾向にあります。それは新規事業も例外ではありません。

大企業は自社の成長を阻害するかもしれないから新規事業に取り組まない、この新規事業はダメだと判断する「現状維持バイアス」という壁を打破し、顧客のジョブを発見し、適切な技術や手段を用いて解決していかなければいけません。この壁を打ち破り新規事業を成功させることは、企業が現在もっているバイアスを打破するだけでなく、企業全体を変革することに他なりません。

画像4


もしあなたが現状維持バイアスを打破し、新規事業を成功させたいと考えているならば、、ぜひ私たちCurationsにお声掛けください。顧客の声を聞き、ジョブを発見するだけでなく、企業内でイノベーションを実現していくサポートをさせていただきます。わたしたちと共により良い未来を創造していきましょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?