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短編シナリオ『#12 話変わるんだけどさ』

萌子「落ち着いた?」
早紀「すいません、ご迷惑お掛けして」
萌子「全然。むしろごめんね、車の免許持ってたら「海でも行くか」って誘えるんだけど」
早紀「振られた本人が運転しちゃって」
萌子「しかもファミレス来ちゃって」


夜10時。
ファミリーレストラン。ハンバーグが有名なチェーン店。時間のせいか、客は少ない。
入口から男性客3人が来て音が鳴り、店員が駆けつける。

早紀・萌子、奥のテーブル席に座っている。

萌子「何食べる?」
早紀「……要らない」
萌子「要らないわけないじゃん、何いる?」
早紀「ダイエット中だから要らない」
萌子「失恋してるときにダイエットしてる場合か。お腹空いても知らないよー」

萌子、タッチパネルでフライドポテトを注文する。

早紀「私食べないよ」
萌子「いいよ食べなくて」

萌子、ハンバーグのページを開く。

萌子「チーズインハンバーグか、普通か……」

早紀、萌子を見つめる。

萌子「(タッチパネルを見ながら)なんだよ」
早紀「よく食べるね」
萌子「お腹空いたからね」

萌子、ハンバーグを注文する。

萌子「でさ」

萌子、テーブルに乗り出して早紀を見つめる。

萌子「私にどうして欲しい?全肯定して欲しい?アドバイスして欲しい?何も喋らずうんうん聞いてて欲しい?」
早紀「……関係無い話して欲しい」
萌子「関係無い話……」
店員「お待たせしました、フライドポテトです」

テーブルにフライドポテトが置かれる。

萌子、フォークを2人分取って一つを早紀の前に置く。

早紀「食べないって」

萌子、無視してフライドポテトを食べる。

萌子「……最初に春菊に春菊って名前付けたやつって、春菊の気持ちなんも分かってないよね」
早紀「……は?」
萌子「パンダって元々はジャイアントパンダよりレッサーパンダが先らしいよ」
早紀「え、萌子」
萌子「ジャイアントパンダがパンダって呼ばれるようになっちゃったから、レッサーパンダはレッサーパンダって呼ばれるようになったのよ」
早紀「……関係無いね」
萌子「ん?うん関係無いね。でも春菊は、菊有りきの名前なんだよ。春って季節があって、菊って言う花があって、なんか春の菊に似てね?ってなってんだよ。私が春菊なら怒っちゃうかも、手出ちゃうかも」
早紀「……キク科だから菊って付けられるのかな」
萌子「んーだとしても嫌だね。うちらはヒト科だけど、ヒトって名前は付けられたくないし。犬のこと、イヌ!って呼んでんのと一緒よ」
早紀「確かに嫌かも」
萌子「そうでしょう。自分っていう個性を潰されてる気分。レッサーパンダも」

萌子、フライドポテトを食べる。

萌子「レッサーパンダだって、最初はパンダって呼ばれてて、自分はパンダなんだって思ってたのに急に自分より大きくて白黒な動物がパンダって呼ばれて人気になって、おかしいよね」
早紀「人間達が勝手に付けて、勝手に名前譲って……」
萌子「レッサーパンダもパンダって呼ばれたいと思うんだよね。だって元々自分の略称だったじゃん」

萌子、フライドポテトを食べる。

店員「お待たせしました。ハンバーグです」
萌子「はーい」

ハンバーグが萌子の前に置かれる。

鉄板に乗るハンバーグから良い匂いがする。

萌子「ソース貰えますか」
店員「かしこまりました」

店員、ソースを小鉢に入れて萌子に渡す。

ワゴンを動かして去って行く。

萌子「いただきまーす」
早紀「あのさ」
萌子「ん?」
早紀「私が悪かったのかな」
萌子「(遮るように)悪くないよ」
早紀「……何が、とかまだ言ってないんだけど」
萌子「言わなくてもいいよ。早紀悪くないし」
早紀「そう、かな」
萌子「そうだよ。私そんなに好きじゃなかったし、ろくな奴じゃなかったよ。それにね、早紀はそんな簡単に軸がブレるような人間じゃない」
早紀「どういうこと」
萌子「早紀の考えを変えなきゃ付き合わないような奴なんて、早紀に必要ないんだから」

萌子、フォークをフライドポテトに刺す。

萌子「早紀、どっち派?」

萌子、付け合わせのケチャップとマヨネーズを見る。

早紀「え?」
萌子「ケチャップとマヨネーズ。これは2通り楽しめるように置いてあるの。ケチャップを付ける人がいても良いし、マヨネーズを付ける人がいても良いって意味なの。分かる?」
早紀「分かるよ」
萌子「早紀が選んだ方を、頑なに否定して意見を変えさせる人がいるとしたら、そいつは早紀の楽しみを奪ってるの」

萌子、フライドポテトをハンバーグソースに付けて食べる。

早紀「あ」
萌子「これが1番美味いからね」

萌子、笑う。

萌子「早紀は?どれが良い?」

ケチャップ・マヨネーズ・ハンバーグソースを並べる。

早紀「……」

早紀、フォークを取ってフライドポテトを刺し、そのまま食べる。
萌子、目を見開いて驚く。

早紀「そのまま食べる。これが1番美味いから」
萌子「(笑いながら)そういう所が良いんだよ」

萌子、ハンバーグを食べる。
早紀、タッチパネルを捜査してハンバーグのページを開く。

萌子「食べないんじゃないのー?」
早紀「萌子が1人で寂しく食べてるの可哀想だと思ってー」

早紀、チーズインハンバーグを注文する。
萌子、笑う。


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