欲深い人間とその人間を弄ぶ神々の壮大な特撮絵巻 「アルゴ探検隊の大冒険」(1963)
1963年に公開された「アルゴ探検隊の大冒険」は、特撮映画の金字塔として今なお高く評価される作品です。ギリシャ神話を題材にした冒険活劇であり、特殊効果の巨匠レイ・ハリーハウゼンの代表作の一つとして知られています。
見どころは何と言ってもクリーチャーが今と違って粘土細工でつくられている部分であり、それが1コマ1コマ人間の手によって動かされて、生きているようにみせる「ストップモーション・アニメーション」という技法を使っているのが特徴です。
作品情報
監督:ドン・チャフィ
脚本:ジャン・リード
製作:チャールズ・H・シニア / レイ・ハリーハウゼン
音楽:バーナード・ハーマン
撮影:ウィルキー・クーパー
配給:コロンビア映画
公開: 1963年8月15日(イギリス) / 1964年2月15日(日本)
出演:トッド・アームストロング / ナンシー・コバック / ゲイリー・レイモンド / オナー・ブラックマン 他
あらすじ
ペライアスは預言者によってテッサリー王国を倒し、アリスト王を殺して王位に就き征服者になるだろうというゼウスの言葉を聞く。
喜ぶペライアスだったが、その予言には続きがあり、王位に就いてもアリスト王の子に奪われるとも言われてしまう。
ペライアスはテッサリー王国に赴き王を殺害。そして3人の子のうちの1人、娘のブライシーズを神殿内にある女神ヘラの銅像の前で見つけて殺す。
フィロミラはヘラに預けられ、そこに現れた神の使いを名乗る女が「片方はだしの男がやがて復讐にやってくる」とペライアスに言って消えていった。
その男こそ、アリスト王の子のジェイソンだった。
仇との出会い
20年後のある日、ペライアスは神の使いによって湖に落とされる。そばを通りかかった青年が彼を助ける。その青年は助ける際に片方の靴を無くしたしまう。
ペライアスはそれがジェイソンだとすぐに察知し、自分の名を明かすことなく味方のフリをしてキャンプに招く。
ジェイソンは奪われたテッサリー王国を取り戻すため、世界の果ての木の枝にかかる黄金の羊毛を取りに行き、それによって民に幸福を与え、ペライアスを殺すことを計画していた。
同じく黄金の羊毛が欲しかったペライアスは、「先に船に乗って宝を探したほうがいい、ペライアスを殺すのはその後で。力になる」とそそのかす。
ジェイソンは黄金の羊毛が世界のどこにあるのかわからないでいた。そんな時、預言者に化けていた神ヘルメスによってオリンポスに導かれたジェイソンは、女神ヘラから”コルキス”という地にそれはあると教えられる。
ジェイソンは早速船乗りを集める。集まった者の中にはペライアスから見張るように命じられた息子アカスタスも混じっていた。
船はアルガスという造船業の老人に作ってもらう。アルガスの好みなのか、その船尾にはなぜか女性の顔が据え付けられており、それはオリンポスで出会った女神ヘラと同じ顔だった。(ジェイソンにはそう見えた)
ジェイソンはそれをアルゴ号と名付け、航海に出発する・・・・
見どころ
アルゴ号に乗り込んだ一行は、様々な危機や怪物との戦いを経験します。巨人タロス、ハーピー、ヒドラなど、次々と現れる神話の怪物たちとの戦いが、本作の見どころとなっています。
特殊効果
本作の最大の魅力は、レイ・ハリーハウゼンによる革新的な特殊効果です。ハリーハウゼンは「ダイナメーション」と呼ばれる独自の技術を駆使し、ストップモーション・アニメーションと実写を見事に融合させました。特に印象的なシーンとしては以下が挙げられます:
巨人タロスとの戦い
ハーピーを捕らえるシーン
7つの首を持つ竜ヒドラとの一騎打ち
クライマックスの骸骨兵士との戦闘
これらのシーンは、60年以上経った今でも見る者を圧倒する迫力を持っています。特に、7体の骸骨兵士との戦闘シーンは、特撮映画史に残る名場面として高く評価されています。
製作の裏側
ハリーハウゼンの特殊効果は、膨大な時間と労力を要する作業でした。例えば、骸骨兵士のシーンでは、俳優の動きに合わせて7体の人形を1コマずつ動かして撮影するという気の遠くなるような作業が行われました。また、実写とアニメーションを合成する際には、俳優たちは空中の何もない場所を見つめながら演技をする必要があり、高度な演技力が求められました。
クリーチャー紹介
ヘラ&タロス(TALOS)
船の船尾の女神ヘラの導きで、最初に上陸したブロンズ島にいる聖堂の巨人です。
その時、ヘラからは食料と水以外は取ってはいけないと忠告を受けます。
でも船員の一部がそれ以外を取ってしまいます。それはタロスの銅像の台座の中にあった財宝です。
これによってタロスが動き出して大変なことに・・・
足から出てきた、いかにも熱そうな赤い液は何だったのか・・・、調べてみました。
ギリシャ神話において、タロスはもともとギリシャ共和国南方の地中海に浮かぶ島で、古代ミノア文明が栄えた土地であり、クノッソス宮殿をはじめとする多くの遺跡を持つクレタ島の守り神として登場しています。
そして毎日、島を三回走り回って守り、島に近づく船に石を投げつけて破壊し、近づく者があれば身体から高熱を発し、全身を赤く熱してから抱き付いて焼いたそうです。
胴体にある1本の血管に神の血が流れており、それを止めている踵に刺さった釘ないし皮膚膜を外されると失血死してしまうという設定。
ですからこの赤い液体は神の血であることがわかります。
ハーピー
これはブロンズ島の次の目的地、フリジアで遭遇する怪鳥です。人間とコウモリをかけ合わせたような、でも食べ物を奪うだけのそんな危険性はなさそうなクリーチャーです。
ポセイドン
これは海の神です。ただ尻尾が魚です!
必ず落石が起こるといわれ、絶対船が通れない細い海の道で現れた味方です。
これはクリーチャーではなく人間が演じています。でもこれはこれで迫力があります。
ヒドラ
目的地コルキスにある黄金の羊毛が掛かった大木のそばにいる7つの首を持つ竜。
先に黄金の羊毛にたどり着いたペライアスの息子アカスタスは捕まって死亡します。
ジェイソンは胴体部分を剣で一突きにして撃退します。
7体の骸骨剣士
黄金の羊毛はコルキスにとって国の繁栄と安定の為に必要でした。奪われた王は倒されたヒドラの歯を抜き、それをばらまきます。すると地面から骸骨が湧き出してジェイソンらを襲います。
骨なんで刺してもダメージなんてありません。
なんとか一体は頭蓋骨をはねることで撃退しましたが、一緒に戦っていた仲間がやられます。逃げ切れなくなったジェイソンは海に飛び込み、骸骨たちも海に飛び込んで行動不能って感じです。
作品の評価と影響
「アルゴ探検隊の大冒険」は公開当時、その革新的な特殊効果で観客を魅了し、大きな話題を呼びました。特に子供たちに強い印象を与え、多くの映画ファンの心に刻まれることとなりました。
本作は、後のファンタジー映画やSF映画に多大な影響を与えました。ジョージ・ルーカスやスティーブン・スピルバーグなど、後の巨匠たちもハリーハウゼンの仕事に影響を受けたと語っています。
現代の視点から見ると、特殊効果の古さや俳優の演技の大げささが目立つ部分もあります。しかし、手作業による特殊効果の温かみや、映画製作者たちの熱意が伝わってくる作品として、今なお多くのファンに愛されています。
考察
「アルゴ探検隊の大冒険」の魅力は、単なる特殊効果の素晴らしさだけではありません。
本作は、古代ギリシャ神話の持つ「未知の世界への冒険」という普遍的なテーマを、見事に映像化することに成功しています。物語は、主人公イアソンが「世界の果て」を目指す冒険を描いていますが、これは人類の持つ探求心や冒険心を象徴していると言えるでしょう。未知の世界に踏み出す勇気、そこで遭遇する驚異や危険、そしてそれらを乗り越えていく過程は、観客の想像力を刺激し、冒険への憧れを掻き立てます。
また、本作は神々と人間の関係性も興味深く描いています。ゼウスやヘラなどの神々が人間の運命に介入する様子は、古代ギリシャ人の世界観を反映しています。しかし同時に、イアソンが自らの力で冒険を成し遂げようとする姿勢は、人間の自由意志や自立心を表現していると解釈できます。
さらに、本作は「英雄」の概念についても考えさせられる作品です。イアソンやヘラクレスなどの英雄たちは、超人的な力や勇気を持つ存在として描かれていますが、同時に人間的な弱さも持っています。これは、完璧な存在ではなく、努力と成長を重ねる存在としての英雄像を提示していると言えるでしょう。
個人的な感想(ネタバレあり)
この映画はお話の内容よりも、出て来るクリーチャーを見ているのが楽しい。私は子供の頃に何度も見ました。
実際どんなクリーチャーが出てきたのかはよく覚えていましたが、ストーリー自体は全く覚えていませんでした(笑)
今回改めて見て、やっとストーリーを理解した次第です。
ストーリー的には国を奪ったペライアスに復讐を誓うものの、まんまと騙され黄金の羊毛を先に取りに行くというところから始まりました。
行く先々で多くのクリーチャーと出会い、なんとか黄金の羊毛を奪取します。
それをまるでゲーム感覚でシュミレートしているゼウスや女神ヘラさん。
この物語の主人公はジェイソンなのですが、見ようによればゼウスとヘラだったのかも・・・という感覚に陥ってしまうラストとなっています。
しかも黄金の羊毛を奪ってところで終わっており、ペライアス討伐までは描いていないので、「え、ここで終わるの!?」なんて思ってしまいました。
まあ、クリーチャーありきの作品ですから、これはこれでいいんです。
絶対的正義なし
ストーリーの後半を要約すると、ジェイソンは自分の国をとりもどし、民を豊かにするためにコルキスに向かいます。コルキスで黄金の羊毛を奪い、怒ったコルキス王は軍勢を率いてジェイソンたちを殺そうとします。
よくよく考えるとジェイソンは自分の国のために、コルキスの民を不幸にする行動を執っています。いわゆる”略奪者”です。
これでは終わり方がすっきりしないために神々を登場させ、弄ぶかのようにゲームをすることでジェイソンの悪事をすこしでも正当化する様なお話になっていますね。
要は欲深い人間と、それをあざ笑うかのように操る神々の壮大なドラマだったのだとやっとわかった作品です。
結論
「アルゴ探検隊の大冒険」は、60年以上の時を経た今でも色褪せない魅力を持つ作品です。レイ・ハリーハウゼンの革新的な特殊効果は、現代のCG全盛時代においても、その芸術性と創造性で観る者を魅了し続けています。
本作は単なる娯楽映画以上の価値を持っています。古代神話の世界観を現代に蘇らせ、冒険と成長の物語を通じて普遍的なテーマを探求しています。それは、人間の探求心や勇気、成長の可能性への信念といった、時代を超えて共感できるメッセージです。
「アルゴ探検隊の大冒険」は、特撮映画の金字塔としてだけでなく、神話と現代を結ぶ架け橋として、そして人間の可能性を探求する物語だと思います。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?