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映画The Coveをアメリカで見て考えたこと。

先日授業で"The Cove"という映画を見た。

かなり有名な映画なので名前をうつだけでもいろんな情報があがってくると思うけど、要約すると日本の和歌山県太地町で行われているイルカ漁、そして日本の捕鯨を批判する映画。アクションムービーのような構成で、Ric O'Barryとその他数名の外国人(白人)が潜入し、太地町のある入江で行われているイルカ漁の残酷さを映し出していく。2010年にはBest Documentaryとしてオスカーを受賞している。

称賛の声があがる一方で、批判も多い。日本人、特に太地町の漁師に差別的、環境活動と称したWestern Imperialism(直訳:欧米帝国主義)である、欧米のイルカ漁への影響をガン無視している etc. 

日本人は一度は見るべき映画。アンチ日本な内容と言えるからこそ。

私はそんな映画をアメリカの大学の授業でアメリカ人の教授とクラスメイトと見るという貴重な体験をしたわけで、以下はその中で感じたこと、考えたことの垂れ流し。

まず捕鯨問題に関して私の立場を言うと、捕鯨、イルカ漁はやめるべきだと思う。が、映画が推している動物愛護という理由は納得できない。高い水銀濃度+商業的価値がないという観点からやめるべき。でも今すぐ全面的に禁止というわけではなく、文化保護の観点から継続したい人は継続すればいい。イルカもクジラもほとんどの日本人はもう食べないわけだし、放っておけば勝手に廃れていくでしょというスタンス。

映画自体に関して。

多分見た人の多くは「イルカかわいそう!」か「日本文化の侵害だ!」のどちらかに行きつくのだろう。けどそれは表面的な部分に過ぎない。この映画の一番の問題点は西洋と日本では根本的に自然や死に対する考え方が異なることを映画製作者が認識していないこと。だから西洋人による日本人への価値観の押し付け、cultural imperialism に成り下がってしまっている。

分かりやすい問題点はあげればきりがないけど、こんな感じ:

太地町の漁師や警察、地元の公務員等イルカ漁に関わっている人、映画製作者から見れば「敵」にあたる人々にほぼ発言のチャンスが与えられていない。製作者達はほぼ毎日漁師と会っていて、お互いカメラを向けあっているのにインタビューは一切ない。太地町のイルカ漁の歴史や文化は勿論説明されないし、漁師の名前さえ分からない。唯一分かるのはPrivate Spaceというある男性のあだ名。

欧米諸国がイルカ漁に及ぼす影響が冒頭でちらっと紹介されるものの、基本的にガン無視されている。映画によると太地町で捕獲される多くのイルカは食用ではなく、世界各地のイルカショーのため。そして捕獲されたイルカは一生を狭いプールで過ごし、ストレスで死んでいく。なんでイルカショーのビジネスそのものをあまり批判しないのだろう?

他にもあるけどこの辺は見ればわかるからおいといて。

さて。

The Coveの最大の欠点は西洋と日本では価値観がまるで違うことを理解していない、というか理解しようとする努力をしていないことだと思う。

西洋では人間は神よりは下だけど自然界よりは上の立ち位置にいて、自然をコントロールする側の立場にある。だからどの動物の権利が保護されるべきかは人間が決める。人間に気に入られた動物は保護されるし、嫌われたものは絶滅へ追いやられていくかただ単に放置される。動物愛護運動は西洋発祥だけど、まさにこの哲学を受け継いでるなーって見てて思う。

対して日本文化の中では人間は自然の一部という考え。人間はその他動植物と共に自然界を構成する一員で、そこに優劣はない。互いに生き生かされている。だから人間の生は他の動植物の死によって成り立っているという意識が強い気がする。

別にどちらの価値観が優れているだのどうの言うつもりはない。ただ違うというだけ。

この映画は西洋人によって西洋人のために西洋の価値観に基づいて制作されている。イルカは「頭がよく」て、「かわいい」から殺すのは間違っているというのが映画製作者の主張だ。「頭がいい」「かわいい」はどちらも人間ベースの基準であってまさに西洋の価値観だ。(他に水銀にも着目しているけどあまり強調されていない。)私からするとめちゃめちゃ納得がいかない。勘違いしないで欲しいが、アンチ動物愛護なわけではない。もし仮に誰かが食べるわけでもなく、ただ楽しいからという理由でイルカ、及びその他諸々の動物を殺したのならそれは全力で非難されるべき行為だし、する。また映画が言っていることが本当で、太地の漁師が不必要な苦しみをイルカに与えているのならそれもまた非難する。それらは人間は他の存在によって生かされているというのを忘れているし、命への尊敬を踏みにじる行為だからだ。

だがイルカを食用のために必要最小限度の痛みで殺しているのを「イルカは頭がよくてかわいい」を理由に批判するのは全くもって賛同できない。私の価値観に当てはまらない。イルカを特別視することが理解できないし、殺す=命を軽視しているというのも違う。むしろ毎日死に向き合っている漁師の方がスーパーで小さくなった肉や魚を買っている人達よりよっぽど動植物に感謝していると思う。

西洋の価値観からみるか日本のからみるかで捉え方は大きく変わる。そしてThe Coveの製作者はそれに気づいていない。だからもしかしたらまともなことを言っているかも知れないのに、ただの一方的な押し付けの映画に成り下がっている。なかなか皮肉なことだと思う。イルカの権利を主張するために同じ人間である人々を馬鹿にして猛烈に避難しているのは。

この映画は文化の押し付けの危険性を認識するのにとてもいい映画だったと思う。異文化理解というのは前に思っていたほど簡単ではない。すべての主張が相手の価値観をガン無視している危うさがあるし、そしてガン無視していた場合、議論が前に進むことはない。どうしたら押し付けないですむんだろうなーとかそもそも西洋と日本でめっちゃ価値観が違うのはなんでだろうなーとか捕鯨以外にどんなところに押し付けが潜んでいるのだろうなーとかはまだこれから考えないとだけど、まず危険性に気づけて良かった。

日本人こそこの映画を見た方がいいというのはそこにある。自身の文化が非難されている時の方がその危険性を身をもって体感できるから。



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